第058話 〈配信コメント欄〉
〈メアリ様を誘拐したハヤテ絶許〉
〈ハヤテはそんなことしねーって〉
〈こっちには証拠があるんだよ!〉
視聴登録者が100万人を超えると、配信中でなくとも登録者たちが自由にコメントを書き込める専用掲示板機能が付与される。
ハヤテはその機能を採用していたため、しばらく彼が配信していない間も颯のファンとメアリ・タイラーのファンで言い争いが続いていた。
〈米国の大統領だってなんも発表してないだろ〉
〈そーだそーだ! ハヤテは悪いことしてない!〉
〈だったらなんでメアリが出てこないんだよ⁉〉
〈もう3日経ってんぞ〉
〈さすがにおかしーだろ!!〉
自動翻訳機能があるため言葉の壁がなく、両者の対立は激化していく。メアリのファンが主張するように、颯が彼女を連れ去ってから何日も音沙汰ないというのが良くない状況だった。
昔からのハヤテファンからも彼を疑い始めた人も出始めたころ──
〈おい! ハヤテのブースが動いてる!〉
〈配信始まるっぽいぞ!!〉
〈マジ!?〉
日本人とアメリカ人、そして状況を見守っていた世界中の人々が『ハヤテ式四刀流推進室』のブースに殺到した。
「おぉ。同接3億人って……。やば」
なんの告知もしていないのに、配信開始後1分もしないうちに配信を見に来た人の数は3億を軽く突破している。
〈ハヤテだ!〉
〈お久しぶりです( ・∀・ )ノ〉
〈メアリ様を返せ、この誘拐犯が!〉
〈だからハヤテはやってねーよ!〉
颯はひとりだった。
どこかの室内で立って配信画面に映っている。
「一応謝罪会見って感じなんだから、もうちょっとビシッとしなさい」
〈エレーナだ!!〉
〈玲奈様!〉
〈なんかハヤテとエレーナが並んでると安心する〉
〈ふたりでいるなら駆け落ち疑惑はなしだな〉
〈おい、メアリ様は!!?〉
〈彼女がどーなったのか教えてくれよ!!〉
颯がひとりでメアリを救出して姿を消したので、彼女に一目ぼれした颯がその場で誘拐を思いつき、玲奈を捨てたんじゃないかという説も浮上していた。一番最悪な説が消えたことで安堵したファンは多い。
「ビシッと、ね。はい、そうします」
たまにやるオフ配信の時に来ている緩い感じの服装ではなく、今日のハヤテはオフィスカジュアルな格好をしている。その彼が襟を正して正面を向いた。
「視聴者の皆さん、ご心配おかけしました」
「おかけしました」
〈頭下げるってことは、悪いことしたんだ〉
〈でもなんでエレーナも頭下げるの?〉
〈謝罪会見ってこんな感じだろ〉
〈え、玲奈さんも関与してたの!?〉
「あ、えと。心配をおかけしたことへの謝罪であって、俺たちアメリカ大統領の娘さん誘拐とかやってませんからね?」
「そこんとこ、誤解しないで」
〈ん? つまり、どゆこと?〉
〈じゃあ、あれはなんだったの?〉
〈意味が分からん!!〉
「順番に説明しますね。まずはゲストさんに来てもらいしょう。ハリウッドで大活躍中の女優、メアリ・タイラーさんです」
「みんな、こんにちは」
ブロンドの髪をなびかせ、スタイル抜群の美女が配信画面に入ってきた。
〈メアリ様ぁぁぁぁあああ!!〉
〈ご無事でしたか!〉
〈しんぱいしてたんだよぉぉぉおお〉
〈おかえりなさーーーい!!!〉
「心配してくれてありがと。このとおり私は無事です。ここにいるハヤテが私を助けに来てくれたの」
〈えっ、じゃあ…〉
〈やっぱり誘拐じゃなかった?〉
〈そうだって言ってたでしょ〉
〈よっかっったぁぁぁあああ〉
〈俺はハヤテを信じてたぜ!!〉
視聴者たちの雰囲気はお祝いモードに移行しつつあったが、納得できない人々も少なからず残っていた。
〈でもでも、それならアレは?〉
〈ハヤテがなんかの薬品でメアリ気絶させただろ〉
〈医者じゃなきゃ違法行為〉
〈さすがにアレはダメっすよ〉
「あっ、その件ですが──」
「それは私が説明しよう」
そういって合衆国大統領ジョージ・タイラーが画面に入ってくる。
〈だ、大統領!?〉
〈本物なの?〉
〈さすがに大統領はヤバい〉
〈ついに米国大統領を召喚しやがったww〉
〈ハヤテ、どこまで行っちゃうんだ〉
「ハヤテが娘を拉致したように見えた場面だが、アレは私の指示だ」
〈えっ〉
〈は? そマ?〉
〈父親が娘の意識奪うように言ったの?〉
「実は……、メアリはハヤテの大ファンなんだ。それで意識を取り戻した後、彼に抱きかかえられていると気づいたら確実に取り乱す。余計なことを口に出してしまうかもしれない。私は、そんな娘の様子を国民に見られたくなかった」
「えへ。パパの言う通りかも」
美人でかっこいい女優として知られているメアリが、頬を紅潮させて下を向く姿は多くのファンをギャップ萌えさせた。
〈かっっわぇぇええええ〉
〈メアリ様すっごく可愛い〉
〈キャ───(*ノдノ)───ァ〉
〈こんな表情するんですね。好きです〉
「だからハヤテは何も悪くない。彼が使用した薬品も、私が大統領決定として使用を許可したもの。法的に問題ないことは確認済みだ」
「そーゆーことです。大統領、ご説明ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。大事な娘を無事に救出してくれて心から感謝している」
大統領が握手を求め、それに颯が応えた。
〈ハヤテがアメリカの大統領と握手してる!!〉
〈歴史的瞬間やで!!〉
〈激熱ぅぅぅうううう〉
「そうだ、これを言い忘れてはいかんな。この私、第53代アメリカ合衆国大統領ジョージ・タイラーは、ハヤテ・シズクイシを最高のダンジョン攻略者として認定し、私の任期中は彼のダンジョン攻略を全面支援することをここに宣言する」
〈ふぁぁぁああああああwwww〉
〈最強の国がハヤテを最強って認めちゃった〉
〈やっばwwwww〉
〈Congratulations!!〉
〈You deserve it! 最高の称号にふさわしい〉
〈おめでとー!!〉
〈8888888888888888〉
〈88888888888888〉
〈祝最強!〉
〈最高攻略者認定おめでとうございます!!〉
その後、颯たちが画面から消えて配信が終了するまでのわずか数分間で、視聴者たちから賞賛やお祝いのコメントは3000万件をゆうに超えた。
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