第024話

 

「えっ、ハヤテ? 本物? な、なんで? どうやってここに?」 


 質問が多いな。まぁ、女神にいきなり拉致られてここに連れて来られたんだから無理もないか。


「玲奈のお父さんにお願いされて、助けに来たんだよ」


 トロフィーとして玲奈を返してもらう時、彼女は空中に突然現れた。


 その後ゆっくり降りてきたんだけど、その時はうつろな目をしていて大丈夫か心配になった。ダンジョン踏破者が望めば玲奈の意志が消されるって話しで、俺は当然そんなこと望んでない。なのに彼女がずっとボーっとしてたから不安になったんだ。


 玲奈が助けてと、うわ言のように呟いたから、それに返事をしたら彼女の目の焦点が俺にあった。その後はいつもの彼女の感じで会話できている。



 ちなみにダンジョンボスを討伐すると、その時にドロップするアイテムを回収した後にダンジョンクリアのトロフィーがもらえる。ドロップアイテムの回収までは配信されてるけど、トロフィーを貰う時は配信されていないらしい。


 だから俺たちが今しているこの会話は配信されていないはず。俺はそう信じている。配信者として大人気の玲奈をこんな風に抱きかかえてることが配信されてたら、俺のブースが炎上するのは間違いない。なんか降ろすタイミングが分からない。


 なのでどうか、配信されてませんよーに!



「お、お父様がハヤテを頼ったの?」


 やっぱりそこは気になるよね。


 普通は大事な娘の救出を、俺みたいな高校生に任せないよね。


「なんか俺さ、リアルに出現したダンジョンもFWOの時と同じようにクリアできちゃった。それで頼ってくれたみたい」


「そうなんだ。やっぱり凄いね、ハヤテ」


「もちろん俺だけじゃなくて、たくさんの人が玲奈を助けるために動いてくれたんだよ。今回は東雲グループが全力でバックアップしてくれたから、俺は最短でここまで来ることができた」


「そっか。みんなにも御礼言わなきゃ」


 安心して力が抜けたのか、玲奈が頭を俺の身体に預けてきた。


「怖かった。私が私じゃなくなっちゃうんじゃないかって、凄く怖かったの。助けに来てくれて、ありがとう」


「どういたしまして」


 これだけ会話しておかしなところはない。


 きっと玲奈は大丈夫だ。


 でも念のため、これだけは確認しておこうかな。


「ちなみに玲奈ってさ、俺のこと好きになってたりしないよね?」


「えっ?」


「あ、いやその……。玲奈はこのダンジョンのトロフィーにさせられてて、ここを最初に踏破した人が、玲奈の人格を消して好きな性格にできちゃうって設定だったらしい。もちろん俺はそんなこと希望してないよ。元のままの玲奈を返してくれって願った。だからこれは、俺に従順な性格にさせられたりしてないかの確認」


 お願いだから好きじゃないって言って。


 そうしないと俺が東雲さんに消されちゃうから。



「……好きだよ」



「え」


「私はハヤテのことが好き。でもそうなるように性格を変えられたとかじゃなくて、前からハヤテのファンだったの。ずっとあなたの配信を見てた。配信でコメントもしてたんだよ?」


「ま、マジで? い、いや、だってお前、ゲーム内ではことあるごとに絡んできたし、はじめて会った時はいきなりPVPしろって……。てっきり敵対視されてるんだと思ってた」


「敵対視してたらパーティーに誘ったりしない。その……。恥ずかしかったの!」


「あぁ、好きな子の気を引きたくて意地悪しちゃうアレね」


「小学生の男子と一緒にしないで。一応、自覚はしてるんだから」


 可愛いじゃん。

 ツンデレ美少女、ありだな。



「ずっとハヤテを推してたの。パーティーに誘ったのだって、裏の理由があったとかじゃなくて単純にあなたと一緒に遊びたいって思ってたから。初めて見た時からかっこいいなって思ってたの。そんなあなたが、私のピンチに駆け付けてくれた」


 玲奈が顔を上げ、まっすぐ俺の目を見てくる。



「好きになっちゃったの! 仕方ないでしょ!?」


 

 ……マジですか。


 いや、分かるよ。窮地の時に推しが助けに来てくれて、颯爽と敵を倒してくれたりしたら。推しをもっと好きになるのは理解できるよ。


 俺も玲奈みたいな美少女に好かれて嫌な気はしない。彼女とパーティーを組んでダンジョンを攻略した時、とても楽しかった。会話も弾んだし。俺たちは趣味も結構あう。互いに好き同士なら、付き合ってみたいとも思う。



 でも、今はマズいんです。



「気持ちは嬉しい。俺も玲奈のこと、その……。すき、だと思う」


「えっ!? じゃ、じゃあ! 私と、お付き合いとか」


「ゴメン。しばらくは玲奈と付き合ったりできない」


「な、なんで?」


「俺は玲奈を無事にダンジョンから助け出すって、玲奈のお父さんに約束した」


「達成できたよね」


「うん。無事に、ってとこが重要なんだ」


「どういうこと?」


「玲奈が俺を好きになってくれたっていうのが君自身の意志だとしても、他の人からはそれが本当かどうか分からない。はたから見れば、俺がダンジョン踏破者の特権で玲奈の人格を変えたんじゃないかって疑われちゃうんだ」


「わ、私がハヤテはそんなことをしないって言う! 疑う人全員を説得する!!」


「それが一番できない。だって疑う人たちは、俺が玲奈にそういう指示を出したって思うだろうから」


「あぅ……。じゃあ、私はどうすればハヤテとお付き合いできる?」


 本気で俺と付き合いたいって思ってくれてるんだ。


 だったら俺も真剣に応えよう。


「少しだけ待ってほしい。世界が大変なことになっちゃってるけど、俺は今がチャンスだと思う。ゲーム配信でひとり暮らしができる程度しか稼げなかった俺が、今ならリアルのダンジョン攻略で大金を稼げるんだ。いっぱい稼いで活躍して、玲奈に相応しい男になる。そうしたら俺から玲奈に交際を申し込むよ。それで、どうかな?」


「てことは、それまで私はハヤテのことをなんとも思ってないってフリしなきゃいけないの? こっそり通話しちゃうのとかもダメ? 一緒にお出かけとかしたいのに」


「通話くらいは良いと思うけど、あまりイチャつくと簡単にバレるよ。俺は今回の件で、東雲グループの情報網がマジでヤバいって肌で感じた。ちなみに玲奈の人格を書き換えたって思われたら、たぶん俺は消される」


「そ、そんなこと絶対にさせない!!」


「そう。君は俺を守ろうとしてくれる。でも周りの人たちは、俺を守るように指示を出してると考えちゃう。疑われた時点で俺は終わりなの。俺は玲奈のことが好きだよ。だからちゃんと付き合えるようになるまで、少し時間がほしい」


「……あんまり待たせると私、ハヤテを好きなの抑えられなくなる。我慢できなくなっちゃうから」


 玲奈が俺の頬に手を当ててきた。


「全力で頑張ってよね」


「うん、任せて」


 新たな目標ができた。


 グループ全体の社員数100万人、総資産額500兆円を超える東雲財閥総裁の令嬢を彼女にしても世界中から『こいつならいいか』って思われる存在になってやる!

 

 うおぉぉぉおおおお!

 やるぞぉぉぉおおおおおお!!



「あっ。ハヤテ、ちょっと耳貸して」


「ん、なに?」


 抱きかかえている玲奈の口元に耳を近づける。


 ここには俺たちしかいないのに、なんでだって思っていると──



 頬に何か柔らかいものが当たる感触があった。



「……えっ」


 い、今のって、まさか?


「これは今日、私を助けに来てくれた御礼ね。これくらいはいいでしょ」


 俺、玲奈にキスされた!?

 頬だけども。


 初めてなんですけど!



「ちゃんとお付き合い出来たら、その時は口にしてあげる」


「そ、そう。そうだね……」


 そうか。ちゃんとお付き合いできれば、玲奈とキスできるんだ。




 うおぉぉぉぉおおおおおお!


 やるぞぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!



 世界中のダンジョンを俺が全部踏破してやる!!


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