第047話


「……玲…様、…玲奈お嬢様。それから颯様、起きてください」


 扉を叩かれる音で目を覚ました。


「あれ、ここは」


「もう間もなく着陸のお時間です」


 仮眠室の扉の向こうから声をかけられる。

 それは一緒にこの飛行機に乗り込んだメイドさんの声だった。


 俺は、確か玲奈と仮眠室で──


 ふと横をみると、小さな寝息を立てる玲奈がいた。


 彼女と一緒にこの仮眠室に入ったところまでは思い出した。ドキドキしながらベッドに横たわり、玲奈と軽くハグしながら色んな事を話した。


 しばらくして玲奈が眠そうに欠伸をしていたから、俺が『寝て良いよ』と言ったら彼女は『寝顔を見られるのは恥ずかしいから寝ない』と拒んだんだ。


 だから俺が先に寝るって言って目を閉じて……。


 えっ、それで俺がほんとに寝ちゃった?


 しばらく寝たふりするだけのつもりだったのに。忍の修行の一環で寝ずに動き続ける訓練もこなした俺が、玲奈より先に寝落ちした?


 自分でもいつ意識を手放したか分からない。

 そんなに疲労も蓄積していなかった。


 てことは、玲奈が抱き枕としての性能高すぎって疑惑が湧いてくるな。


 忍者の修行をしてからは、基本的にいつも眠りが浅かった。30秒くらいの短期深層睡眠で身体の調子を整えたりもしていたが、ここまで深くて長い眠りは本当に久しぶりだった。


 玲奈を助けに行く前、東雲グループの高級マッサージ店の美人さんたちにマッサージしてもらった時もすぐに疲労が回復したから、意識を手放したのは長くて十秒程度。家族以外のいる場所で完全に安心できない身体になってる。


 そんな俺が玲奈のおかげで熟睡できた。

 身体の調子がとても良い。


 やっぱり睡眠って、大事なんだな。


「颯様、起きていらっしゃいますか?」

「あ、はい。起きてます」

「あぁ、良かった。そろそろ着陸準備のお時間ですので、着席していただけますか? それから、お嬢様はまだお眠りでしょうか?」


 玲奈はまだ寝てる。


 扉越しのメイドさんに聞こえる声で俺が話しているのに起きなかった。


「まだ寝てますね。俺が席まで連れていきます」

「分かりました。よろしくお願いします」


 メイドさんの気配が遠ざかっていく。たぶん、俺たちが性的なことをしてた場合を危惧して扉を開けられなかったんだろうな。


 さすがにまだ手を出したりはしない。


 仮眠室で一緒に寝てる時点で、他人からしたらアウトなのかもしれないけど。


「玲奈、座席まで運ぶね」


 返事はなかった。

 俺が抱き上げても玲奈はまだ起きない。


 眠り姫ですね。

 やっぱり寝顔、可愛いよ。


 さて、ふたり横並びの席とひとり用の広い席。どっちに座らせようかな。


「とりあえず、何があるかわかんないからこっちね」


 離陸時に座っていた席に玲奈を座らせる。


 空港に着くなり、アメリカの特殊部隊に取り囲まれるってことはないと思いたい。東雲さんが大統領行政府と交渉してくれたから、問題はないはず。


 でも念のため、玲奈にはできるだけ俺のそばにいてもらおう。

 なにがあっても絶対守るからね、玲奈。

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