第066話
「さて、ラスボス戦だね。弱点とか攻撃パターンは覚えてる?」
「もちろん。貴重な電気系素材を落とすボスだから、ここは私も周回してたよ」
第4等級『黄のダンジョン』最上階。
俺と玲奈はこれからボスに挑戦する。
中ボスはFWOの時と同じだった。
結局変更されたのは第3等級ダンジョンだけなのかな?
あの時はトロフィーとして攫われた人々が泉のダンジョンにいたから特別に仕様が変更されたってことかもしれない。
まぁ、ボスが変更されていてもされてなくても、玲奈を完璧に守りつつこのダンジョンをクリアする。俺がやるべきなのはそれだけ。
「それじゃ、行こうか」
「うん!」
玲奈と一緒にボス部屋に入った。
黄のダンジョンボスは──
「変わってないね」
「あぁ。
雷を纏った四足歩行の獣。
体躯は3メートルほど。
注意すべきはその速度。それから適性装備じゃない近接武器だと、攻撃しても攻撃を受けても電撃を受けて身体が痺れてしまう。黄のダンジョンには他にも同じような特性を持つモンスターはいるけど、雷獣の電撃は現状入手できる最高レベルの絶縁特性装備が必要になる。遠距離攻撃での討伐が推奨されていた。
FWOの序盤で俺が最も苦戦したモンスターだ。
しかし今の俺には玲奈がいる。
コイツ対策の武器も準備してある。
「落雷対策、任せていい?」
「おっけー!」
玲奈が準備を始めた。
俺は雷獣に向かって突撃する。
俺たちを敵と認識した雷獣が迎撃態勢に入った。
まず咆哮が来る。
喰らえば身体が2秒硬直する攻撃だが、これはあえて受ける。高く飛べば回避も可能だけど、そうすると玲奈に攻撃が当たってしまう。
前衛が攻撃を喰らえば、後衛には咆哮の影響が行かないようになっている。
最初の咆哮は喰らっても問題ない。なぜなら雷獣は次の攻撃に備えて3秒の溜め動作に入るから。無理に防がなくても良いんだ。
その間に玲奈は雷獣を仕留めるための準備を進めてくれていた。
僅か数秒の間に玲奈は3本の特殊矢をボス部屋中央の床に等間隔で打ち込んだ。3本の矢がつくる三角形の内側が雷獣を倒すためのエリアになる。俺はその場所に雷獣を押し込まなきゃいけない。でもそれが出来れば勝利は確実だ。
ボスが雷獣じゃなかった時に焦ると困るので、あえて作戦は話し合わなかった。
それでも玲奈は俺のわずかな指示で、雷獣討伐のために必要な行動をしてくれる。ほんとにありがたい。無駄がなく、彼女と攻略するのが楽しすぎる。
「これでいいのよね!?」
「あぁ、完璧だ!」
「じゃあ、アレはまかせたから」
全方位への強雷撃が来る。
俺は両手に持つ『伝雷剣』を身体の前に突き出し、両方のマニピュレータに持たせた剣を背後の地面に突き刺した。
雷獣から放たれた強雷撃が伝雷剣に吸収され、剣から伸びたケーブルを伝ってマニピュレータが持つ伝雷剣へ。そして地面に放電されていった。
実は伝雷剣は、雷獣を倒すために十分な絶縁性能がある武器ではない。どちらかというと電撃系の攻撃をする際の武器。発電系のアイテムで生み出した電気をケーブル経由で剣に送って攻撃するための武器なんだ。
普通なら、この武器で雷獣を相手にするのはキツイ。上手く電撃を地面に流せなければ感電してしまう。
でも欧州最速で第4等級ダンジョンをクリアして、俺の知名度を高めるには多少の無理をする必要があった。
そこで俺は4本の伝雷剣を準備した。
その4本をそれぞれ接続し、雷獣に攻撃する時と攻撃を受ける時は必ず1本は地面に突き刺すようにする。こうすると感電せずに戦えるんだ。
電気は尖がったモノに向かってくる。
前に突き出した伝雷剣が避雷針になる。
少しでもビビッて剣先がブレると、避雷針にならない。
目がくらむような電撃を確実に受けきらなきゃいけなかった。
流石にこれは一般人の視聴者さんにおススメ出来ないな……。
そんなことを考えつつ、俺は雷獣を押し込んでいく。
前腕による振り払い攻撃や、鋭利な尾による刺突。たまに来る全体攻撃を全て防ぎ、何とかボス部屋中央までやって来た。
だいぶダメージを与えてはいるが、コイツは時間経過で体力を回復させてしまう。
特にヤバいのが、落雷による体力の全回復。
コレが一番厄介だった。
「ハヤテ! 来るよ!!」
「うん! 頼んだ」
俺に今できるのは玲奈を信じることだけ。
大丈夫。彼女ならやってくれる。
雷獣が大きく咆哮し、天を仰いだ。
ボスエリア中央。
そこから上を見上げると空が見える。
雷獣に向かって雷が降って来た。
──ッ!!?
わかりやすく雷獣が困惑している。
自分に降り注ぐはずだった雷が上空で3つに別れて地面に刺さった特殊矢へと進み、そこから地面に流れてしまったからだ。
玲奈が用いた特殊矢は、矢と矢を見えない線で繋ぎ、電気を流す効果がある。しかしコレも1本では雷獣が降らす雷を十分に分散できないので彼女は3つに分散させる手法を選択していた。
ちなみにこの方法で一番難しいのは、天から高速で降り注ぐ雷に分散させるための特殊矢を当てること。遠距離系の武器を使わない俺からしたら神業。
玲奈は見事に雷を射ち抜いた。
雷獣の仕草とかでタイミングがとれるらしいけど、それにしたって凄い。
後は俺の仕事。
落雷での回復に失敗した雷獣の体力を削り切ってやる。
反撃をかわし、両手の剣で斬りつける。雷獣が距離をとろうとしたので、マニピュレータの力で飛んで追いかけつつ斬る。かわす、斬る。追って、回避して、斬る。斬って斬って斬り続ける。
しかし感電対策のために常時1本は伝雷剣を地面に突き刺しておく必要があり、そのせいで回転がしにくくて威力が上がらない。
「ヤバいな、回復されそう」
やっぱり伝雷剣で戦う作戦は無理があったかも。
削り切れないと判断し、逃げることを考え始めた時──
紫電一閃。
超強力な攻撃が雷獣の半身を消し飛ばした。
「……まじ?」
振り返ると笑顔の玲奈が小走りで近づいてくるところだった。
「す、すごいね。玲奈」
「ハヤテがだいぶ削ってたからでしょ。それにあれだけ溜め時間があれば、このくらいは当然の結果よ。そんなことよりさ」
玲奈が俺を見上げてくる。
いつものを求められている。
「サポートありがと。今回は諦めて逃げるのも考えはじめてた。落雷に的中させたのも流石だった」
少し乱れた玲奈の髪を直しつつ、優しく頭を撫でてあげる。
「ハヤテの連撃もすごかったよ!」
笑顔が眩しい。
最高に可愛いな。
早くホテルに戻って、互いの行動を褒め合いたい。強制配信されてるから今の玲奈は控えめだけど、ふたりきりになった時の彼女はダンジョン攻略中の俺の行動について事細かに賞賛コメントをくれる。
その時間が俺はけっこう好き。
俺も玲奈の良いとこ、たくさん言いたい。
ふたりっきりになった後のことを想像してにやけそうになるのを我慢しつつ、俺は玲奈と一緒にボス部屋から出ていった。
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