第074話

 

 なんとか帰ってくることができた。


 神様がどうしても俺が神力解放した状態で戦っている様子を見たいっていうから、二度目の地下ダンジョン攻略したりしていて時間がかかってしまった。


 色々あって3日くらい連絡できなかったから、玲奈が心配してるだろうな。


 昨日までは何度もスマホに連絡が入っていた。でも今日は何も来ていない。連絡をするべきか悩んだけど、まずは俺の状況を見てもらう必要があると思って東雲財閥の本社ビルまでやってきた。


 ここに玲奈がいるのは官房長補佐官の清原さんに聞いて分かっている。無事に(?)彼の依頼を達成した後、ここまで送り届けてもらった。ちなみに俺が逮捕されたのは捜査ミスってことで、なかったことにされたらしい。


 それからここまで来る途中、今後国内では何も気にせず自由に動いていいと清原さんから言われた。意味が分からなかったけど、詳しくは玲奈から聞けって。



「すみません。東雲 玲奈さんって、こちらにいらっしゃいますか?」


 巨大なビルの1階にある受付に声をかけた。


「は、はい。雫石 颯様ですね。すぐにお嬢様をお呼びします」


 俺がここに来るかもしれないと玲奈が言っててくれたみたいで、話が早くて助かる。受付の横にある通路から奥の会議室に通され、そこで待つように言われた。



 会議室に入って30秒もしないうちに玲奈が来た。なんか受付の人が連絡するより先に彼女の気配が俺のいる場所に向かっていた気がするけど……。


 偶然かな?


「ハヤテ!」


 勢いよく抱き着かれる。


「玲奈、また心配かけてごめん」


「ううん。ハヤテが無事でよかった」


 数日離れていただけなのに、こうして玲奈とくっつけるのが幸せだって感じる。


「ここに来るの結構早かったね」


「ハヤテがここに来たって、愛奈が教えてくれたの」


「愛奈さん?」


「東雲グループが保有してる凄い性能のAIの名前だよ」


 へぇ。俺を玲奈の救出に向かわせるようアドバイスしてくれたAIか。いつか機会があればお礼を言いたいな。


「ところでハヤテ、は?」


 やっぱり気になるよね。


 ここに来たのは俺ひとりじゃなかった。

 神域から、とある御方を連れ出していたんだ。


「え、えっと、こちらは……」


「あっ! もしかしてアマテラス様ですか!?」


 着物姿の幼女を見て玲奈がテンションを上げている。


「実物はこんなに小っちゃくて可愛いんですね!」


 玲奈がいきなり幼女を抱き上げ、顔の高さまで持ち上げた。


「あの、玲奈。それはちょっとヤバい」

「え、なんで?」


 玲奈が幼女を抱きかかえ、不思議そうな顔で俺を見てきた。


 知らないって、怖い。

 

 玲奈さんが抱き上げているの、です。


「これが颯の言っておった娘か。確かにお主の言う通り、可愛らしい女子じゃな」


「わぁ! SNSと同じ口調だ。キャラ作りすごいね。それとも、おじいちゃんかおばあちゃんの真似っこしてるのかな?」


「玲奈、アマテラス様ってどんな御方か理解してる?」


「もちろん知ってるよ。私、この子フォローしてるもん!」


 フォローされていると聞き、神様はちょっと嬉しそうにしていた。


「日本唯一の神様ってでしょ? もし明日になってもハヤテが帰ってこなかったら、ダメもとでアマテラス様にお願いしてみようって思ってた」


「実は……。その設定、本当らしい」


「え、どういうこと?」


 神様から、玲奈になら真実を伝えて良いと言ってもらった。神様の許可があるから師匠がかけた情報規制の術も無効化されている。


「今、玲奈が抱っこしてるのは、本物の神様ってこと」


「日ノ本唯一の神じゃ。お主は良い匂いがするのぉ。今後も我を抱きかかえることを許可してやろう。光栄に思うが良い」


「あ、ありがとうございます」


 理解はできていない様子。


 いきなり神様だって言われても、簡単には信じられないよね。俺も神様に力を貰ってなかったら、こんな幼女が神様だなんて信じられない。


 まぁ、とりあえず説明はした。



「今日は玲奈にちょっとお願いがあるんだ」


「う、うん。なに?」


 神様を抱きかかえたまま玲奈が聞いてくる。

 その状態でいいんだ。


 神様も心地よさそうにしてるから良いのか。


「前に玲奈とパーティーを組んだら、ひとり暮らし用のマンションを紹介してくれるって言ってたよね? 俺は玲奈とパーティーを組んだ。だからあの時の約束を果たしてくれないかな」


「そのくらい大丈夫だけど……。でもなんで今なの? 今はハヤテ、お父様が用意したホテルに泊まってるよね」


「あの、実は俺がやらかして、神様のお家を壊しちゃったんだ。それでしばらく俺が神様のお世話をすることになった」


 黒のダンジョンを世界最速で踏破して以来、俺の実家はマスコミに24時間監視されている。そこに帰ったら大変なことになるんだ。だから日本にいる時はずっとホテルで生活をしていた。


「えっ。もしかして、ふたりで暮らすの!?」


「うん、そのつもり。ホテルだとやっぱり人の目があるからさ。できれば東雲グループが管理してて、セキュリティもしっかりしてるマンションに住みたいなって」


 SNSで顔出しもしてる神様だけど、日常生活でうっかり凄いことをしちゃうかもしれない。なるべくマスコミとかに目撃されないような環境が必要だった。


 ちなみに俺の両親は今、東雲財閥に資金提供されて海外でのんびり生活してる。玲奈となるべく離れたくないから、両親の所に行くって選択肢はない。



「……わかった。準備してあげる。でも条件がある」


「どんな?」


 家賃は払えとかかな。

 多少高額でも今の俺なら問題ない。


 一時逮捕されてたけど、銀行口座が凍結されたりはしてなかった。なんだかんだで俺がこれまで稼いだお金はそのままでよくなったみたい。


 金銭面では問題ない。


 そう思ってたけど、条件はそーゆーのじゃなかった。


 少し顔を赤らめた玲奈が口を開く。



「私もふたりと一緒に暮らす」


「そ、それって──」

 


 どどど、同棲ってことですか⁉

 

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