3章 最終目標の設定 in ドイツ

第060話

 

「玲奈が大丈夫だったらさ、このままヨーロッパ行っちゃわない?」


 一度日本に帰る予定だったけど、考えを改めて玲奈に相談してみる。


「えっ。い、良いけど……、急だね。なんで?」


 アメリカのトロフィー救出作戦は多少の問題があったものの、なんとか無事に終えることができた。そしてその間、世界中でトロフィーにさせられていた人々の救出は全て完了したらしい。


「イギリスの王女様を助けに行きたかった」


「うん。でももう彼女は中忍さんたちが助けちゃったんだよね」


 イギリスでトロフィーになっていたのは、まだ若い王女様。ちなみに欧州にはFWOプロプレイヤーが多く、中には元軍人さんが何人もいたから、俺がそっちまで向かうというのは優先度が低かった。


 もしアメリカのダンジョン攻略後も欧州で誰か救出されてなかったら急いで向かおうって考えていたんだど、こっちでの活動に時間をかけすぎた。


 伊賀忍頭領である師匠のもとにロイヤルファミリーから直々に救出依頼があって、さすがに俺を待てなくなったらしい。


 だから急いでヨーロッパに行く必要はない。

 ないんだけど……。


「たぶん俺、一回日本に帰ったらもうしばらくは海外に行きたくなくなるから」


「あー。そういうことね」


 日本のご飯が恋しい。

 言葉の壁が怖い。


 翻訳ツールの性能に文句があるわけじゃないけど、それを身に着けていないときに周りから何をいわれているのか全く分からないのがストレスだった。


 日本に帰りたすぎる。


 でも帰ったら、世界中で俺の知名度を高めて玲奈にふさわしい男になるってクエストは当面の間達成できなくなる。


 アメリカでは大統領に最高のダンジョン攻略者って認定してもらったから、できれば欧州でも何らかの称号をゲットしたいって考えがあった。


「ハヤテが行く気なら私はどこでもついていくよ。サクッと今の最難関ダンジョン攻略しちゃって、あっちでもハヤテが最強だって認めてもらお!」


「ありがとう、玲奈」


 いい子すぎるよな。

 我が儘に突き合わせるのが申し訳ない。


 だからその分、俺は戦闘面でがんばります!!



 ──***──


 ヨーロッパに行くと決まってからの動きは速かった。


 夕方までに各種手配や準備を完了させ、アメリカを20時に出発してドイツには8時に到着した。玲奈が所有する超音速プライベートジェットでの飛行時間は5時間くらい。時差ってよく分からん。


 ちなみにドイツに来たのは、この国が最も欧州でダンジョン攻略が進んでいるから。そんな国でまだ誰も踏破していないダンジョンをクリアすることで、俺の知名度を上げるという作戦なんだ。



「時差ぼけは大丈夫そう?」

「少し変な感じがする」


 アメリカに着いた時もそうだった。


「ホテルでゆっくり休もう。あと、今回は捕まらなくて良かったね」

「うん。マジでそれな」


 流石に二度も捕まるのは洒落にならない。

 飛行機での移動が嫌いになる。

 

 もし今回も捕まったら、俺は近くにいる全員を倒して逃走し、玲奈と離れないようにしようって思っていた。


 

 ──***──


「流石にちょっと疲れちゃった」


 その日泊まるホテルに着くなり、玲奈がベッドに倒れ込む。


 タイトなスケジュールでドイツまで来た。

 飛行機での移動に慣れてる彼女でも辛いらしい。


「お疲れ様。マッサージしてあげよっか?」


「……うん、お願いします」


 誰かにマッサージしたことなんてない。

 なんとなく言ってみただけ。


 でも玲奈がしてほしいって言うならやってあげよう。


 以前、玲奈を助けに行く前に東雲さんが用意してくれたマッサージ師さんの動きを思い出す。アレは本当に気持ち良かった。


 確か、こんな感じで──


「んっ、あっ」


 玲奈が声を漏らす。

 ちょっとエロい。


「ハヤテ、んっ。じょ、上手だね」


「そう? 良かった」


 プロの動きを完全トレースしております。

 存分に癒されてください。


 

 10分くらいマッサージしてあげた。


「すっごく気持ち良かった。ハヤテ、ありがと」


「どういたしまして」


 本当は玲奈が寝ちゃうくらい気持ち良くしてあげようって思ってたんだけど……。


 残念ながら失敗した。


 でもスッキリした玲奈の笑顔が見えたから良しとしよう。

 

「気持ち良すぎて寝ちゃいそうだった」


「そうなの? 寝ちゃって良かったのに」


「だって、私もハヤテにしてあげたいんだもん」


「マッサージを?」


「そう。ハヤテは寝ちゃってもいいからね」


 玲奈が腕まくりをしてやる気を見せた。

 ちょっと期待が高まる。


 可愛い彼女がマッサージしてくれるって。

 そう思うだけで疲れとか吹っ飛ぶ。


「さ、寝てください。ハヤテさん」

「はーい」


 こういう時間が幸せ。


 うつ伏せに寝た俺の上に乗る玲奈の体重が適度に心地よい。


 四刀流は肩をかなり酷使する。それが分かっているからなのか、肩まわりを重点的にマッサージしてくれるのが最高だった。


「ここ気持ちい?」

「うん」


「もっと強い方がいい?」

「ちょうどいいよ」


 俺の反応を聞きながら、玲奈が微調整してくれる。


 そっか……。

 相手の反応を見ながらやるもんなんだ。


 俺はプロの動きだけを真似してた。

 マッサージって奥が深いな。


 玲奈にしてもらうのが本当に気持ちいい。


 

 意識が遠のき、俺は次第に玲奈の質問に回答できなくなっていった。

 

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