第048話
かなり気を張ってたんだけど、着陸とかで特に問題は起きなかった。
玲奈も普通に起きて、彼女と一緒にVIP専用の入国カウンターまで来ている。
出国は東雲財閥の力があれば代理でも手続きできた。でもアメリカでの入国はひとりひとり審査を受けなきゃいけないらしい。一昨年この国では大規模なテロがあったから、その影響だという。
「なんか顔が暗いよ、ハヤテ」
「タイの時と違って、審査がひとりで受けなきゃいけないから不安なんだよ」
「流石に他国のルールだからね。お父様の力でもどうしようもない。でもハヤテならきっと大丈夫だから。ほら、さっき教えてあげた対応を頭の中でシミュレーションしておいて」
「う、うん」
パスポート見せて、名前を言って。
目的は? って聞かれたら観光(サイトシーイング)って答える。
ダンジョンを踏破して、トロフィーにさせられてる大統領の娘さんを助けることです──なんて、英語で言える気がしない。うん、絶対無理。ちなみにタイの入国の時は事前に話が通っていたこともあり、玲奈と一緒に審査場に入れたから何の問題もなかった。
少し待つと俺の番が来た。
「ハヤテ、頑張って!」
緊張しすぎて声が出なかった。
無言で玲奈に手を振っておく。
そーいや俺、もしFWOで四刀流が廃止されてなかったら、イベントのためにひとりでこの国に来ようとしてたんだ……。あの時は勢いで予選大会を勝ち抜いていったけど、こんな感じになるなんて予想もしてなかった。
言葉が通じないのって、マジで怖いな。
俺の旅券番号を呼び出した係の人から、少し離れた個室に移動するように言われたっぽいので指示に従う。言ってることはほとんど分からないけど、指さしたりしてくれるからなんとかなってる。
個室に入った。
ガラスで仕切られた向こう側に目つきの悪いオッサンがいた。
VIP用なのに、こんな不愛想な人が担当で良いんですか?
そんなことを思いつつ、玲奈に言われた通りに行動する。
まずはテーブルの上にパスポートを置く。
それをガラスに空いた穴からオッサンへ渡す。
俺のパスポートを開いたオッサンが、スキャン装置のようなものに通していた。
「名前は?」
あ、あれ。日本語なんだ。
「雫石颯です」
「この国に来た目的は?」
「えっと。観光です」
日本語が通じるなら、大統領の依頼でダンジョン攻略に来ましたって回答しても良かったかもしれない。でもトロフィー救出ミッションをクリアしたらこの国を観光するんだから嘘じゃない。きっと大丈夫だろうって思っていた。
椅子に座っていたオッサンがいきなり立ち上がった。
何か怒ってるみたい。
急に英語になって、しかも早口だから何も理解できない。
え、えっ? なに!?
俺、なんかやっちゃった!?
意味が分からず狼狽えていると、警備員がふたり部屋に入ってきた。
その人たちに両腕を拘束される。
かなり体格のいい警備員に捕まってしまった俺。忍者の力を使えばこの程度の人たちなら倒して逃げることは可能だけど、それをするとこの国の法律的にヤバいかもしれない。
でも大統領に依頼されて娘さんを助けに来たのに、入国時に捕まるとかある?
これ、なんかの間違いじゃないですか!?
……そ、そうだよな。
きっと何か手違いがあったんだ。
まだ慌てる時間じゃない。
俺が今気にしなきゃいけないのは玲奈の安否だ。
彼女の気配に集中する。
あ、良かった。彼女は審査を通過したみたいで、別のゲートで入国審査を受けていたメイドさんたちと合流していた。
捕まっているのは俺だけ。
じゃあやっぱり観光ですって嘘を言ったのが良くなかったのかな?
さっきの人は凄く怒っていたから、きっと俺が何かやっちゃったんだ。
俺って、この後どうなっちゃうんですか!?
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