第071話
ボス部屋の奥に進んでいく。
薄暗くて広い空間の真ん中に、ポツンと鳥居があった。
こんなのゲームだった頃のFWOには無かった。
確か鳥居って、人間世界と神域の境界を表してるんだっけ。
ここを通れば良いのかな?
ほかにどうすることもできないので、鳥居をくぐってみる。
ぱあっ、と周囲が明るくなった。
「おぉ、凄い!」
桜が舞っていて、日本っぽい田舎の風景が広がっていた。
心地よい春の風が吹いている。
なんだか落ち着く空間だ。
「なんじゃお主は。どっから入ってきた」
ボーっとしてたら背後から声をかけられた。
気配を全く感じられなかったことに少し驚く。
振り返ると、頭に獣耳を生やした幼女がいた。
巫女服を着ていて可愛らしい。
「……えっと、こんにちは」
「挨拶など求めておらぬ。名を申せ。なにが目的でここに来たのじゃ」
神様に仕える式神的な存在なのかな?
だとしたら丁寧に受け答えしなきゃ。
「雫石 颯といいます。この世界にダンジョンを出現させた女神を討伐するため、日本の神様に力を貰いにきました」
「なに? お主が? 什造ではないのか。日ノ本最強の者を寄越せと言うたのに」
不満げな顔で幼女が俺の周囲を回る。
「ふむ。それなりに神力は使えておるようじゃな」
神力って、忍者が使う力のことかな? さっきまで闘気解放してたし。完全にオフにしたつもりだったけど、ちょっと漏れちゃってたか。
「什造と知り合いか?」
「はい。弟子にしていただきました。師匠に指示されて俺はここに来たんです」
「なるほど。まぁ、お主でも良いじゃろう。ほれ、
神様の所に連れて行って欲しいんだけど……。
今は言うことを聞くしかないか。
膝をついて頭を下げる。
すると幼女が俺の頭に触れた。
「お主に眠る真の力を
……ん?
今、なんて?
「我が与えた神力を使うには、眠った力を起こす必要があるのじゃ。しかしそれさえできれば我が神域に接続した忌々しき迷宮も容易く踏破できよう」
良く分かんないけど、身体が非常に軽い。
頭も良く回る。脳を活性化した状態に近い。
でもずっとこの状態はマズい気がするので、闘気を身体に封じるイメージで強く力を制限していった。力の制御も上手くできるようになってて良かった。
「さぁ、まず手始めにここの迷宮を踏破して参れ。今のお主ならそれなりに戦えるじゃろう。最終層におる
「あ、あの……。もしかして貴女が神様ですか?」
キョトンとした顔で俺を見てくる幼女。
「そうに決まっておろう。なんだと思ったのじゃ」
「冗談とかじゃ、ないですよね?」
「力を与えてやったというのに、お主も什造の様に我を疑うのか!?」
ちょっと怒らせてしまった。
なんか凄い力をくれたのは確かなんだ。
「す、すみません。その……、お姿があまりにも可愛らしいので」
「ふん。まぁ、そう言うことなら致し方ないのう。この姿、なかなか良いであろう。顔出しでやってるえすえぬえすの信者も百万人を超えておるのじゃ」
は?
「すまほ持ってるか?」
「い、今は持ってないです」
「では、我のを貸してやろう。ほれ」
貸してもらったスマホには、アマテラスというアカウントが表示されていた。
メディア欄には目の前にいる幼女の写真がアップされている。フォロワーは107万人だった。神様って凄い。
主な投稿内容は、この神域で撮ったと思われる写真。そこに『我に願いがある者は以下に書き込むのじゃ』というメッセージが添えられている。
投稿のコメント欄には──
〈明日、娘が遠足なので晴れにして下さい〉
〈迷子のミーちゃんが帰ってきますように〉
〈腰痛を治してほしいです〉
〈アマテラスたんカワユス〉
みたいな書き込みが多数寄せられていた。
「……神様もSNSやってるんですね」
神様の存在を隠すために情報レベル『禁』が設定されてるのに、本人(本神?)が顔出しでSNSに投稿してるのは面白過ぎる。
まぁ、真実は公にしていた方が逆にバレにくいってことか。
神様のSNSプロフィールには、『日ノ本唯一神』って堂々と書いてある。でもフォロワーの誰もそれを信じていないだろう。
「近頃の人間は真剣に神頼みなどしなくなったからな。こういった活動でもせんと信仰が集まらんのじゃ。我が頑張らねば、地方の分身に力を分けてやることが出来ぬ」
すごい頑張ってるんだ。
応援したくなった。
後でアマテラス様をフォローしておこう。
「
「我に名はない。この国唯一の神。それが我じゃ。この身体と仮の名は、什造が世に受け入れられやすいようにと決めてくれた」
そう言いながら、神様はその場でくるりと可愛らしく回ってみせた。
「
し、師匠ぉぉぉぉおおお!!
完全にあんたの趣味じゃん!
神様になんてことさせてんの!?
馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの!?
そりゃ、むさ苦しい白髭生やしたオッサンみたいなThe 神様って感じより、こっちの方が親しみやすくて良いけどさ……。
「颯と申したな。先程ちらと見たが、お主の信者が500万人を超えておるのは驚いた。どうやってそこまで増やしたのじゃ?」
「もとは10万人いかないくらいでした。最近ダンジョン攻略配信がバズって、SNSもフォローしてくれる人が増えたんです」
「なんと! この忌々しき迷宮にそんな効果があるのか!?」
神様の目が輝いている。
SNSで発信はしてるけど、情報収集はあんまりしてないみたいだな。
「百万を超えたあたりから信者の数が伸びなくなったのじゃ。颯よ、我も迷宮配信で信者を増やせるよう指南してほしい」
「俺がお役に立てるか分かりませんが……、コラボとかならできます。それより神様って、この世界の物質に干渉しないようにしてるんじゃ?」
「什造以外で我の存在を知る人間にはそう言ってあるな。なんでもかんでも我を頼られては困るのじゃ。この国に毎年迫る天災を一割以下に抑えてやっておるというのに、人間どもはどこまでも楽をしたがる。他力本願で安全や金銭を求める」
なるほど。やっぱり頑張ってくれてるんですね。
神様がいなかったら台風とか地震が今の十倍発生するんだ。信仰を集めるために一般人の日々の願いは聞き届けるけど、神様の存在を知った人間の行き過ぎた願いは無視するってのも理解できる。
じゃあ、手伝ってあげないと。神様の存在やその力の真偽を明確にせず、曖昧な
これだけ可愛らしい見た目してるんだから、やりようはいくらでもある。
「神様のアカウントをバズらせる方法を思いつきました。神様は人形とかに憑依って可能ですか?」
「そんなこと容易い。でもなぜ人形なのじゃ?」
「まず、ダンジョンって15歳以上じゃないと入れないんですよ。アマテラスのアカウントはどう見ても幼女なのでアウトです。そこで第5等級ダンジョンの踏破トロフィーとして入手できる『バディ』に憑依して頂こうかと」
バディはプレイヤーが自由にキャラデザ出来る自律型自動戦闘人形。キャラデザだけでなく、話し言葉や仕草など事細かに設定が可能。
つまりアマテラスに似せてキャラデザし、中身は神様にやってもらう。そんでもって、俺と正式にコラボしてるって言っておけば強引だけど何とかなる。
こうすることで神様にもダンジョン攻略を手伝ってもらいつつ、アマテラスのアカウントに視聴者を誘導できるって作戦だ。
「現在、俺の動画配信の視聴登録者数は1億人を超えています。そこから誘導すれば、数百万人は神様のフォロワーを増やせるんじゃないかと」
「おぉ! 良いのか!? やってくれるか!?」
「神様のお願いですからね。断れませんよ」
「お主、良い男じゃな。気に入ったぞ!」
神様が俺に抱き着いてきた。
身体がポカポカ温かい。
「特別措置じゃ。神力解放時の倍率を三十まであげておいた。この力を用いて我の信者を増やしてくれ。しかし我が神域に迷宮が食い込んでおるのはどうしても許せぬ。ある程度信者を獲得出来たら、忌々しき女神を倒すのじゃ。よいな?」
「ありがとうございます。でも女神がいなくなったらダンジョンも消えちゃいません? 資源とかは日本にとってもかなりありがたいみたいなんですが」
もし可能なら四刀流を残してほしい。
「心配無用じゃ。迷宮はこれだけ深く我が神域に入り込んでおる。既に解析は出来た。女神が消失した後も日ノ本の迷宮は我が維持してやれる」
「そうすると、海外のダンジョンは無理ってことですか?」
「他国はその国の神が何とかする。我らは分業制。信仰を寄越さぬ異国民のことまで関与は出来ぬし、無理に手を出そうとすれば咎められる」
なるほど。何とかなるんだ。
じゃあ、やっちゃっていいね。
「それより我が与えた神力をお主が解放できなければ意味が無い。せっかくだ、我も同行してやる。今から迷宮に行くぞ」
「迷宮って、ラスボスがヤマタノオロチなんですよね?」
「そうじゃ。なんだ、それだけの力があって怖気づいたのか? まぁ、無理もない。我が神域の力を得てかなり強化されておるからな。だがお主が神力を解放さえできれば問題はないはずじゃ」
「あの……、すみません。実は、もう倒しちゃいました」
「は? 何を言っておる」
「ですから、もうヤマタノオロチは倒しました」
「…………えっ」
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