第069話

 

「……えっ?」


 何でもやるつもりでいたけど、神様を殺せって言うのは想定外だった。

 

「神様って言うと、この世界にダンジョンを出現させた女神のことですか?」


「そう。女神を殺せと、この国に古来から存在している神から命令された」


 ん? 古来からいる神様?


 どういうことか聞こうと思ったが、ドアがノックされて遮られた。


「色々疑問があるとは思うが、時間が無い。詳しいことは私の部下から聞いてくれ」


 平田官房長官が立ち上がると、俺のいるエリアの扉が開いた。ここまで俺を連れてきた刑務官ではなく、スーツの男性が中に入ってくる。


「あとは頼んだ」


「承知しました。雫石様、こちらへ」


 案内してくれる男性の後をついて行く。


 この人、ドアをノックする直前まで気配が希薄だった。歩き方もちょっと癖がある。たぶん忍者だ。それもかなり強そう。


 

 エレベーターに乗り、屋上へ向かう。

 そこにヘリが止まっていた。


 えっと、コレで移動するんですか?

 はじめてでちょっとワクワクする。


 ヘリに乗ると、男性がコックピットへ。

 俺は隣に座るよう言われた。


 手渡されたヘッドセットを頭につける。映画とかで見たことあるやつ。なんでつけるんだろうって思ってたけど、プロペラの音がうるさくてヘッドセットがないと機内でまともに会話が出来ないらしい。


 飛行機とは少し違った感覚で離陸した。



「自己紹介が遅れました。官房長官の補佐をしている清原です」


「雫石です。よろしくお願いします」


「お気づきかもしれませんが、私も伊賀忍です」


「やっぱりそうでしたか」


 たぶん上忍なんだろうな。

 オーラの格が中忍とは違う。


「今回の任務の詳細をお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「はい。お願いします」


「まず最終目標は、この世界にダンジョンを出現させた女神の討伐となります」


 女神を討伐するとダンジョンとかが消滅して、四刀流が使えなくなるんじゃないかって懸念がある。でも俺はドイツで、いつか女神を倒すって心に決めたばかりだ。


 でもどうやったら神を倒せるのか分からない。

 とりあえず話の続きを聞いてみよう。


「分かりました。でも、なんで女神の討伐が必要なんです? 平田さんからは、この国にいる神に命令されたって聞きましたけど」


「古来から神話として語り継がれてきたように、日本には神がいるんです。その神が住まう神域の一部に、女神がダンジョンを出現させました」


 声の感じからして彼が嘘を言っているとは思えない。


「この国ほんとに神様がいるんだ」


「はい。ただ伝承にあるような八百万の神がいるのではなく、存在するのは一柱のみ。その一柱が多数に分身して人々を助け、日本各地で信仰を集めてきたそうです。我々は現在、この国を興した神のもとへ向かっています」


「この方角だと……。京都? いや、島根ですか。てことは出雲大社とか?」


「その通りです。10月は神無月と言って全国から神がいなくなり、出雲に集まるとされています。実際には神力を使い果たした分身を神が集めて力を与え、再び日本を守るために各地に分身を送り込む。神はそれを2700年以上続けてこられました」


「日本を守るために頑張ってくれていた神様の住まいに、女神のダンジョンが出来ちゃったと。それで神様が怒ってるんですね」


 だいたいの背景は分かった。

 こっからが本題。


「平田さんは俺が女神を倒す依頼を受けることで、しばらくはダンジョン攻略が出来るようになるって言っていました。それはどういう意味ですか?」


「財閥は日本の神から力を受け取り、それで財を築いた者たちの子孫にあたります。今でも神は財閥に大きな影響力を持つ」


「なるほど。俺が神様の依頼を受けれるようにするために、神様から財閥にダンジョン保護法を撤回するよう言ってもらうってことですか」


「はい。それが今回のの全容となります」


 最初に言われた時も気になったけど、任務って……。


「もしかしてコレ、師匠が何か絡んでます? 忍としてのミッション的な」


「あぁ、すみません。説明が漏れていました。本件は神から什造先生に女神を倒すよう指示があり、先生が方々に働きかけた結果このような状況になっています」


 やっぱり貴方が動いてたんですね。

 

「師匠は神様と知り合いなんですか」


「什造先生は神の力をより多く引き出すことに成功した人物です。そのため現代では神の言葉を政府や財閥に伝える役割を担っていて、私はその支援をしています」


「少し気になったんですけど『より多く』引き出せたとは? 他にも神様の力を受け取った人がいるんです?」


「日本人は古来より、神の力をその身に宿します。この国で生を受けた者は例外なく全員がです。違うのは神の力をどれほど引き出せるか、その一点のみ」


 日本人がみんな神様の力を持ってる?

 え、それ本気で言ってます?


「聞いたことはありませんか。江戸時代の飛脚は1日に150キロを走り、戦国時代の武将は十数キロの鎧を身につけて戦場を駆け、鎌倉武士は当時世界最大の弓を使って400メートル先の敵に当てたと言います」


 どれも外国から来た人々を驚かせた逸話として有名だ。


「現代の日本人からすると、それらは異常だと思うでしょう。しかし我々のような忍者の能力で考えてください。私が言ったことは、伊賀忍であればどれも容易い」


「……た、たしかに」


 鎧着て戦ったり、弓で長距離をスナイプした経験はない。でもやれって言われれば出来る気がする。


「我々は一般人より神の力──つまり神力を使いこなせているにすぎません。この国で産まれて適性があれば、もしくは弛まぬ鍛錬をすれば誰でも神力を解放できます。それはつまり、万人が忍としての能力を開花させる可能性があるということ」


 ま、マジですか。

 忍者の力のルーツって神様なんだ。


 師匠、教えてよ。


 いやでも……。

 そんなこと言ってたかも。


 冗談だと思って聞き流してたような気がする。


「しかし神の存在を知るのは先生と一部の上忍のみ。労せず力を手に入れようとする不穏分子を神の元に行かせてしまうことがないよう、情報の取り扱いにはご注意ください。情報レベルは『禁』です」


 情報レベル禁って、伊賀の上忍以外に言いそうになったら一生口が開かなくなるやつじゃん。


 情報を対象に伝える際、術をかけながら聞かせることで発動する。恐らく術の大元は師匠だから、解除するのは不可能だと思う。


 玲奈は知ってるのかな?

 確証がないから話し合えない。


 本当に神様がいるんだって、盛り上がる話題になったかもしれないのに。


 ちょっと残念……。



「だいたいの背景は分かりましたが、女神を討伐するのに神様の所に向かっているのはどうしてですか?」


「神域にダンジョンが出現し、神は大層ご立腹でした。しかし神は自ら課した制約により人間界に出現した物体に干渉はしません。そこで神から力を受け取り、邪神を打倒し得る強者を所望されたのです」


 おぉ! 強化クエストですね!?

 神殺しの力がもらえるんですね!?


 人間を越えた力が得られるかもしれない。


 四刀流で活用できるかな?

 なんとかやってみたいな。


 力を貰ってすぐに女神と戦えって言われても流石に無理だと思うので、力に慣れるための時間も貰えないか交渉したい。ダメって言われたら諦めるけど。


 

 てことで神様、少々お待ちください。

 今から力を貰いに行きまーす!!

 

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