第062話
「玲奈、あの奥の敵よろしく」
「りょーかい!」
俺が雑魚敵を蹴散らして、玲奈が離れた位置にいる強敵を倒す。ふたりでダンジョン攻略するならこの連携が一番強い。
もともと彼女は俺と組むことを想定して、一撃の威力が高い大弓を選んだらしい。
一撃が強いけど連射が出来ないから、俺と戦うなら相性は最悪だ。それなのに彼女は何度も俺にPVPを申し込んできた。当時はランクポイント稼がせてくれるカモだって思ってたけど、今思うと申し訳なさが込み上げてくる。
俺のために武器を選んで、俺と接点を持つために勝ち目の低いPVPしろって絡んできていたんだ。健気で可愛いよね。
「ハヤテ、ボーっとしてどうしたの? まさか、毒とか喰らっちゃった!?」
「大丈夫だよ。心配させてゴメン」
要らぬ心配をかけたのと、過去を振り返って彼女に対して申し訳なくなったので玲奈の頭を撫でておく。
「いつもありがと。玲奈」
「な、なによ急に」
そう言いつつも、嫌がっている感じではなさそうだ。
「あの…、これ、強制配信されちゃってるから……」
「うん。続きはまた後でね」
ダンジョンから出てふたりっきりになると、玲奈はいつもソワソワしだす。
それが可愛い。
ちょっと意地悪したくなっちゃう。
まぁ俺も我慢できなくて、すぐに抱き着いたりしちゃうけど。
ダンジョン出た後のことを少し妄想しながら、俺は玲奈と一緒にダンジョンの奥へと進んでいった。
「あ、ハヤテ。誰かいるみたい」
「うん、ひとりだけだね」
前方にモンスターと戦っている人がいた。
ゲームのFWOは誰かが戦っているモンスターに別のプレイヤーが攻撃してダメージを与えることもできる。ただしそれはマナー違反なので、基本的に誰かが攻撃している敵を狙うことはしない。
ちなみに与えたダメージに応じてスキルポイントを稼ぐための経験値やドロップアイテムも手に入るため、広範囲魔法攻撃が使用可能な魔法使いたちは別パーティとも協力して数十体のモンスターをまとめて相手したりもしていた。
剣士は1対1で戦うことが多いので、基本的に誰かの獲物を狙うことはしない。
だから俺たちも前方にいる人を避けて先に進もうとした。
「あっ、待ってハヤテ。あの人、危なそう!」
別ルートに行こうとしたら、玲奈が異変に気付いた。
モンスターと戦っていたのは女性の攻略者さん。彼女がモンスターに背を向けて逃げ出したんだ。それを追う大きな人型モンスター。
「玲奈、撃てる?」
「うん!」
玲奈が矢をつがえ、弓を引き、そして放つ。
その攻撃が女性に迫っていたモンスターの足を止めさせることに成功した。
放たれた矢と同時に走り出していた俺は女性の元までたどり着き、モンスターと対峙する。よし、間に合った。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
怪我とかは無いみたいだ。
てか日本語通じてる。
見た目は外国の美人さんだったから、日本語での返事に少し驚いた。
「こいつ、俺が倒しても良いです?」
「すみません。お願いします」
スムーズにこのやり取りができるってことは、この人もFWOプレイヤーだったのかもしれない。ゲームの頃は強敵に苦戦しているプレイヤーさんを見つけると、代わりにモンスターを倒してあげて感謝されるってムーブをしてた時期がある。
人型モンスターが俺にターゲットを変更し、襲い掛かってきた。
拳に電撃が纏われている。
これを喰らうとマズい。
右のマニピュレータに装備した土属性のククリ刀で攻撃を受け流す。
同時に左マニピュレータに装備した魔封剣で斬りかかろうとしたが──
その攻撃はモンスターに裏拳によって弾かれてしまった。
でもこれは俺の狙い通り。
こいつの行動パターンは把握してるから。
普通の人は関節部を固めない設定にすることで反撃された時に本体までダメージが来ないようにしているけど、俺は初めから弾かれる想定でマニピュレータの関節部を固めてある。
こうすると足を回転軸にして、敵の力で回転できるんだ。
「八連廻旋斬っ!」
横2回転しながら4本の剣による連撃で敵を切り裂いた。
今の装備ならこの程度で苦戦はしない。
ちなみにモンスターを倒した八連廻旋斬は四刀流のスキルで、今やったみたいに敵の攻撃に完璧に合わせられると、カウンター判定が入って攻撃力がかなり上昇する。
ただ、手応え的にはスキルを発動させるまでもなかった。
女性がだいぶダメージを与えていたみたいで、俺がスキルポイントに振るための経験値はほとんどもらえなかった。あともう少しで倒せてたんじゃないかな。
地面に座り込んでいる女性に手を差しだし、立たせてあげる。
「回復薬とかが切れちゃいました?」
「そうなんです。安全マージン取ってここまで来たんですが、思いがけず連戦になってしまいまして……」
第4等級ダンジョンにひとりで来ていて、助けられた後はすぐに落ち着いて受け答えしてくれる。FWOの頃はそれなりに強いプレイヤーだったんだろうな。
「出口まで送っていきましょうか? まだ帰還の羽は実装されてないですし」
普通なら回復薬を渡してサヨナラするけど、ここは現在解放されている中では最難関のダンジョン。それに力尽きた時のペナルティが危険すぎる。女性だから助けるってわけじゃないけど、たったひとりでここまで来れる実力者さんには今後も是非活躍してもらいたい。
「本当にすみません。もし可能なら、お願いします」
「大丈夫ですよ。玲奈、出口まで行くけど良いよね?」
「もちろん良いよ。まだ3階層だし」
遅れてここまでやって来た玲奈に確認を取ると、彼女は直ぐに同意してくれた。
その後、俺と玲奈は女性をダンジョン出口まで送り届け、再びダンジョン攻略に向けて挑戦を開始した。
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