第061話 〈配信コメント欄〉

 

「配信出来てるかな? 勝手にされてると思うけど」


 どこかのダンジョン内にいる颯が画面に映っていた。

 彼の隣には玲奈もいる。


〈お、ハヤテの配信始まった〉

〈もう日本帰ってきたのかな〉

〈おかえりなさい!!〉


「おはようございます。ハヤテ式四刀流推進室のお時間です」


〈おはよーって、ん?〉

〈……あれ〉

〈おはよう?〉


 颯は配信時に、その時間帯にあった挨拶をする。

 古参の視聴者たちはすぐに気付いた。


〈今いる場所は朝ってことだな〉

〈まだアメリカにいるんか〉

〈でもアメリカなら24時とかだぞ〉


「色々あって俺たちは今、ドイツにいます」

Gutenグーテン Morgen モルゲン!」


 現在の日本時刻は17時。

 颯たちがいるドイツでは9時。

 だから彼は朝の挨拶をした。


〈……は?〉

〈えっ、ヤバ。なんでドイツ?〉

〈意味が分からんww〉

〈だからSNS更新しろって!〉


 視聴者を増やそうと頑張っていたころの颯は頻繁にSNSを更新していた。配信者にとって海外まで遠征に行くのは注目を浴びる要素でもある。それにSNS等で現状を記録しておいた方が、海外での活動に利用した色んなものを経費にできるからだ。


 しかし今は颯が特に頑張らなくても勝手に視聴者やフォロワーが増えていく。加えて慣れない海外での活動だということもあり、SNSの更新は疎かになっていた。


 玲奈はもともとSNSをあまり活用していない。彼女が配信者として活動していた時の宣伝などは専属のチームが対応していたが、それも玲奈が颯と一緒に活動するようになってからは活動を休止している。


 そのため颯も玲奈も、ドイツに来たことはSNSで発信していなかった。


〈まぁ良いじゃん。今日もエレーナ可愛いし〉

〈ぐーてんもーげん!〉

〈おはよー!〉

〈お前ら順応すんの早すぎwww〉


 昔から颯のことを知っている視聴者たちは、慣れた感じで挨拶コメントを書き込んでいく。


〈ちょっと前までアメリカにいたのに〉

〈今日はもうドイツ!?〉

〈さすがに頭おかしいだろ〉

〈事前に決まってたんかな?〉

〈弾丸旅行してる可能性も微レ存〉

〈むしろそっちだな〉

〈ハヤテはやることぶっ飛んでんだから〉

〈そうそう。これがハヤテだ〉


 最近このブースを見始めた視聴者たちも、少しずつ颯の行動に順応し始めている。


「視聴者さんのコメント見られないのが寂しいんだよね。外と通信出来ないから、自分でカメラ持ってきたとしてもリアルタイム配信は出来ないし」


「それわかる。コメント見たいよね」


〈もし通信出来ても危ないだろ〉

〈コメント読みながら攻略とか無理すぎ〉

〈ゲームじゃねーんだぞ〉

〈これ命かかってるってこと覚えてる?〉

〈でもまぁ、このふたりなら余裕そう〉

〈それはある〉

〈てかさ、なんで通信できないのかな?〉


 様々な国がダンジョン内部との通信を試みているが、未だに成功事例はない。


「まぁ、ないモノねだっても仕方ないね。多分みんな見てくれてると思うので、いつもの感じでダンジョン攻略していきまーす!」


「していきまーす!」


〈やまびこエレーナ可愛い〉

〈めちゃ萌えなんだがww〉

〈え、今日からこんな感じ?〉

〈ちょっと幸せ〉


 もともと玲奈は颯の邪魔をしないよう、ダンジョン攻略中は彼の解説に口を出すことがほとんどなかった。しかし今はふたりで一緒に運営している。せっかくなので何かペア攻略者っぽい感じでやろうということになり『やまびこ作戦』が採用された。


「今日俺たちが挑戦するのは」

「第4等級『黄のダンジョン』です!」


「ここは電気系のモンスターが出てきます」

「出てきます」


「あと、宝珠が出やすいね」

「是非ゲットしておきたいね」


〈言葉の終わりをハヤテに揃えてんの〉

〈いいねぇ。こーゆーのすごく良いよ〉

〈カップル配信者っぽくなった〉

〈今までのはちょっと違ったもん〉

〈ただカップルが攻略すんの見てただけ〉

〈まぁ、それはそれでアリだったけどなw〉

〈初々しさがたまりませんでしたな〉


 颯たちの方針は多くの視聴者たちに受け入れられたようだ。



「それじゃ、踏破目指して──」

「「いっきまーす!」」

 

 最後はふたりで声を合わせ、颯と玲奈はダンジョンの奥へと進んでいった。

 

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