第046話
タイのダンジョンでトロフィーにされられていた歌姫様を救出した後、俺と玲奈は日本に帰国せず、そのままアメリカに行くことになった。
米国大統領補佐官のケイニーって人から、大統領の娘さんを助けてほしいって依頼が来たんだ。
タイの王様が俺たちのために凱旋パレードを開催してくれるって言ってたんだけど……。それより人命救助を優先することにした。
ちなみに玲奈を攫おうとしたことに関しては、拉致しようとしたのではなく、ロシアなどから保護する目的だったと説明された。多分だけど、ロシアや他の国の人も同じようなことを言ってくるんじゃないかな?
まぁ、それはいい。
アメリカは誤解を与えた補償として10万ドル、大統領の娘さんの救出に成功したら更に300万ドルの謝礼金を出すと言ってきた。
しかも依頼達成後はダンジョン攻略に係る俺たちの活動を米国政府が全面支援してくれるらしい。東雲財閥が米国内で取引する際、税金の優遇措置を受けられることも報酬に盛り込まれている。
かなり良い条件だと思ったので、俺と玲奈はこうして米国行きの飛行機に乗っている。ちなみにこの飛行機、玲奈の所有物なんだと。これに乗って日本からタイまで来て、今からアメリカに向かおうとしている。個人で飛行機持ってるとかヤバい。
東雲財閥の御令嬢って凄いんだなと改めて実感した。
「観光とか全くできなくて残念だったね」
「俺のわがままに付き合わせちゃってゴメン」
「ううん、大丈夫だよ。私もトロフィーにさせられてたんだもん。同じ境遇になった人をなるべく早く助けてあげたいって思う」
玲奈は女神に拉致されて、ダンジョン踏破者の意向次第では人格が消されると脅されていた。そのため、自分と同じ恐怖を感じているんじゃないかと、トロフィー救出には非常に前向きだった。
俺としてはこの依頼対応で今後玲奈と過ごすための資金確保と、彼女と結婚するための知名度アップを狙っている。あと四刀流の普及が出来るってのも大きいな。優しい玲奈と違い、俺はほぼ私欲のために動いていた。
「玲奈は凄いね」
「そ、そうかな? でも一番頑張ってるのはハヤテだよ。私だけじゃトロフィーになってる人たちをひとりも助けられないから」
そう言ってくれると嬉しいな。
自分のために行動してるけど、それで感謝されるってのは気分が良い。
一石二鳥って感じ?
「ところでアメリカまではどのくらいかかるの?」
「これは超音速旅客機だから、7時間くらいかな」
「へぇ、思ってたよりずっと早く着くんだね」
「といっても7時間かかるし、ハヤテ疲れてない? 一応、仮眠室もあるよ」
玲奈が後方を指さした。
あの部屋なんだろうって思ってたけど、仮眠室だったのか。今座っているシートでも十分寝られそうな気がするけど……。
「ちなみにベッドっていくつある?」
「1個だけ。ハヤテの方が疲れてるだろうから、寝て良いよ」
確かにベッドで横になった方が回復できる気がする。でも俺は忍者の修行で体力には自信がある。どちらかといえば俺にずっとついてきている玲奈の方が心配だった。
「玲奈が仮眠室を使って。俺はここで平気。ほら、俺って忍者の修行してるから」
「忍者の修行って、四刀流が使えるようになるかもしれないって思って始めたって言ってたよね。それとなにか関係あるの? 寝ずに行動し続ける修行とかもしてたってこと?」
「そんな感じかな。師匠がやれって言うから」
俺も正直、四刀流とはあまり関係ないかなって思ってた。だけど自分の身体能力が伸びていくのが実感できたし、後の修行で必要になるかもしれないと師匠の指示に従っていった。
「言われたこと全部やっちゃった結果が、これなんだね」
玲奈がスマホで見せてくれた配信のアーカイブには──
〈生身で10メートル飛ぶのは人間じゃない〉
〈ハヤテはハヤテって種族だからな〉
〈そっか、じゃあ仕方ないか〉
こんな感じのコメントが多数書き込まれていた。
「でもあのくらい、ハヤテなら普通にできちゃうよね。いつもの感じだったし」
「おぉ。さすが玲奈、わかってくれますか」
本当に玲奈がピンチになった時は忍者の力だろうが何でも使って、全力で助けに行く。ただあの時はそこまで危ないって感じじゃなかったから、特別な力は使ってない。それが彼女に分かってもらえてて嬉しい。
「てことは忍者の力を使えば、もっと凄いことが出来ちゃうの?」
「たぶんできるけど、チートっぽくなるからやらないかな。FWOがゲームだった時、オートエイムとかのチート機能がWeb上で有料販売されてたの知ってる?」
非公式の機能をゲームに
もちろん運営さんたちは頑張ってチートを撲滅しようと動いていたけど、世界中で人気のゲームはそれだけチートツールを販売する悪人のターゲットにされやすい。
「うん。あんなの使って何が楽しいのって感じだったけど」
「世の中には圧倒的パワーで対戦相手をねじ伏せたいって願望持つ人が結構いるんだよ。それが努力で身につけた力じゃなくて、数万円程度のお金を支払って簡単に手に入れたモノでも楽しいって思っちゃうみたい」
「でもハヤテの場合、忍者の力も訓練の成果でしょ? チートなんかじゃないよね」
「それはそうだけど……。でも俺にはたまたま忍としての適性があっただけで、その力を前提としちゃうと、俺の真似が絶対にできなくなる。誰も四刀流を使ってみようって思わなくなる」
「なるほど。ハヤテの一番の目標は四刀流の普及だったね」
「うん。ダンジョンの最速踏破もできればやりたいけど、それ以上に俺は多くの人に四刀流を使って欲しい!」
既に人間じゃないって言われてるのが少し心外だけど、マニピュレータの性能を100%引き出せば不可能じゃないんだ。
実際に最近は俺の動きを真似てダンジョン攻略を進めている人も増えてきた。SNSとかに『ハヤテ式四刀流でダンジョン攻略できましたー!』って報告を最近たくさん見るようになったんだ。だから俺は今後も忍者の力はできるだけ封印したままダンジョン攻略をしていくつもりだった。
「話を戻すけど、ハヤテは本当に仮眠室で寝ないの?」
「うん。ベッドは玲奈が使って良いよ」
「でも……。そ、それじゃあ、一緒に寝ちゃうのは?」
「一緒に?」
「ダブルサイズのベッドだから、ふたりでも平気なはず」
それって……。
添い寝しようってお誘いですか!?
マジ? いいんですか?
以前、東雲家にお邪魔した時、玲奈のお父さんからは彼女の部屋で寝泊まりするのはまだダメだと言われていた。
ここは玲奈の部屋じゃない。
しかも7時間かけて移動した後、また泉のダンジョンに挑まなきゃいけない。さすがにアメリカのホテルとかで少し休息するとは思うけど。
要は今この場で休めるなら休んどいたほうが良いんじゃないかってことなんです。
仕方ないよね。うん、仕方ないと思う。
「俺と添い寝してくれる?」
「す、すりゅ!」
噛んでた。可愛い。
シートベルトのサインは消えてる。
「玲奈、いこっか」
「うん」
席を立ち、玲奈の手を取って仮眠室に向かう。
信じられないくらいドキドキしてきた。
これ、寝れるのかな?
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