2章 最強配信者、逮捕される!? in アメリカ
第045話
颯と玲奈はタイのトロフィーになっていた歌姫を無事に救出し、タイの王族や国民から盛大に感謝されていた。国を挙げてのお祭り騒ぎになっている。
同時刻、アメリカのホワイトハウスでは──
「どれだけ時間をかければ気が済むんだ! メアリの救出はいつできる!?」
合衆国大統領 ジョージ・タイラーが声を荒げていた。
ワシントンに出現した泉のダンジョンにトロフィーとして捕らえられている娘の救出がまだできていないことに対し、ジョージは怒りを露わにする。メアリ以外のトロフィーにさせられた人々が次々に救出されているという状況も、彼を苛立たせる要因だった。
ジョージをなだめるように、大統領補佐官であるデイビッドが状況を説明する。
「大統領、もう少しお待ちください。ダンジョン攻略部隊が間もなく最終階層に到達します。彼らは他の第3等級ダンジョンを難なく踏破していますから、お嬢様も無事に保護できるはずです」
「そもそもお前がハヤテ・シズクイシの確保に失敗するからだ! 彼がいれば、今頃メアリはもう……。他国に奪われる前にハヤテを保護しろと私が言った意味を、貴様は理解していないのか!?」
「いえ、そんなことは──」
地球上では得られない貴重な鉱物やアイテムがダンジョンで確保できると分かって以来、米国大統領行政府はダンジョン踏破能力の高い人物をリストアップし、その行動を常に監視している。
ダンジョンを制する者がこれからの世界を制する存在となることが容易に想像できたからだ。そして他国のダンジョンにも入ることが出来るよう女神による世界の仕様変更が行われた際、ジョージは真っ先に颯の確保を命じた。多少手荒なことになったとしても、中国やロシアなどに彼を奪われるよりマシだと考えた。
「不埒な輩にメアリの人格を変えられないよう、泉のダンジョンを封鎖すべきだと進言してきたのもお前だ」
少し前まで泉のダンジョン踏破者の好きなようにトロフィーの人格を書き換えられるという設定があった。その設定は定春の交渉により解消されているが、アメリカはワシントンにある泉のダンジョンをこれまで完全に封鎖していたのだ。
「今回も失敗するようなことがあれば、覚悟はしておけよ」
「しょ、承知致しました」
デイビッドの身体中から嫌な汗がにじみでていた。
その時、デスク上の電話が鳴る。
電話を取り、報告を受けたジョージの顔色が暗くなった。
「大統領。その……、なにかありましたか?」
「お前が編成した特殊部隊だが、偽ハヤテという中ボスに敗北したらしい」
「そ、そんな!? ですが彼らは別エリアのダンジョンで、偽ハヤテを何度も──」
「黙れ!」
「ひっ」
「デイビット。今まで良く働いてくれた。だが、今回の失態は許せない。しばらく休め。処分は後日伝える」
ジョージが手を払う仕草をすると、絶望した顔のデイビッドを数名の護衛官が拘束して大統領執務室から連れ出していった。
「ケイニー」
「はい、大統領。なんでしょうか?」
「今から君がデイビッドの後任だ。ハヤテ・シズクイシをこの国に招いてほしい。以前の特殊部隊派遣に関しては、無理に拉致するつもりでなかったことを説明し、謝罪と賠償の意図があることを伝えてくれ。そして我が娘を無事に救出してくれたら、米国として彼らの行動を全力で支援していくつもりであることも」
「承知しました、大統領」
颯を
それから少し後のこと。
「ケイニー、ケイニー!!」
「えっ、デイビッド?」
各所に連絡を取りながら歩いていた彼女をデイビットが呼び止めた。
「あなた、なんでまだここにいるの!?」
「大統領には休めって言われただけだから大丈夫。護衛官もすぐ解放してくれた。なぁ、頼むよ。僕にも君を手伝わせてくれ。やっと大統領補佐官になったっていうのに……。お願いだ。僕に挽回のチャンスをくれ」
「いくら貴方の頼みでも駄目よ。チームには入れられない」
「わ、わかった! それじゃこうしよう。君は僕に、どうやってハヤテを招くか教えてくれるだけで良い。僕が裏で君たちを全力でサポートする。これでも使える人脈は豊富なんだ。任せてくれ。で、全て上手く行ったら、君が大統領に僕の功績を報告してくれ。それくらいは良いだろ?」
少し悩んだケイニーは、付き合いの長い同僚の頼みを聞くことにしてしまった。
デイビットが純粋に米国のことを考えて行動してくれると信じたのだ。
しかしこの男はケイニーが予想もつかないほどのクズだった。
自身の野望のため、彼は同僚と米国を裏切ってしまう。
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