4章 新たなクエスト
第025話
その後、俺は玲奈を抱きかかえてジェットパックで空を飛んでいた。
先ほど踏破した泉のダンジョン周りには多くの人が集まっていて、下から出ていくのはなんかマズい気がしたから。
泉のダンジョンから少し離れた場所で待機してくれているはずの藤堂さんのところまで、このまま飛んでいくつもりだった。
「ここの踏破特典でもらえるはずのジェットパック、今回はなんで選択しなかったのかなーって思ってた。もうハヤテは持ってたんだね」
「うん。俺も知らなかったんだけど、黒のダンジョンを一番はじめに踏破したらトロフィーでもらえたんだ。そんで実は泉のダンジョンのボスがかなり仕様変更されてて、この装備がなかったら勝てなかったかもしれない」
「そうなんだ。ちなみにボス以外に変更点ってあったりする? できれば私もダンジョンに入ってみたいなーって」
そうだよね。気になるよね。命の危険とか一切考えずにダンジョンに入った俺が、玲奈に危ないから絶対やめろって言うことはできない。もし彼女がダンジョンに入る時は、俺を護衛として連れて行ってもらうことにしたいな。
「中ボスが四刀流を使ってくる敵になってた。1年くらい前の俺の動きをトレースした感じで、かなり強かったよ」
「えっ!? それじゃあ、ハヤテ以外に誰も泉のダンジョンをクリアできないんじゃないかな……」
「どうだろ? 中ボス部屋に入った人の少し前の状態を模倣するモンスターなのかもしれない。それにPVPで俺が勝てないプレイヤーもたくさんいたんだから、もし過去の俺が中ボスだったとしても倒せる人はたくさんいるよ」
「ハヤテは四刀流を使いこなすためにリアルでも訓練を頑張ってた。でもPVPでハヤテが負けたことのあるプロのFWOプレイヤーは、あんまり運動ができそうじゃないおじさんとかがほとんどだった。だから
あの、なんでプロのリアルを知ってるんですか?
もしかしてあれかな? 俺が負けたことが許せなくて、東雲グループの力を使ってどんな相手なのか調べさせちゃったとか? ……玲奈ならやりそう。
浮気とか、絶対できないな。
するつもりもないけど。
──***──
10分程飛行して、藤堂さんと合流した。
「藤堂!」
「お嬢様、ご無事でなによりです」
俺が玲奈を地面に降ろすと、彼女は勢いよく藤堂さんに抱き着きに行った。
「ハヤテが私のこと、助けに来てくれたの」
「えぇ。颯様がダンジョンを踏破する瞬間を見ておりました。颯様、お嬢様を救出してくださり、誠にありがとうございました」
玲奈が離れると、藤堂さんは俺に向かって深く頭を下げてきた。
「東雲グループからたくさん支援頂いたおかげです。俺だけの力じゃありません。彼女が無事で良かったです」
俺が玲奈の人格を変えているとかは、今のところまだ疑われていないようだ。
問題は玲奈のお父さんかな。俺と玲奈の関係に彼が何か異変を感じたりしたら、俺の人生はそこで終わると思う。
「こんな場所で立ち話はなんですから、お屋敷に戻りましょう。本日は信孝様はじめ、玲奈様の関係者多数がそこで待機しておられます」
「うん、わかった。帰る。ハヤテも一緒で良いんだよね?」
「もちろんですとも。信孝様が颯様に御礼をしたいと仰っておられます。それから、いくつかお話があるようですので、是非ご同行お願いいたします」
うぉぉ。分かってたけどめっちゃ緊張するな。
でもきっと大丈夫。ここまで来る途中、玲奈と入念に打合せしたから。大半は無事に付き合えることになったら行ってみたい場所や、したいことの話だったけど。
「それから最後に、私からひとこと。此度は誠におめでとうございます。颯様の今後の御健闘、大いに期待しております」
藤堂さんにそう言われた。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
なんか最後の挨拶みたいだった。俺としては今後も護衛とかとして玲奈のそばにいたいから、まだ藤堂さんにお世話になることがあるって思ってた。少し寂しい。
その後、リムジンに乗り込んだけど、藤堂さんは助手席に乗った。俺と玲奈だけ広い後部座席に。流れで彼女の隣に座っちゃったけど、良かったんだろうか?
落ち着いて隣にいる彼女を見ると、やっぱり可愛いって思う。こんな美少女が俺を好きでいてくれるんだって思うと、顔が綻びそうになる。でもそれを周りに気付かせてはいけない。
リムジンが動き始めて玲奈の自宅に付くまで、俺たちは一切の会話をしなかった。
親しそうに話しているとボロが出るかもしれないから。
俺がうまく対応できるか。玲奈が俺への気持ちを上手に誤魔化してくれるか心配になりながら、彼女の親族が待つという巨大な屋敷へと入った。
「玲奈様、おかえりなさい」
「ご無事でなによりです」
「おかえりなさい」
「颯様、ありがとうございました」
屋敷のロビーに入るなり、たくさんのメイドさんに囲まれる。みんな玲奈専属のメイドだという。凄いな、東雲財閥。
「玲奈、おかえり。無事で良かった。颯君、早速で悪いがこちらにきてくれ」
東雲さんが現れ、俺を呼んだ。約束を果たしたか確認したいんだと思う。疑っているのかもしれない。
できれば玲奈も一緒にって思ったけど、俺ひとりで行かなきゃいけないみたいだ。
「わかりました」
チラッと玲奈を見て、行ってくるよと意志を伝えた。
彼女は無言で小さく頷いた。それが俺には『頑張ってね』と言ってくれているように感じた。期待に応えなきゃ。上手く誤魔化して見せる。
彼女との輝かしい未来のために!!
東雲さんの後に続いて部屋に入る。
「まずお礼を言いたい。玲奈を助けてくれて、本当にありがとう」
「いえ。俺も東雲グループのバックアップを受けて、最速攻略ができて楽しかったです。でもさすがにチートみたいになっちゃうので、今回の踏破で使わなかった資金はお返ししますね」
俺は今回、四刀流で無双するついでに玲奈救出を実行すると言って東雲さんに信頼され、彼女の救出を任された。その前提が変わっていないことをアピールしておく。
「あぁ。誤魔化そうとしなくて良い。君が玲奈を元の人格のまま返すように言ってくれたのは
「そうなんですね」
……ん?
み、見ていた?
「あ、あの……。見ていたって、なにを?」
「君がダンジョン踏破のトロフィーとして玲奈を受け取る瞬間だ」
東雲さんが右の壁を指さした。そちらに目をやると巨大なスクリーンがあり、玲奈を抱きかかえる俺の姿が映し出されていた。どうやら配信のアーカイブのようだ。
「えっ!?」
な、なんでそれが配信されてるんです?
もしかしてトロフィーにさせられた玲奈の親族だから、特別に配信されてた?
しかも映像は、そこで終わっていなかった。
「玲奈に好きだと言われたこと。君が玲奈を好きだと言ったこと。でも我々に疑われるから、互いに好き同士であることは隠そうと相談していたこと。君が玲奈に相応しい存在になるまで待つように言ったこと。そして玲奈が君の頬にキスする瞬間を、私だけでなく
……終わった。
俺の人生はどうやら、ここまでのようです。
「私は君たちの交際を認めよう」
「え? そ、それって」
「配信を見て、君が誠実な青年であることは十分理解できた。娘の気持ちにできるだけ応えようとしていたのもポイントが高いな。それから、あの再生回数の表示が見えるか?」
壁に投影されている動画の再生回数は桁が良く分からないことになっていた。
「現時点で200億回も見られている。娘が男にキスする瞬間を、世界中に」
そう言って東雲さんが頭を抱えた。
その配信サイトでは、どのシーンが一番多く再生されているのかをシークバーの上のグラフで確認できる。どうやら玲奈が俺にキスしている時間帯の再生回数が最も多いみたいだ。俺が女神入りウンディーネを倒した瞬間の5倍以上だった。
ちょっと申し訳なくなる。
「しかもグループ内外から祝いの連絡が絶えない。加えて、もしこの状況で私が君たちの関係を引き裂くようなことをすれば、東雲財閥は壊滅的な株価暴落を起こす。そう我が社のAIが判断しているんだ」
玲奈が俺にキスするシーンが映し出されていた映像が、色んなグラフを映した画面に切り替わる。英語で書かれてて内容はよく分からないけど、AIが俺と玲奈が交際しておいた方が会社の利益になると導き出してくれたみたい。
「玲奈と颯君の交際は認める。ただし、娘を悲しませるようなことは絶対にするな。そして君が本当に玲奈の、東雲財閥総裁である私の娘に相応しいと世界中が認めたら、ふたりの結婚も認めよう」
俺、まだ高校生なんですけど……。
まだ結婚なんて考えられません──って言える雰囲気じゃなかった。玲奈と付き合いたいなら、結婚もしっかり見据えておけってことだろう。
「君は既に、自分の価値を示す方法を分かっているはずだ」
俺の価値か。
ダンジョン踏破能力だろうな。
「私や世界に、自身の価値を示してくれ。期限は約2年後。玲奈が18歳になるその日までとしよう」
玲奈が成人するまでに、世界が認めてくれるような実績解除しろってことですね。
そのクエスト、受注します!
「わかりました。全力で頑張ります!」
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