第029話
「ご、ごめんね。ハヤテがそんな冗談言うのが意外過ぎて」
声を上げて笑っていた玲奈が申し訳なさそうにしてくる。
「修行したのは本当なんだって」
「でも通信教育なんでしょ?」
「うん、まぁ……。そうだけど」
だって修行地候補が三重県か滋賀県もしくはオンラインってなってたら、オンライン一択でしょ。交通費も下宿費用もかからないし、受講料が30%オフなんだから。
「それで、ハヤテはその修行でどんなことができるようになったの? そもそもなんで忍者の修行しようとしたのよ」
「忍者って、なんかたくさん武器使いそうなイメージがあったから。忍者のとこで修行したら、何らかの形で四刀流が使えるようになるんじゃないかなーって思って」
「ここでもやっぱり四刀流が出てくるんだ」
「もちろん。それから修行で何ができるようになったかっていうと、身のこなしとか気配を察知することかな。ちなみに今、俺たちの周りに14人隠れてる」
「えっ?」
「玲奈の家を出た時からずっとだよ。敵意は無いみたいだから、玲奈のSPさんなんでしょ? さすが天下の東雲家だね。かなり隠密技量の高いSPさんたちだ」
「え、えっ。ちょっと待って。もしかしてハヤテって、
「ん? どういうこと?」
本物って、なんのことだろう。
疑問に思っていると、玲奈が手を叩いた。
音もなく彼女の隣に黒装束の人が現れる。
身体のシルエットから、女性だと思う。
「こちら、私の護衛の望月さん。ねぇ、今日の護衛って全部で何人?」
「14名で護衛しております。玲奈様」
「ほらぁ。合ってたじゃん」
気配察知の力が衰えてなくて良かった。
「え、でも。うそ……。だってハヤテは通信教育で」
なんだ。
やっぱりまだ疑ってたのか。
「私も会話を聞かせていただきましたが、正直に言って信じられません。伊賀と甲賀、双方の宗家の指示により、近年は有望な若者探しのためにインターネット上で忍者の布教をしていることは確かです。しかしあくまでそれは忍者体験のお遊び。本物の忍びの術を通信教育のみで身につけるなど不可能なはずです」
そうは言っても、出来ちゃったからなぁ。
「望月さんから見て、ハヤテは本当に忍者の修行したんだと思う?」
「彼の動画は拝見しています。忍の動きかと言われれば、確かに近いものはありますね。特に防御の際に回転しようとするのは、近代式忍術らしい動きです」
俺が受講したコースがまさに近代式忍術だった。
最近の忍者って、護衛対象を銃火器から守らなきゃいけない。そんで銃弾とか爆風って、割と回転で防げたりする。そんな理論で俺は師匠に回転技を教えてもらった。
「そもそも彼は私が現れた時、まったく驚きませんでした。気配で私たちの存在に気付いていたというのも事実なのでしょう。ちなみに颯様は、修行を担当した忍者の名前を憶えていますか?」
「伊賀の服部 什蔵先生です」
「それって──」
「ほ、本当ですか!? 彼は伊賀忍者の頭領ですよ!」
「えっ、そうなの? うちでバイトしてるよね?」
什蔵先生……。俺が修行受けてた時もボヤいてたけど、お仕事がなさすぎるからって、ついに関東まで出て来てバイトし始めたんですか。
「バイト? 玲奈様、いったい何のことでしょうか?」
「たまに私のことを守ってくれるおじいちゃんでしょ?」
この玲奈の回答に、望月さんが困惑した素振りを見せる。
「わ、私はそのようなこと聞いておりません。それに玲奈様のお屋敷に服部 什蔵が来ることなどありえません。玲奈様は一体どこで彼と──」
「普通にお嬢ちゃんの部屋だ」
白髪の爺さんが現れた。
この感じ、懐かしい。
間違いなく師匠だ。
「なっ!?」
望月さんの警戒度が一気に高まった。
一方、師匠は変わらず飄々としている。
「お前たちの警備はザルだからな。儂クラスの忍なら簡単に入り込めるわ」
「師匠、お久しぶりです」
俺は師匠が遠くで何かと戦っていて、それがひと段落した後こっちに近づいてくるのもなんとなく把握していた。
玲奈の護衛は14人。師匠は離れた場所にいたから、護衛じゃないって思ってた。
「おぉ、颯か。懐かしいな。最近の活躍は見ておるぞ。視聴者登録もした」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
もしかしたら教えを勝手に使ってたことを怒られるかもって思ったけど、そんなことはなさそうで安心した。
「ハヤテ、ほんとにおじいちゃんと知り合いだったんだ」
「これでやっと信じてくれた?」
「ただの知り合いではないぞ。こやつは儂の弟子の中で、最も才能があった。あのまま修行を続けてさえいれば、儂の跡継ぎになれただろうに……。ゲームなんぞにのめり込みおって」
「すみません。もともと四刀流ができるかもと思って、忍術を学んでたんです。でも俺が理想とする四刀流がFWOで出来ちゃったので」
「だが今は四刀流が使える世界が現実になった。どうだ、真剣に伊賀忍者の頭にならんか? まにぴゅれーたとかいう道具を使っても構わぬ。あれを含めたお前の実力なら誰も異論はあるまい。儂の跡を継げ。この時代に生きている人間で、儂が免許皆伝の書を渡したのはお前だけなのだ」
あれって、修行コースをクリアしたら記念でもらえるヤツじゃなかったんだ。
「ちなみに免許皆伝の書があれば総理大臣の護衛にもなれるぞ」
マジっすか? 机に置いてご飯食べてた時、みそ汁こぼして巻物にかかっちゃったんだよな。捨てようか悩んだけど、一応実家の物置にしまってある。
かなり汚れてるけど、大丈夫かな?
「あ、あの……。颯様は本当に通信で服部の修行コースを終えられたのですか?」
「ふむ。実は儂もそれに驚いておった。たまたま教鞭をとる忍者に欠員が出たから、仕方なしに儂が対応したのが颯だった。忍者体験コースを難なくこなしたから、もしやと思い真の修行内容をいくつか伝えたのだ。そしたらこやつは全てやり遂げた。儂は気分が高揚し、どんどん修行を高度なものにしていった」
「人間は脳を十分使いこなせてないから、もっと活性化させるのだ! ──とか言われて、無茶言うなよって思ったことはあります」
「だがお前は修行についてきた」
「四刀流が使いたかったので」
結局のところ、忍術ではどうやっても俺が理想とする四刀流は使えなかった。
「まぁ良い。今はお嬢ちゃんの護衛でそれなりに銭がもらえるでな。あと20年は儂が頭領をやろう。その間に国内外で暗躍する伊賀忍3万を率いる気になったら、いつでも教えてくれ」
「はーい」
とりあえず聞き流しておこう。
「ところで師匠、さっきまで遠くで何かと戦ってる感じでしたが……。なんだったんです?」
「色んな国の特殊部隊たちだ。中国とインド、ロシア、アメリカだな。奴らの目的はお嬢ちゃんを拉致して人質にし、颯に自国のダンジョンを攻略させることだ」
「おじいちゃん、また私を助けてくれたんだね。ありがと」
「ふひひ。どういたしまして」
もしかして師匠……。玲奈にお礼を言ってもらいたくて、わざわざ戦果を報告しに来たの?
若い女の子が大好きなのは相変わらずですね。
でも玲奈は俺の彼女になったので、今後はもうこっそり部屋に入ったりするのは止めてください。やったら怒りますよ。
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