第030話

 

「ちなみに玲奈を人質にしてまで俺にダンジョン攻略させようとする理由は?」


「自国のダンジョンに捕らえられたトロフィーを救出させるのが目的のようだな」


「そんなの、普通に頼んでくれれば手伝うのに……」


「世界の指導者たちはお前がそれほどお人よしだとは思っておらん」


 困っている人がいるなら助けに行くでしょ。


 それが俺の知名度を上げることに繋がるし、お金も稼げるかもしれない。玲奈に相応しい男になるって目的に一歩近づくんだ。


「拉致されて無理やりダンジョン攻略させられるのもなんか嫌だし、俺は自分から行きますよ」


 ただ問題は、助けなきゃいけない人数だった。


 東雲グループの調査により、世界中でトロフィーになった人の傾向は分かっていた。アイドルの様に多くの人から愛されてる人が攫われたわけじゃない。玲奈もかなりの人気者だけど、動画配信サイトの視聴者登録者数は60万人程度。彼女よりもっと人気のある配信者はいくらでもいる。


 それでも玲奈が日本関東エリアのトロフィーに選ばれた。


 つまり本人の人気だけじゃなく、その人物を本気で守りたいと考える存在がどれだけの力を有しているかもトロフィー選出の基準になっているみたいなんだ。


 分かりやすい例がアメリカ合衆国大統領の娘さん。


 彼女はハリウッド映画でも活躍する女優で、人気者かつ親が権力者。女神がターゲットにしようとするのも納得できる。


 だいたい5千万人に1人の割合で各国のダンジョンに人が連れ去られているらしい。今この世界の人口って90億人近いから、約180人も助けなきゃいけない。


 180人かぁ……。

 全員助けるのはマジでしんどいぞ。


「困っておるな。そんな颯に良い提案がある。伊賀忍の頭になれというのは、少し保留にしよう。まず儂の推薦を受けて特別上忍になれ。そうすれば数百人の中忍や下忍を指揮できる。お前が指導すれば、そやつらが第3等級ダンジョンを踏破するのは容易いだろう」


「なるほど。俺が180人助けるために世界を駆け回るより、ずっと早そうですね」


「特別上忍であれば護衛などのノルマなどはない。もし可能なら、東雲から受け取れる金の一部を里に回してくれると助かるが」


 忍って、ほんとに資金難なんだな。


 それは置いといて、中忍クラスを数百人も動員して良いなら何とかなる気がする。

 

 とりあえず、どんな武器を使ってもらうのが良いかなー?



 ……あっ、そうか!


 ここで俺はあることを思いついた。


 俺が大好きなを数百人に普及するチャンスだってことに気付いてしまった。


 ほんとなら他人の武器を指定するのは好きじゃない。


 だけど最短でトロフィーにさせられた人を救いに行くなら、俺の動きを完全にトレースしてもらうのが一番手っ取り早い。伊賀中忍ならそれができちゃうと思う。それなりに強いダンジョン攻略者を数百人も量産できるんだ。


 アメリカ大統領の娘さんとか、特に注目されてそうな人は俺が助けに行って知名度を上げさせてもらうとして、残りは全部お任せしよう。



「なんかハヤテ、楽しそうだね」


「そう見える?」


「ニヤニヤしてた。さては中忍さんたちに四刀流を使わせようとしてるんでしょ」


「えっ」


 玲奈さん、もしかしてあなた読心術使えちゃうんですか?


「ハヤテが四刀流関連で何かしようとしてる時、口角が少しだけ上がってるの。やっぱり自分じゃ気付いてなかったんだね」


 ……いや、凄いな。

 俺のこと見すぎでしょ。


 俺以上に俺のことに詳しいじゃん。


「まぁ、そんなとこかな。師匠、俺としてはその提案を受けようと思います」


「そうか、わかった。では儂は世界中に散っておる中忍たちに声をかけておく」


「はい。よろしくお願いします」


 ちょっとワクワクしてきた。


 ハヤテ式四刀流超短期修得コースの開催だ!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る