第063話 イラストレーター ルルロロ

 

 私は今日、とても気分がいい。


 ずっと夢だったこと。でもそれは絶対に無理だろうなって思っていたことが叶っちゃったから。


「……ハヤテ君、かっこよかったなぁ」


 アメリカにいると思っていた彼が、何故かドイツに来ていた。


 FWOがゲームだったときから、私はハヤテ君の配信を見てた。無茶苦茶なことをする彼から目が離せなかった。彼の配信を見てから作業に取り掛かると、なんだか私の絵も生き生きとした感じになる。


 ハヤテ君の行動から私はいつもインスピレーションを貰ってた。80万人くらいからフォロワーが伸び悩んでた私の絵が覚醒するきっかけをくれたのはハヤテ君なんだよね。いつか彼にお礼を言いたいなって思ってた。


 そんな彼のパーティーに、私は一時的に加入させてもらった。


 いやぁ、控えめに言って最高だったね。

 彼の戦闘を間近で見ることが出来た。


 ハヤテ君の雄姿がまだ目に焼き付いてるよ。

 帰ってきてすぐ、私は数枚のラフ画を描き上げた。


 どれも彼の『ほんとに人間!?』って感じを上手く表現できてると思う。


 画面越しに見てるだけじゃこの絵は描けなかった。

 これを仕上げれば結構いい値段で売れるかも。


 まぁ、売らないけどね。

 これは私の宝物にするんだ。


 少し残念だったのは、私がハヤテ君に守られる立場だったこと。


 ほんとはエレーナちゃんみたいに、彼の横に立って戦いたかった。私も戦えるんだぞってこと、ハヤテ君に知ってもらいたかった。彼に憧れて、ソロでもそこそこ強い攻略者になったんだけど……。


 現実のダンジョンはゲームほど甘くないね。

 今日のは本当に死んだかと思った。


 まさかそんなピンチに彼が来てくれるなんて、今でも信じられない。



「かっこよかったなぁ」


 同じ言葉が二度も口から出ちゃった。


 もちろん彼がエレーナちゃんの彼氏だってことは分かってる。そばで見られただけで私は満足。そう思わなきゃ。それに配信見てても思ってたけど、やっぱりエレーナちゃんはすっごく可愛い。お似合いのカップルだと思う。


 そんなふたりの攻略に水を差しちゃった。

 ゴメンね。


 強制配信されてるし、身バレが怖くてペンネームを教えられなかった。


 ファンだってことも言ってない。 

 もっと彼らとお話しがしたかった。


 ゲームだった頃のFWOのこととかでも、ハヤテ君たちとなら盛り上がれる自信がある。本当はダメなんだけど、私はイラストのお仕事ほったらかしてFWOにのめり込んでたからね。実はかなり高位のランカーだったんだ。


 今はハヤテ君と一緒に戦えた興奮で、イラストを描く手が止まらない。


 アイデアがどんどん湧いてくる。

 とっても楽しい。


 今日ダンジョンに行ったのはダンジョン攻略を頑張ってるハヤテ君と同じ環境に身を置くことで、彼からやる気がもらえるんじゃないかって思ったから。


 まさか本物に会えるなんて。

 しかも彼に助けてもらっちゃった。


 あの時間はきっと、私の一生の思い出になる。


 ハヤテ君からやる気を貰えたから、私はお仕事に全力で取り組んでいた。



 ──あっ、日本の担当さんから電話だ。


「はい。ルルロロです」


『こんばんは。いきなりですが、今日は先生にご報告があって電話しました』


「なんでしょう?」


『なんと、先生にイラストを担当していただいている『いろは』がシリーズ累計発行部数3千万部を突破しました!!』


「おぉ! それはおめでとうございます。あと、ありがとうございます」


 面白い話だから、絶対に売れるって思ってた。


 アニメ化もドラマ化もしてないのにそんなに売れちゃうんだ。凄いね。


『はい、つきましては……。お忙しいとは思いますが、そろそろ14巻のイラストを仕上げていただきたいなーと思いまして』


「あれ、さっきメールしましたよ。届いてないですか?」


『え……。えぇっ!?』


 担当さんがすっごく驚いてた。


 無理ないか。いつもは5回くらい催促されて、やっと作業に取り掛かるから。なんか私、動き出すまでにすごく時間がかかっちゃうんだよね。


 でも今回の私は違います。

 ハヤテ君たちからやる気を貰ったから。


 そう言えば、編集さんは彼の配信見てないのかな?


 見てたら危ないことするなって怒られちゃうから、見られてなくて良かった。


『あ、あの。確かに届いていました。私の確認不足です。すみません。クオリティも凄く高いです。こちらの指定も完璧に表現してくださっていますね。リテイクは多分ないかと。ありがとうございます。……ただ、いったい何があったんですか? どうしてルルロロ先生が、こんな突然やる気モードに?』


 編集さんは私の性格を良く分かってる。



「ふふっ。いろいろあったんでーす」

 

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