4章 神殺しの依頼 in 出雲

第068話

 

 予兆はあった。


 玲奈の飛行機に乗って日本に向かっていた時点で、東雲グループのAIから警告が来ていたんだ。



 空港で警察が待ち構えている──と。



 でも俺は何も悪いことなんかしてないし、逃げようってする方がなんだか悪いことをしているような気がした。だから玲奈に着陸予定の空港を変更して逃げるかと聞かれた時、そんなことしなくても良いって言ってしまったんだ。


 なんで俺が逃げなきゃいけないんだよ。


 てゆーか、空港に警察が来てるからなに? 

 なんで俺が捕まる前提で話が進んでんの?


 目的は玲奈とかかもしれないだろ。


 もし玲奈が警察に捕まったら、俺は今ある全ての力を駆使して彼女を助ける。そもそも四大財閥の御令嬢なんだから、玲奈はきっと大丈夫。


 そう思っていた。



 その結果が


 俺は留置所に入れられていた。



「またかよ……」



 アメリカの時と違うのは、身体を拘束されていないこと。


 俺は空港で玲奈のプライベートジェットから降りた所を警官3名に囲まれ、『ダンジョン保護法違反』の容疑で逮捕された。


 なんですかダンジョン保護法って。

 そんなんありましたっけ?


 なんでも俺が許可なくダンジョンを攻略しまくっているのが問題なんだそうだ。


 まぁ、言われてみりゃそうだなって思う。


 ダンジョンは全て誰かが所有する土地の上に出現していて、俺はそこに無断で入ってしまっていた。不法侵入って言われれば、素直に認めるしかない。



 ……マジかぁ。

 やっちゃったじゃん。


 FWOがゲームだった時の感覚で、普通にダンジョンに入っちゃってた。


 高校に出現した黒のダンジョンはグレーゾーンだけど、その後に攻略した灰のダンジョンとかは私有地に出現していた。そっちがアウトらしい。


 でもやっぱり日本は良いな。


 ちゃんと罪状を教えてくれるから。

 取り調べでは、かつ丼が出てきた。

 拘束とかもされないし。


 アメリカは良く分からないまま怒鳴られ、身動きできなくさせられた。海外ってマジで怖い。まぁ、アレはデイビッドってやつのせいだったけど。



 日本の留置所にはベッドもあるし、トイレも……。


 いやでも、これ使うのは嫌だな。

 できるだけ早く外に出たい。


 確かこういう時って、弁護士を呼んでもらえば良いんだっけ。お金が無くても初回は相談に乗ってもらえるはず。取り調べの時は人生初の逮捕で少し混乱していて、言い出せなかった。


 よし。次に巡回の人が来たら、弁護士を呼んでもらおう。



「008番、出ろ。面会だ」


 008番ってのが、ここでの俺の名前。


 弁護士を呼んでもらおうとしてたけど、面会って……。


 もしかして玲奈が心配して来てくれた?

 なら弁護士は玲奈にお願いした方が良いかも。


 そんなことを思いながら、刑務官の後をついて行く。



「はじめまして。雫石 颯君だね」


 面会室にいたのは玲奈じゃなかった。

 テレビとかで見たことある人。


「確か、官房長官の」

「平田だ。よろしく」


 すっごく偉い人じゃん。

 なんでこんなとこに?


 しかも彼ひとりだった。

 刑務官の人もいなくなってる。


「まず君に謝りたい」

「えっ」


 平野さんがいきなりアクリル壁の向こうで立ち上がり、俺に頭を下げた。


「あ、あの、意味が分かりません」


「今回は私の力不足で君を逮捕させてしまうことになった。本当にすまない」


「……どういうことですか?」


「順番に説明させてほしい。まず颯君、国を動かしているのは誰だと思う?」


「えっと、政治家の人たちですか?」


「政治家を選ぶのは国民だから、一般的には国民が国を動かしているとされる。人民が権力を握る。民主主義とは本来そう言うものだ」


「本来ってことは、実は違う?」


「そう、この国の民主主義はとうに終わっている。上級国民という言葉は聞いたことがあるだろう」


「あ、あります」


 超お金持ちとか、権力を持った人のことでしょ?


 上級国民だから逮捕されない──なんて感じで騒がれてたりもするよな。


「その上級国民たちによって、この国の政策は全て決定している。国民が選んだ政治家たちに政策決定の権利なんてありはしない。今回、君を逮捕する理由のひとつとしたダンジョン保護法の発令も、上級国民が決めたこと」


 あれ、でもそうすると東雲財閥もそれに加担してるってこと? 


 玲奈だって上級国民だよね?


「そんな、東雲さんが……」


「東雲財閥の総裁や、その娘である東雲 玲奈も上級国民に該当する。君は彼女と交際しているんだったな。安心してほしい。彼女は君を裏切ったりしてはいない」


「どういうことですか?」


「東雲財閥も当然、政界に影響力がある。しかし他3つの財閥と比較すればその力は大きくない。あそこは政界での裏工作ではなく、財力で他と並ぶほどの地位を築いている。今回も東雲財閥系の政治家は、君が今後活動する足枷になると考え、ダンジョン保護法の成立には反対していたんだ。少数だから太刀打ちできなかったが」


 なるほど。

 東雲さんは俺の味方なんですね。


 それが分かっただけでも心が軽くなった。


「話を戻しますが、その法律を作らせた上級国民と俺の逮捕の関係は?」


「東雲財閥以外に所属する上級国民たちは豊富な資源確保が期待できるダンジョンを我が物にしたいと考えている。そしてそのダンジョンを容易く踏破してしまう力を持った君を常に狙っていた。彼らは颯君を自分たちのモノにできるチャンスを待っていたんだ。ここ最近の君はずっと東雲 玲奈と行動を共にしているせいで、他の財閥は手を出せなかったようだな」


 俺が玲奈を守ってるつもりでいたけど、実は俺の方が彼女に守られていたみたい。


「なかなか颯君を確保できないことに業を煮やした東雲以外の3財閥はダンジョン保護法を作り、海外から帰国した君を東雲玲奈から強引に引き離すことにした」


「え? も、もしかしてそれだけのために法律つくっちゃったってことですか!?」


「君にはそれだけの価値があると上級国民たちが判断したんだ」


 そ、そう言われるとちょっと照れるな。

 逮捕されたり、命令されるのは嫌だけど。


「さっきも言ったが、この国の政治は上級国民に支配されている。今の総理と私は西園寺財閥系の人間、ということになっているが、実は東雲財閥の総裁から指示を受けて動いている」


 おぉ! 

 総理大臣と官房長官が味方なんですね!!


 凄いな東雲財閥。


「ただ勘違いしないで欲しいのは、私や総理が表立って君の支援はできないということだ。もし我々が東雲系の人間だとバレれば、何か適当なスキャンダルですぐに失脚させられる。財閥にはそれが可能な力がある。我々が普段やっているのは、政界の裏の動きを東雲様に伝えることくらいでしかない。今回は私が交渉すると言って少し時間を稼いでいるが、1週間で進展がなければ君の身柄はどこかの財閥の元へと移送されてしまう」


「そ、そうなんですか」


「西園寺日紗斗の一件で西園寺財閥は力を落としている。今は北条財閥と南雲財閥が牽制し合っているせいで行動には出ていないが、いずれ君を確保しに動くだろう。そうなる前に、我々はどうしても颯君にやってもらいたいことがある。その過程で、君はしばらくダンジョン攻略が出来るようになるだろう」


 おぉ!

 それはありがたい。


「やってほしいことってなんでしょうか?」


 俺が出来ることって言うと、やっぱりダンジョン関係かな。


 遠回しの東雲さんからの依頼って感じになるだろうから、ミッションクリアで玲奈との関係を認めてもらうことにも繋がるはず。


 何でもやります。

 任せてください!



「颯君には、神殺しをお願いしたい」

 

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