第032話 〈配信コメント欄〉

 

「話が逸れちゃいましたが、本題に入ります。視聴登録者さんが増えてきたんで、久しぶりに四刀流の普及活動をやっていこーかなと」


 そう言う颯に対して、古参メンバーからは否定的な意見が多数書き込まれる。


〈ハヤテの普及活動って……〉

〈動きを真似しろってアレだろ?〉

〈そーいや、前もやってたな〉

〈でも誰もついてけなかった〉

〈ハヤテの真似って〉

〈早い話が人間辞めろってことだぞ〉

〈絶対無理だろwww〉


「大丈夫です。今回は簡単な内容からやっていきますので! 少しずつ出来ることを増やしていきましょう!!」


〈ほんとかなぁ?〉

〈まぁ、出来るだけ真似してみるか〉

〈もし出来たら強くなれる!〉

〈俺もトロフィー救出行きたいな〉

〈お前はめっちゃ下心ありそう〉

〈玲奈の人格そのままにしたハヤテが聖人〉

〈人としてはそれが当然だろ〉

〈でも俺は悩んじゃうかな〉

〈自分を好きになってもらうぐらいはする〉

〈お巡りさん、コイツらです〉


「なんか盛り上がってますが、進めていきますね。終盤は結構激しく動くので、広い場所でやってください。あとこの配信視聴の推奨フレームレートは144以上です」


〈動き真似しろって配信で推奨fps?〉

〈ゲームじゃねーんだからww〉

〈意味わかんねーな〉


 疑問の声が上がるが、颯はそのまま配信を継続した。そもそもこの配信、全世界で見えるようにしているものの、その対象は一般人向けではなかった。


「まず軽くその場でジャンプします。できますね」


〈舐めんなww〉

〈こんぐらい余裕〉

〈俺、ハヤテと同じ動きができてる!〉

〈スゲーなお前www〉


「はい次に行きまーす。その場で飛びつつ、回転します。いいですか? ハヤテ式四刀流の基本は回転技です。回転が最重要なんです。まず前を見ていたところから、ジャンプして後ろを向くとこまでやってみてください」


 颯が軽くジャンプし、身体を捻って後ろを向く。


〈まだいけるな〉

〈よゆーよゆー〉

〈ダンジョン攻略って、割と簡単?〉


「できた人が多そうですね。次は両腕を身体に巻き付けて、それを開きつつジャンプする感じで。こうすると前を向いた状態で飛んで、再び前を向くまで回転できます」


〈あ゛?〉

〈ちょいムズなんだが〉

〈俺は出来たぞ〉

〈トランポリンあればできる〉

〈腕開くタイミングむずくね?〉


「この辺から難易度上がりますよ。さっきは腕を開いただけでしたが、次は更にその腕の反動を使ってもう半回転します」


 前を向いていた颯がジャンプし、1.5回転して後ろを向く。この時点でそれなりに回転数が多いように見えてくる。


〈一般人俺氏、ここで離脱〉

〈無理無理むりww〉

〈こう思うとフィギュアスケート凄いな〉

〈4回転とか異次元〉

〈アレは氷の上だから〉


「こっから先は同じ要領で回転数増やしていけます。横回転だけじゃつまらないので、縦回転も入れていきますね。あ、ちなみに助走つけて頑張れば、ここくらいまでマニピュレータの補助なしで回転できます」


 軽く3歩ほど走り、飛んだ颯は5回転して地面に着地した。


〈は?〉

〈は?〉

〈はぁ!!?〉

〈なんなんそれ〉

〈地面で何回回ったんww〉

〈4…、いや、それ以上?〉

〈今スローで見たら5回転してた〉

〈まじ??〉

〈地上で腕の反動だけで5回転w〉

〈人間の脚力じゃねーよ〉

〈せめてマニピュレータありでやれ〉


 ツッコミが増えてきたが、颯は気にせず配信を続けていく。


「次は縦回転やっていきます。まずその場で前方宙返り。これは腕で反動をつけて飛んで、回る時は足を抱え込むような感じで」


〈どこで配信してるか知らんが、下はコンクリだろ? 怖くねーのか?〉


 横回転はともかく、縦回転には恐怖を覚えて真似できない視聴者が多かった。


 ちなみに颯は東雲グループ企業が管理するイベントスペースを借りてこの配信を行っている。配信に映るのは彼だけだが、カメラの裏には30人ほどの伊賀忍たちが間隔をあけて並び、颯の動きを真似していた。


 この場にいるのは全て伊賀忍頭領の服部 什蔵に召集された中忍たち。当然彼らはここまで颯の動きを完璧にトレースしている。


「助走すれば前方3回転ぐらいは行けますね」


〈こっからは見学しよ〉

〈学ぶことなんてねーよw〉

〈世の中にはすげー奴がいる〉

〈傍観者になるしかないぞ〉


「続いて後ろ回転。これは足に装備があれば敵の攻撃を弾きつつ、距離をとる時にも有効な動きです。回転のコツはサッカーボールを蹴るような足の動きで反動を得ること。身体の柔らかい人なら割と簡単です」


 その場で颯が後方宙返りをする。


「ここに最初の横回転を合わせます。後ろ回転には足を振った反動を。横回転は腕を振った反動を使います。こんな感じ」


 綺麗な後方宙返り1回ひねりを決める颯。


〈88888888〉

〈凄いよ。もう十分凄い〉

〈こいつ体操選手だった?〉

〈逆に体操選手なら四刀流いけるんか〉

〈今は素手だけど武器持つんだぞ〉

〈マニピュレータも装備する〉

〈そんな状態で飛べるわけねーだろ〉


「俺の動きは基本的に反動使って回転するので、武器とか持ってると回転数は更に増やせますね。試しに左右の手に5キロの重りを付けてやってみましょう」


 画面外から投げられた5キロのリフトウェイトふたつ。それを受け取った颯が両手に装着する。


「筋力はそれほど重要じゃありません。大事なのは重心がどこにあるか。回転軸はどうなっているかを把握することです。そして回るのが目的ではなく、この回転力を活かして最高に重い攻撃を敵モンスターに叩き込むこと」


 少し助走した颯が、前方宙回転2回ひねりをしながら地面に着地する。その際に、力強くコンクリートに拳を叩きつけた。


 ゴッ! っという、重い音が鳴り響く。


〈えっ、痛くないの?〉

〈痛いに決まってんだろ〉

〈しかもあの勢いって…〉

〈指の骨折れるんじゃね?〉

〈生身でコンクリ殴るなよ〉


 そんな視聴者たちの心配をよそに、颯は配信を続けた。

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