第072話

 

「待て待てまて。なにを意味の分からぬことを。神話の怪物が実体を得て、更に我の力を吸って強化されておるのじゃ。いくら什造の弟子だとて、そんな化け物を無傷で倒せるわけがなかろう!」


 そんなこと言われましても。

 倒せちゃったからなぁ。


「分かりやすく強さを神力として数値化してやると、大蛇の神力は十七万。それに対して颯の神力は良くて二万じゃ。並みの人間が十程度だから、今のお主でも化け物級と言って良いじゃろう。更に我の力で、お主は二十万まで神力を高められるが……ん? な、なんじゃ…神力が、上がっておる」


 ちょっとだけ闘気解放してみた。


 おへそのちょっと下あたり。下丹田って呼ばれる場所に溜まっている力が神力ってことで間違いないっぽい。俺はこれを放出することを闘気解放って言ってる。


「馬鹿な、じゅ、十二万じゃと!? 既に什造を越えておる。まさか、もう我の与えた力を使いこなせるようになったのか?」


 師匠も本気じゃないと思うんだけどな。

 あの人は力の底が全く見えないから。


 あと、神様から貰った力は使


 せっかくだから少し驚いてもらおう。


「今から本気を出しますね。闘気解放!」


 もともと持っていた力を全開放する。

 

 この全能感、久しぶりだ。

 今ならなんでも出来る気がする。


「お、おぉぉ! 神力五十万!! 素晴らしい! なんと颯、お主は既に神力を解放する術を身につけておったのか!!」


 神様が目を輝かせて喜んでいた。


 ちょっと反応がつまらないな。

 驚いてほしいのに。



 ……いや、違うか。


 神様は俺の神力が30倍になってだと思ってるんだ。


 神様から貰った力も、せっかくだから使ってみよう。


 この状態になったから分かる。

 確信があるんだ。


 大丈夫、俺なら制御できる。


 強化の第二段階に入ろう。



「神力、解放」



 神様から貰った力は、エネルギーの塊って感じではなかった。FWOで身体強化の支援魔法スクロールを使用した時の感覚に近い。


 俺自身の力に補正がかかる。


 FWOではスキルや攻撃モーションなどによって、敵モンスターに与えるダメージは何百倍って倍率になる。しかしプレイヤーの基礎ステータスの上昇率は良くて十数パーセント。


 神様がくれた『俺の力が全部30倍になる』ってバフはとんでもないものだった。



「ううぅおおぉぉぉぉおおおお!!」


 身体が弾けそうだ。

 でもまだ耐えられる。


 身体の内からどんどん力が湧き上がる。


 出てきた力で身体を強化し、更に神力を解放していく。


「な、なんじゃ!? どうなっておる!! 神力100万じゃと!?」


 たった2倍でこれか……。

 これ以上は止めとこう。


「ふぅ」


「そんな…、あり得ぬ……」


 少し俺の身体が浮いてた。

 放出される神力で勝手に地面から浮く。


 俺から周囲に放たれる神力は赤黒く輝いていた。


 凄いな。エネルギーが可視化できてる。それに身体を浮かせる力があるってことは、現実にも干渉できるはず。


 もしかしてコレ、手のひらから放出とかできちゃうのかな?


 体内のエネルギーを凝縮させて一気に放出する必殺技。


 男子の憧れですよね。

 てことで、やってみよう!

 

 右手に力を込め、押し出すイメージで。


「……はっ!」


 前方に掲げた手のひらの前に光が収束し、超高速で飛んで行った。

 

 それは神域の果てまで飛んでいき──



 地面を揺らすほどの大爆発を起こした。

 

「おぉ! 出来た!!」


 女神がこの世界にFWOの設定を同期させたから、一般人でもダンジョン内なら魔法が使える。俺もスキルで斬撃を飛ばすことは出来るが、それは全て女神の力。


 俺が女神を倒そうとした時、もし女神が俺たちの力に制限をかけたらその瞬間に戦いが厳しくなる。だからスキルや魔法以外に遠距離攻撃の力が欲しいと思っていた。


 その力を手に入れたんだ。


「なぁにが、出来た──じゃ! 我の神域を破壊しよって!!」


「あっ」


 神様が俺に掴みかかってきた。


「すす、すみません。つい」


 新たな力を得て、テンションが上がりすぎた。



「うっかりで済まされぬぞ! 我が2700年愛用してきた寝所を滅茶苦茶にしたのじゃ。この責任、お主にとってもらうからな!!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る