第067話
黄のダンジョンからホテルに戻る時、ふと思い出した。
「この辺に有名なお城があるよね?」
ドイツと言えば、あのお城。
俺たちは今、バイエルン州フュッセンにいる。
ここに有名な城があるってことは観光パンフレットに載っていたから知ってる。だけど名前が出てこない。
「たぶんハヤテが思ってる城はここのすぐそばにあるよ」
「えっと、名前なんだっけ?」
「ノイシュバンシュタイン城。シンデレラ城のモデルって言われてるお城ね」
「そうそれ! ちなみにここから近いなら、ちょっと見に行ってみたり……」
早く玲奈とふたりっきりになりたいって気持ちもあるけど、せっかくここまで来たなら有名なお城も観光しておきたい。
「私は良いよ。何回か来たことあるから、案内してあげる」
「やった!」
「あ、でも。期待外れだって思うかも」
「え、なんで?」
玲奈が後ろを振り返る。
そこには先ほど俺たちが踏破した黄のダンジョンが天高く聳え立っていた。
「ハヤテ、これ見て」
玲奈がスマホを見せてくれる。
その画面にはノイ…、ノイシヴァ?
例の有名な城が映し出されていた。
「うん、ここに行きたい。できればこの画角で見てみたいな!」
ザ・城って感じの完璧な角度。
最も綺麗に映ってると思う。
写真とか動画じゃなく、実際に目で見たい。
しかし何故か玲奈の表情が暗い。
「気づかない? 周りの風景とかさ。よく見てみて」
ん? どゆこと?
疑問に思っていると、玲奈がスマホを俺から少し離した。
背景とスマホの画像にある山のラインがぴったり一致する。
えっ。
ま、まさか──
「この写真が撮られたのって、もしかしてここ!?」
「そう。ノイシュヴァンシュタイン場が一番きれいに撮れるって有名なスポットとお城の間に、あの女神がダンジョンを出現させたの」
「えー。なにそれ」
「ちなみにここだけじゃない。世界的に有名な建造物や世界遺産のそばにもダンジョンは出現してる」
衝撃の事実を知ってしまった。
「それ、世界中からクレーム出ないの?」
「不満の声は上がってるよ。
ニュースとかで何度も特番が組まれているらしい。
最近の俺はダンジョン攻略で忙しくって、全然そーゆー事情を把握してなかった。
「ドイツ来ることになって、ちょっと楽しみにしてたのに……」
そこまで城が好きってわけじゃない。
でも遠路はるばる来たのだから、世界的に有名な場所は見ておきたかった。
「私もハヤテといろんな所へ観光に行きたかった。でもほとんどの国でダンジョンが観光名所を潰してるの。ちなみにここはまだいい方だよ。最悪な所は、世界遺産にダンジョンが食い込んだりしてるから。日本でもそうなってる場所がある」
「マジですか」
玲奈を拉致してトロフィーにした件について、俺は女神を許せなかった。
でもこの現実世界で四刀流が使えるようにしてくれたのも女神。その点については感謝もしていた。玲奈やその他のトロフィーになってた人々を全員無事に救出できたから、俺は女神に対して怒りの感情は無くなっていたんだ。
それなのに──
また女神に対する
俺は旅行が好き。いろんな場所に行って、その土地の豊かな文化や自然に触れると自分の世界が広がる気がする。
海外よりは、国内が良いかな。
言葉の壁はやっぱり怖い。
でも玲奈と行くなら海外旅行も楽しい。
落ち着いたら彼女と色んな場所に行きたかった。
そんな玲奈とのデートプランを女神に潰された。
世界遺産とかも完全に破壊されたわけじゃないから、近くに行って中に入ったりは問題なくできる場所が多いらしいけど……。
有名な場所は、それが最も映える場所から見たいよね。
それから観光名所を潰されたことだけが問題じゃない。
思い付きのような軽さで人々を拉致して、ダンジョン踏破のトロフィーにしてしまう神に世界を委ねておきたくない。
女神を倒すべき。
漠然とそんなことを考えた。
どうすれば良いとかプランは無い。
「最終目標は、女神の討伐かな」
自然と口から言葉が漏れた。
それを聞いた玲奈が驚いた表情をしている。
「意外だね。ハヤテは女神に友好的かと」
「玲奈をトロフィーにした時点で怒ってたよ」
「それはもう何とかなったし、女神を倒したら四刀流が使えなくなっちゃうかもしれない。だからハヤテにその気は無いって思ってた」
「実際に倒せるかどうかなんてわからないけど、女神が自由にこの世界を変えれちゃうって状況は良くない。だって女神の気分次第で明日世界が破滅させられるかもしれないんだから」
四刀流が使えなくなるのは嫌だ。
でもそれ以上に俺は、玲奈と一緒に過ごせる未来が欲しい!
思っていたより女神が世界を滅茶苦茶にしていたと気付いたこの日、俺はいつか女神を倒すという目標を抱いた。
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