第064話
颯と玲奈は第4等級『黄のダンジョン』の7階層まで来ていた。
「玲奈、あそこの壺を割って」
「はいはーい!」
遠くの通路に木片などと一緒に壺が置かれている。颯が指差したそれを玲奈が正確に射貫くと通路に仕掛けられていたトラップが発動し、ちょうどその真上にいたモンスターたちを串刺しにした。
「ハヤテはダンジョンの知識量も凄いね。今のトラップ、私は知らなかった。攻略サイトとかにも情報ないやつでしょ?」
「多分そう。ここは低確率で雑魚モンスターから宝珠が採れるから、ゲームだった頃はかなり長い時間籠ってた。それで効率よくモンスターを倒す手段はかなり頭に入ってる。ちなみにトラップって言うよりギミックだね。あれは10メートル以上離れた所から攻撃当てなきゃ発動しない」
「接近戦武器専門のハヤテがどうやってそれに気付いたのか気になるけど……。とりあえずこれ配信されちゃってるから、ギミックが攻略サイトに載るのは確定ね」
この様子は世界に強制配信されている。
今回のギミックだけでなく、颯はダンジョン攻略中に惜しみなく情報を発信していた。元から彼にはダンジョン攻略で必要な知識を秘匿し、独占しようという意識はない。自分が伝えた情報で人々がより安全にダンジョン攻略を進めてくれれば良いと考えているからだ。
現在は女神の力により、FWOというゲームの設定が現実世界に反映された。そのことをFWOの開発会社も把握しており、世界全体の共通の利益のため裏設定など含め全ての情報を公開している。
しかしその情報量は膨大で、真剣にダンジョン攻略を目指そうとする一部の者たちを除いて、あまり閲覧されていない。そもそも女神の気まぐれでダンジョンの設定は変更される可能性があり、実際に第3等級『泉のダンジョン』では水龍リヴァイアサンという中ボスが偽ハヤテに変更されている。
世界中の攻略者たちは開発元の公式情報を読むより、颯の配信を見ることでダンジョンの情報を収集しようとしていた。
颯たちはまだ知らないが、配信のコメント欄やSNSでは多くの人々が彼のことを『歩くFWO攻略図鑑』などと呼んでいる。
「なかなか宝珠が出ないね」
「まぁ、1000体倒して1個出るかどうかだから。雑魚モンスターからのGETを狙うなら、賢者職とかで範囲攻撃魔法を撃ちまくった方が良い。ここは中ボスからの宝珠泥率高いから、俺は中ボス倒してそいつがリスポーンする間にこの辺の敵を倒すって感じで周回してた。いつもそんな感じでやってる」
「その配信も見てたよ! でもあれはここのダンジョンじゃなかったよね?」
宝珠という装備を強化するためのアイテムをゲットできるまで延々と配信し続ける苦行を、FWOがゲームであった時に颯は何度かやっている。
しかしそれが全てでは無い。
配信していないだけで、中ボスやラスボス周回など颯は数え切れないほどやってきたのだ。
「レアアイテム出るまで周回はどこでもやるよ」
「そうなんだ。じゃあ、なんでそーゆー周回をサブのブースで流さなかったの?」
「ひたすら同じモンスターを倒し続ける配信に需要ある?」
「私は見たかった。10時間とか配信してくれても良かった。勉強とかしてる横でハヤテの配信流しておくのとかしたかったな」
「作業用ってやつね。需要があるとしても、さすがに10時間ずっと誰かに見られてるってのは俺がキツいよ。それに装備の素材を集めるとこまで全部配信してたらPVPで対策されちゃうかもしれないから」
「なるほど。それは確かに」
「逆に玲奈はあんまり素材集めの配信してなかったね」
玲奈は雑魚モンスター討伐周回はほとんどしていない。
「私のためにアイテムとか集めてくれるチームがいたから」
「やば、マジか」
「その代わり私はガンビットを製作するために頑張ってたの」
ガンビットはかなり製作難易度の高い装備であり、ひたすらアイテムの合成や製作を繰り返してステータスの『器用さレベル』を高めていく必要がある。
FWOではダンジョンに篭もりアイテムを集めて不要分を売り、装備製作は他人に任せるタイプのプレイヤー。それから自分でモンスターを倒してアイテム収集することはせず、マーケットで素材を購入して、それを合成や製作で別の高付加価値のアイテムにして資金を稼ぐプレイヤーがいた。
颯は自身で装備を作ることもあるが基本的には前者。玲奈は後者のタイプだった。
「そういえば玲奈、今回はガンビット作らない?」
「作りたいなって思ってるよ。その方がハヤテの負担を減らせるでしょ。今はハヤテがずっと守ってくれてるけど、この先は必要になるんじゃないかな」
「そうかも。マーケットも品揃えが充実してきてるし、たまには製作配信するのもありかな」
「製作配信なら任せて! 沢山やってきたから。私のファンの人ならそれも喜んでくれると思う」
「いいねぇ。視聴者さん増えたし、ダンジョン攻略だけじゃなくて色んなことやっていこー!」
「そうしよー!」
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