第026話 次世代型AI 愛奈

 

 こんにちは。初めまして。


 私は東雲グループの統合意思決定を一部任されている次世代型Artificialアーティフィシャル Intelligenceインテリジェンス愛奈あいなと申します。


 AIをローマ字読みして愛、そして玲奈様から一文字いただき、私は愛奈と名付けられました。


 本日はとてもおめでたいことがありましたので、その経緯を含め数日間の出来事を可能な限り高解像度かつ永久不滅の記録として私のメインメモリに残しておきます。



 この記録にアクセスできるのは東雲 玲奈様か、もしくは玲奈様から特別な権利を譲渡された人物だけとします。そのため詳しい前提等は省略致します。


 簡単に背景を申し上げますと、第18代東雲家当主のひとり娘である東雲 玲奈様は、動画配信サイトにて『ハヤテ式四刀流推進室』というブースを開設していた雫石しずくいし はやて様に好意を抱いていらっしゃいました。AIの私がそうだと判断できるぐらいわかりやすかったです。


 背景の説明は以上となります。


 記録しなきゃいけないことがたくさんあるので、簡潔にいきますね。



 2053年7月1日。

 世界中に無数のダンジョンが出現しました。


 それはVRMMORPGのファーラムワールドオンライン──通称FWOの世界に存在するダンジョンを模倣したもの。


 世界中が混乱する中、雫石 颯様はたったおひとりで黒のダンジョンを踏破なされたのです。ちなみにこちらが、ダンジョンボスとの戦闘シーンになります。


【颯が上空からの回転斬りでストーンドラゴンを倒す映像(超高解像度)】


 動画配信サイトの元サーバーにハッキン……ではなく、お邪魔して最高画質のデータを確保してきました。玲奈様はこちらの映像をまだご確認いただいていないと思いますので、私がしっかり颯様の雄姿を記録しておきますね。


 ちなみに私が編集を加えた『颯様のカッコいい戦闘シーン集』もございます。



 しかしこの時、玲奈様は世界にダンジョンを出現させた自称女神によって拉致されていました。颯様のダンジョン攻略配信を一度も見逃したことのない玲奈様にとって、どれほど辛いことだったか……。心中お察しします。


 そんな怜奈様に朗報がございます。


 現実世界でも単独でダンジョンを踏破してしまう実力を持った颯様。自称女神に拉致され、泉のダンジョンのトロフィーとされてしまった玲奈様。この状況を整理した時、私はひとつの結論にたどり着きました。


 ──そう。名付けて『颯様に玲奈様を救出してもらおう大作戦』です。


 万が一にも颯様が傷付くことがないよう、私は持てる力を最大限に発揮して何万、何億というパターンのシミュレーションを実施しました。ここまで世界中で配信されている動画から得られたダンジョンの情報とゲームであるFWOの情報を照らし合わせ、危険度予測や踏破可能時間などの算出を行ったのです。


 そして私は500億円の投資と、踏破済みダンジョンで確保可能なアイテムをマーケットに流すサポートをすることで、颯様なら灰のダンジョンと泉のダンジョンを踏破し、玲奈様を救出することが可能であると判断しました。


 私の助言を聞き入れてくださり、信孝様は颯様を呼び出すことにしたのです。



 こちらは信孝様が颯様に救出を依頼する場面です。その時の颯様のお言葉を、玲奈様に是非お聞きいただきたい。


「道中回収できるはずのアイテム類を全て無視して、最短ルートで玲奈さんの救出に向かうとお約束します」


「俺が玲奈さんを助け出します」


 かっこいいですね。

 颯様は素晴らしい男性です。


 こちらは東雲財閥本社ビルに設置された監視カメラから映像を持って来ました。私ならこれくらい楽勝です。


 え? もう少し前から見たい?


 ……申し訳ありません。

 データが破損しているようです。



 次の場面に映りましょう。

 2053年7月2日。


【颯が灰のダンジョンを踏破していく様子を編集した映像(超高解像度)】


 この後にメインがあるので、第2等級ダンジョンは編集済みです。もちろん元データも高解像度版を残しておきますので、お時間のある時にご確認ください。



 さて、ここから素晴らしいシーンが続きます。


【颯 vs 偽ハヤテ(超高解像度)】


 くぅぅ、かっこいいですねぇ。

 人間の動きじゃありません。

 

 しかし玲奈様は日本四大財閥の御令嬢。世界中からお見合いの打診が来るほど才色兼備な御方です。これくらいのことを容易くやっていただかなくては、私としても玲奈様をお任せできませんね。そう言う点では、颯様は間違いなく合格です。



 最後の戦闘シーン行きます。

 

「貴女に勝って、彼女を返してもらいます!」


 この颯様のセリフ、カッコイイですね。


 ちなみにこのダンジョンボス、ウンディーネはどうやら自称女神が操っていたようです。ウンディーネの皮を被った自称女神と表現しても良いでしょう。


 そんな自称女神を、颯様がボッコボコにします。


【颯 vs ウンディーネ(超高解像度)】


 んー! 何度見ても爽快です!!


 本来は1度しか放てないはずの即死級大技を、ウンディーネは3発も放ちました。自称女神がチートを使ったのです。


 それでも──


「60秒もあれば、俺はお前を蹂躙できる」


「ひぃっ!?」


 勝利したのは颯様でした。

 情けなく狼狽える自称女神が見ものです。


 颯様、強過ぎですね。

 私の予想を遥かに超えています。


 あの……、本当に人間ですか?



 さぁ、クライマックスです。


 ダンジョン踏破のトロフィーとして玲奈様を受け取った場面。


「助けに来たよ。玲奈」


 わぁわぁわぁあああああ!


 これ、もし私に身体があれば全力で泣いてます。ていうか、助けに来たよって、サラッと言ってしまえる颯様、かっこよすぎですね。


 颯様。玲奈様を救出いただき、本当にありがとうございます。



 ちなみにこの時の颯様は、トロフィーを受け取る以降の配信はされないと思っていたようです。ここまでのダンジョンではそうでしたから。


 しかし自称女神が入ったウンディーネを倒してしまったせいか、配信の仕様が変わっていました。


 おふたりが互いに好きであることを告白する場面も。

 

 玲奈様の人格を書き換えたと疑われないように、好き同士であることを隠そうと話あっている場面も。


 玲奈様が救出の御礼にと、颯様の頬にキスする場面も。


 全てが世界中に配信されていたのです。


 その瞬間、世界中から祝福の言葉が配信のコメント欄に書き込まれました。


 せっかくですので、一部をご紹介しましょう。


〈えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!〉

〈いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!〉

〈うおぉぉおおおお!!!〉

〈おめでとぉぉぉぉおおおお!!〉

〈88888888888888〉

〈配信続いてるって気づいてないw〉

〈末永く爆発しろ!〉

〈お幸せにー!!〉


 こんな感じの書き込みが50万件ほど。


 肯定的なコメントのみを画面に合成してみましたが、それでもコメント数が膨大過ぎて画面が埋め尽くされてしまいます。


 祝福コメント以外にはこんな書き込みもありました。


〈この玲奈って、エレーナだよな?〉

〈東雲財閥のひとり娘だ〉

〈そんな存在と好き同士はヤバい〉

〈この配信、財閥総裁見てんじゃね?〉

〈お父様可哀そうww〉

〈でも交際は絶対許さないだろ〉

〈なんで? ハヤテは強いぞ〉

〈いくら強くてもなぁ〉

〈財閥の令嬢って雲上の存在だから〉

〈やっぱり、厳しいか……〉


 多くの方々は信孝様がおふたりの交際に反対すると考えていました。実は私も、その可能性が高いと予想していたのです。


 しかしある書き込みが、私に希望をくれました。


〈もしハヤテとエレーナの仲を引き裂くなら、俺が持ってる東雲ホテルの株式を全部売り払う。つっても、4千株くらいしかないけど〉


 このコメントに多くの賛同が寄せられたのです。


〈いいね。俺もそうしよう〉

〈東雲工務店の1万株を人質にするぜ〉

〈俺は東雲銀行の株を5万持ってる〉

〈大株主です。私も賛同します〉

〈100株しかないけど、協力します!〉

〈みんなで抗議しよう!!〉

〈ふたりをくっつけようぜww〉

〈もう付き合っちゃえよ〉

〈俺たちが、誰にも反対させねぇ!!〉

〈そうだそうだ!〉


 おわかりですか?


 日本四大財閥の令嬢である玲奈様に、颯様が相応しいと世界が認めたのです。


 ここまで盛り上がれば、私がやるべきことは単純です。


 配信のコメント欄に東雲グループ関連の株を売却すると宣言した方々の個人情報を特定し、本当に株を保有しているか、本当に売却する恐れがあるかなどを瞬時に調査しました。そしてデータをまとめ、信孝様に颯様と玲奈様の交際を認めなかった場合に発生し得るグループ全体の損害額をお伝えしました。


 被害金額を一桁大きくしてお伝えしましたが、まぁ許容範囲でしょう。私は玲奈様から一文字いただいて産まれたAI。つまり玲奈様の妹みたいなものです。お姉さまの幸せのためなら、このくらいやっちゃいます。


 あっ。今の私のコメントは記録から消しておきますね。もしバレたら私が消されちゃいますので。



 そうして無事、玲奈様は颯様とのお付き合いを認めてもらうことができました。


 おめでとうございます!!


 ただどうしても信孝様は素直に認められないようで、颯様に新たな課題を出されました。


「私や世界に、自身の価値を示してくれ」


 颯様の価値は既に世界が認めています。ですので、この課題はもうクリアしたも同然でしょう。あとは颯様が世界に羽ばたいて、その影響力を記録に残せば良いのです。私ならそのサポートが完璧にこなせます。


 お任せください。


 玲奈様と颯様の輝かしい未来のため、この愛奈が全力でお手伝いします。


 この記録は玲奈様への贈り物であると同時に、私の宣言でもあるのです。

 

 

 東雲グループ統合意思決定権の一部を有する次世代型AIであるこの愛奈が、絶対におふたりを幸せにしてみせます。


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