第044話 〈配信コメント欄〉


 颯が偽ハヤテと戦闘していた時。


「その防御だとさ、次の攻撃に繋がんねーよ?」


〈え、なに。敵に戦い方教えるつもり?〉

〈ハヤテが偽ハヤテを鍛えるってこと?〉

〈おい、それは止めろ。絶対に止めろ〉

〈ただでさえ強い敵を強化すんなし!〉

〈マジで止めろください〉


 最強の配信者が中ボスに戦い方を教え始めた。それを配信で見ていた視聴者たちは偽ハヤテが今後、難攻不落の強敵になってしまうのではないかと危惧していたのだ。しかし──


「吹っ飛ばされるのは、敵がくれた力を無駄にしてるってこと」


〈?????〉

〈は? なに言ってんのコイツ?〉

〈あっ。これ大丈夫なやつだ〉

〈そんなん出来るのお前だけだから〉

〈焦らせんなよなww〉

〈偽ハヤテが強化されると思っただろーが!〉


 颯への批判コメントが大量に書き込まれ始めたが、それはすぐに鎮静化した。


 偽ハヤテには学習機能があるようで、少しずつ強くなっているという噂があった。仮に学習機能の搭載が真実だとしても、颯の意味不明な戦い方を偽ハヤテがすぐ吸収できるとは誰も思えなかったのだ。


「偏心回転って分かる? 回転の制御が難しくなるけど、攻撃力は上がる」


〈確かに威力は上がりそう〉

〈原理は分かるよ。でも出来ないだろ〉

〈そもそも回転すんのがむずい〉

〈偏心させたら絶対にバランス崩す〉

〈それ空中でやるなんで無理すぎ〉

〈じゃあなんでハヤテは出来てんだよ〉

〈アッ〇ーマンだからじゃね?〉

〈ハヤテ・アッカー〇ンwww〉

〈確かにアレも攻撃時に回転してるな〉

〈ハヤテのルーツが解明されちゃった〉


 そんなコメントが書き込まれた時、ハヤテはダンジョンの天井まで飛んだ。


〈また飛んだ〉

〈だから高いって!〉

〈出るぞ、必殺技!!〉


「止まってたら俺の攻撃は防げないよ」


 颯が偽ハヤテを撃破した。


〈剣ごと両断しやがったwww〉

〈ガチで凄すぎ〉

〈止まってたら防げないって言うけどさ〉

〈あれ止まらなかったら防げたの?〉

〈てか偽ハヤテも回避すりゃ良いじゃん〉

〈落下攻撃には敵モンスターに回避速度低下のデバフがかかるって効果があるんだ〉

〈それで敵は逃げにくくなる〉

〈マジ? FWOって、そんな仕様なの?〉

〈今もその傾向があるらしい〉

〈現実だと検証回数が少なくて確実じゃないけどな〉

〈ハヤテの飛び上がり攻撃を避けたモンスターいないから、割とその線が濃厚〉

〈そもそもなんで飛び上がるの? 攻撃が当たりやすくなるからって理由だけ?〉

〈飛んだ方が攻撃力上がるんだよ〉

〈へぇ、そうなんだ〉

〈ハヤテの行動には全部意味がある〉


〈落下攻撃ボーナスと、回転攻撃によるモーションボーナス。それに加えて飛び上がる前に武器交換もしてたから、それのボーナスも加算される。こんだけ攻撃力を補正してはじめて中ボスを一撃で倒せるんだ〉


〈なるほど。勉強になります!〉


 偽ハヤテは速度と物理攻撃特化の中ボスであり、防御力はそれほど高くない。しかし第3等級ダンジョンの中ボスでは間違いなく最強だった。そんな最強の敵に颯が強くなるポイントを教えた。視聴者たちは冗談で〈強化すんな〉と言っていたが、あの意味不明なアドバイスで本当に中ボスが強くなるなんて思えるはずなかった。


 しかし、とある書き込みで状況が一変する。


〈あ、あのさ。ちょうど今、FWOのプロゲーマーが指揮する中国のダンジョン攻略団が偽ハヤテと戦ってたんだけど……。なんか、全滅しちゃった〉


〈あらら。ご愁傷様〉

〈偽ハヤテは強いからしゃーない〉

〈攻略団が全滅って、全員死んだ?〉

〈蘇生薬はまだまだ高いぞ〉

〈中国の攻略団は国家公認だから備えも万全だろ〉

〈でもそいつらって普通に強いんじゃねーの?〉

〈それ以上に偽ハヤテが強いってことか〉


〈それが、実はその攻略団って偽ハヤテと連戦してたんだよね。ハヤテが配信でレア泥してた最新のマニピュレータを、彼らも確保しようとしてたみたい〉


〈何回か倒してたんだ〉

〈偽ハヤテと連戦はスゲーな〉

〈さすが中国、人材が豊富だ〉

〈連戦で疲れたってこと?〉

〈ミスっちゃったか。どんまい〉

〈引き際の見極めは大事だね〉


〈ミスとかじゃない。俺、ハヤテの配信とその中国攻略団の配信を2画面で同時に見てたけど、ハヤテが偽ハヤテを倒して少ししたら、急に中国の偽ハヤテが強くなったんだ〉


〈ん? そ、それって……〉

〈え、マジで強くなったの?〉

〈リアルタイム強化?〉


〈偽ハヤテが中国攻略団の盾役をガードごと両断してた。それも、ハヤテが使った技を完コピして。そっちのコメント欄だと、偽ハヤテの回転がなんか変わった、みたいなことも書き込まれてた〉


〈…………〉

〈…………〉

〈……ヤバくね?〉


 日本の視聴者たちは颯がやらかしたのではないかと考えた。


〈ま、まぁ大丈夫だろ〉

〈もし本当にそうなってコイツ倒せなくなったとしても、第4等級ダンジョンは入れるようになってるんだから、そっちに行って装備強化してから再挑戦すりゃいい〉

〈そうだな。それで問題ないか〉

〈強くなってから戻って来て偽ハヤテ倒せば、第4等級のボスにも挑める〉


 FWOをプレイしたことのある視聴者たちが書き込んだように、現実世界でも第3等級のボスを倒す前に第4等級ダンジョンに挑戦することは可能だった。


〈そうだとしても強化版偽ハヤテってマジで厄介じゃね?〉

〈すんごいボトルネック。本気で邪魔〉

〈他国に後を追いかけさせないつもりか〉

〈もしかしてハヤテたち、分かってやってた?〉

〈可能性はあるな。玲奈との会話も全部演技で〉

〈ダンジョン産のアイテムが資源問題を解決する〉

〈一次資源が少ない日本にはありがたい話だ〉

〈ダンジョンを制する者が世界を制する時代!〉

〈これで第4等級以上に行くための壁ができた〉

〈でもハヤテがいるこの国は関係ないぞ〉

〈第6等級からはエリアごとに解放されたはず〉

〈それ現実でも踏襲されんのかな?〉

〈もしそうなら日本が優位に立てる〉

〈ハヤテ。早く日本に戻っておいで〉

〈ハヤテ様。お待ちしておりまーす!〉

〈帰ってきたら最重要人物扱いになるだろ〉

〈国賓級だよ。政府の人、おもてなしよろしく〉

〈丁重にもてなすんだ。絶対だぞ〉

〈くれぐれもハヤテ様の機嫌を損ねないよーに〉


 こんな書き込みがされているとは知らない颯と玲奈。


 彼らは装備をチェックすると、ラスボスであるウンディーネが待つ部屋へと向かった。

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