第033話 伊賀中忍 北条さくら(1/2)

 

 先日対応した護衛任務の成果が認められ、私は中忍へと昇格しました。


 あぁ、まず自己紹介しておきましょう。


 北条ほうじょう さくら と申します。


 私は東京の会社で働くOLです。

 というのが表の顔。


 里からの指令があった際は陰で任務に就く伊賀の忍。それが私の裏の顔です。



 幼い頃に読んだ忍者の漫画にハマり、私は忍びの道を目指しました。


 まさか本当になれるとは思っていませんでしたが……。


 現代日本には本物の忍者がいるんです。そして私たちは人知れず政府要人を護衛し、国に仇名す外敵を排除し続けてきました。


 ちなみに外敵排除というと物騒に聞こえますが、基本的にターゲットの暗殺とかはしません。日本は司法国家ですから。我々の仕事はターゲットを無力化し、司法機関に引き渡すこと。


 そのため私たち忍者には、銃火器を持った敵を無力化する力が求められます。


 下忍という称号が忍者では最下級の存在なのですが、その下忍ですらクナイ1本で銃弾を弾くことができます。そのくらいの実力がないと下忍にすらなれません。


 伊賀の里から輩出された下忍の数は現在およそ2万5千人。そして私と同じ中忍は4千5百人。更に上の階級である上忍が5百人います。半数は日本国内で要人警護や国内に滞在する要注意人物の監視を行い、残りの半数は国外で諜報活動をしています。


 ちなみにこの情報、伊賀の里に遊びに来れば誰でも知ることができます。


 里にある忍者資料館。そこに設置された忍者に関する説明文に、全く同じことが書かれているのです。


 しかし来場された方は『面白い設定だ』としか思わないようです。


 真実って、隠そうとしない方が案外バレないんですね。



 今回私は、伊賀忍の頭領である服部様の命により招集されました。


 頭領の名が書かれた指令書を受け取ったのは初めてなので、中忍になったばかりの私は緊張していました。


 指定された場所に行くと、そこには日本各地で活躍されている著名な中忍の方々が何人もいたのです。私が伊賀の里でお世話になった中忍の九十九つくも様もいらっしゃいました。彼女は中忍筆頭。中忍をまとめる役職でもあります。


 その九十九様から、整列して待機するように言われました。


 集められたのは中忍が30名。


 ついにこの国、戦争でもするんでしょうか?


 フル武装した傭兵10人程度なら、ひとりで無力化できる忍者が30人。

 

 投入する場所を間違えなければ小規模な軍隊を壊滅させられます。


 ドキドキしながら指示を待ちました。



「皆の衆。此度は良く儂の招集に応じてくれた」


 私たちが集められたのは、とあるイベントスペース。前方にはステージがあり、その上にいつの間にか白髪の老人が立っていました。


 中忍になった私が、どうやって彼が現れたのかすら分かりませんでした。


 伊賀忍者頭領、服部 什造様です。

 日本最強の忍者のひとり。


 独裁者となった某国の大統領を暗殺し、第四次世界大戦を食い止めた伝説の忍者なのです。


 まさかこんな場でお会いできるなんて。

 感動で声が漏れそうになりました。


 でも私は忍び。

 それも中忍です。


 喜びの表情すら見せるわけにはいきません。


 

みなにやってもらいたい任務は、世界各国に出現したダンジョンからのターゲット救出だ。既に交渉役がターゲット関係者と接触し、成功報酬などが決定している。そのため失敗は絶対に許されぬ」


 ダンジョンが世界中に出現したことは当然知っています。それがFWOというゲームの設定を模倣していることも。実は私もFWOで遊んでいましたから。


 ただ、現実世界に出現したダンジョンにはまだチャレンジしていません。


 ダンジョン攻略の様子が勝手に配信されてしまうからです。私の表の顔はただのOLですので、忍の技を使ってダンジョンを無双するなんてことはできません。


 本当ならやりたかった。

 無双できるはずでした。


 そんなことを考えていた時に、今回の任務。


 もしかして、やっちゃっても良いんでしょうか?


「しかし、知っての通りダンジョン攻略の様子は全世界に配信されてしまう。儂ら忍の技を世界に見せるわけにはいかん」


 ……ダメだそうです。


「儂らの技がよこしまな者に渡れば、それだけ世界情勢が不安定になる。真の忍の存在は、まだ知られる訳にはいかんのだ」


 では、一体どうやって?

 

 いかにしてダンジョンを攻略しろと仰るのでしょうか?


「そこでの技をつかう」


 ステージに歩いて登ったのはひとりの青年でした。


 私は彼のことを知っています。


 雫石しずくいし はやて君。FWOがゲームであった時から有名な配信者でしたが、今は世界で最も注目されている配信者になったと言えるでしょう。


 東雲 玲奈さんを助け出したあのシーンは本当に感動しました。


 彼の動きはどこか伊賀忍者のモノに近いと感じていましたが、この場に現れるということは、やはり教えを受けていたみたいですね。


 颯君がステージに向かうまで、私は彼の気配に気付けませんでした。少なくとも私よりはずっと強い忍者なんだと思います。


「多くの者がここにいる颯のことを知っているだろう。つい先日、颯はダンジョンからひとりの少女を救い出した。その際に使ったのが、ハヤテ式四刀流だ」


 知っていますよ。

 私は彼のファンですから。


「勘の良い者はもう分かっていると思うが、ハヤテ式四刀流は儂ら伊賀忍の技を応用している。そして颯は一般人に、それが忍者の技であると思われないような環境を創り出すことに成功した」


 それってつまり、ハヤテ式四刀流を私たちが使っても問題ないってこと?


 彼の技を使えばダンジョンを無双しちゃっても良いってことですね?


「いくら儂でも、いつだれがどこから見ておるか分からぬ状況で全く気取られずに忍の技を使うのは困難だ。しかし既に『ハヤテ式四刀流を極めた者なら、このくらいできてもおかしくない』と世間に認知されている技なら使ってしまっても良い。今から皆には、この颯から技を学んでもらいたい」


 私は彼のファンなので喜ばしいのですが……。中忍の中にはプライドが高い人もいます。上位の忍の命令は聞きますが、忍びとしての素性が分からない颯君の指導を素直に受けるでしょうか?


 もしもの時は、ファンとして私が彼の味方になるつもりです。


「ちなみに颯は現代で儂が唯一免許皆伝の書を渡した男だ。ここにおる全員が束になっても勝てぬぞ。よからぬ考えは起こすなよ」


 わーお、マジですか颯君。

 ──いや、颯様。


「特別上忍となった颯が、今から皆に技を授ける。修得に専心せよ」


「「「御意!」」」


 集まった中忍30人が膝を付き、颯特別上忍への敬意を示しました。

 

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