第035話 〈配信コメント欄〉
その日、世界中が驚愕した。
黒装束に身を包んだ2~4人の集団が、ダンジョンをとんでもない速度で攻略し始めたのだ。最初にその様子が注目を浴びたのは中国だった。そして同じような黒装束の集団が、他の国でもダンジョン攻略を開始していた。
しかも彼らは全員がマニピレータを装備し、四刀流を使っていたのだ。
〈なにこいつら強くね!?〉
〈何者だ?〉
〈顔がわかんねーな〉
〈忍者みたい〉
〈海外の掲示板もNINJAだって騒いでる〉
〈でもこの動きって──〉
視聴者の多くは、ダンジョンを疾走するそのNINJAたちの動きに見覚えがあった。
〈なんかハヤテみたいだな〉
〈俺もそう思った〉
〈でもハヤテよりキレはない〉
〈劣化版ハヤテか〉
〈量産型ハヤテかもな〉
〈でもなんでいきなり出てきた?〉
〈こんなに強いなら話題になるはず〉
──と、ここで何人かがあることに気付く。
〈もしかしてこいつらハヤテ式四刀流を使いこなせるようになった人なんじゃね?〉
〈えっ〉
〈あの配信を見て?〉
〈いや、無理だろ〉
〈ありえねー〉
〈あの動きが出来るのはハヤテだけ〉
〈ハヤテはハヤテだからハヤテなんだよ〉
〈なに言ってんのかわかんねーなw〉
〈もはや哲学www〉
〈でも見ろよ。防御でとりあえず回っとくの、ハヤテの動きだろ? それにほら! 今やったマニピュレータで高く飛んで、落下回転しながらの強攻撃。これはハヤテが良く使う技だろ。完全にハヤテの動きをトレースしてんだよ〉
〈……たしかに〉
〈え、もしかして〉
〈やったらできちゃった系の人?〉
〈それにしては多くね?〉
黒装束の四刀流使い集団は全世界で時差を無視してほぼ同時にダンジョン攻略を開始していた。その数は判明しているだけで90組、200人以上。
トロフィーとして有名人たちが捕らえられているダンジョンの半数を、彼らは一気に攻略していった。
〈これ、本物の忍者なんじゃね?〉
核心に迫る人もいた。
しかし──
〈だったら忍術使えって〉
〈そうだな〉
〈こいつら四刀流だし〉
〈忍者だけど、忍術は使えない?〉
〈火遁! って火とか吹いてほしいな〉
〈でもダンジョンだとビックリ人間程度〉
〈そもそも武器は持ち込めない〉
〈身体能力は高いからハヤテ式が使えるんだろ〉
〈で、使ってみたら実際に強かったと〉
〈なるほど、わかったぞ。身体能力の高い忍者が実在するけど、人外な術的なモノは使えない。でもそんな奴らがハヤテの配信を見たら真似できちゃった。だから世界中に忍者を派遣して有名人を救出し、報酬をゲットしようとしてる。俺の推理どう?〉
この書き込みは視聴者たちの思考を誘導したい伊賀忍諜報部隊によるものだった。そして、その計画は見事成功する。
〈うん、まぁしっくりくるな〉
〈ありえなくはない〉
〈状況的にも説明がつく〉
〈動きは完全にハヤテ式四刀流だもん〉
〈NINJAって、ほんとにいたんだ〉
〈伊賀(三重)に忍者の里あるぞ〉
〈滋賀県の甲賀にもな〉
〈そこいけば俺も四刀流使えるかな?〉
〈まず忍者の修行が先だ〉
〈ダンジョン攻略に四刀流が必要で、四刀流を使いこなせるようになるには忍者になる必要があるのか……〉
〈そうだ、忍者になろう!〉
〈そんで四刀流使えるようになる〉
〈そんでダンジョン踏破でウハウハだ!〉
こういう書き込みがあった時、実際に行動に移す人の割合はそれほど多くない。しかし世界中で四刀流、そして忍者への関心が高まっていた。
その結果、伊賀と甲賀の里にはかつてないほど多くの忍者体験希望者が殺到する。空前絶後の忍者ブームが巻き起こるのだが、現時点では誰もそこまでなるとは予想していなかった。
〈おい、ハヤテが配信してるみたい〉
〈まじ? そっちのブースいかなきゃ〉
〈どこ攻略すんの?〉
〈えーっと〉
〈関西エリアに出現したダンジョンみたいだな〉
関東エリアに出現した泉のダンジョンを踏破した颯。彼は世界各国のダンジョン攻略を弟子の中忍たちに任せ、本人は日本の残りもうひとりのトロフィーにさせられた人を救出すべく大阪にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます