第021話
「私の守護者を倒してここまで来るとは……。なかなかやりますね」
透き通った水色の髪、少し冷徹に見える整った顔。そんなクール系美女が話しかけてきた。彼女がここ水のダンジョンのラスボス、ウンディーネだ。
中ボスが変更されてたから、ラスボスも変わっているんじゃないかって思っていたんだけど……。セリフもFWOの時と同じだし、変更はないのかな?
「奪われた者を取り返すべく、貴方は必死にここまで来たのでしょう。愛する者のための自己犠牲は非常に尊いですねぇ」
ん? なんだこのセリフは? こんなのFWOじゃなかったぞ。奪われた者っていうと、玲奈のことか?
女神を自称する存在に拉致された東雲 玲奈を助けるために、俺がここまで可能な限り最速でやって来たのは間違いない。
でもなんでそれをウンディーネが知ってるんだ?
ウンディーネはセリフをしゃべるけど、それはただ口から言葉を出すだけ。プレイヤーとの意思疎通はできなかった。でも今はまるで俺に話しかけている。
もしかして、コイツ……。
「彼女はちゃんと無事なんですよね?」
「はい。今はまだね」
そう言ってウンディーネがニヤリと笑った。
やっぱりそうか。コイツは会話ができるし、はっきりとした意志があるんだ。女神の配下がウンディーネの中に入ってるんだろうか? もしくは女神自身とか。
まぁ、どちらにせよ俺のやることは変わらない。
「貴女に勝って、彼女を返してもらいます!」
本当ならこういうことを言うべきじゃない。俺のダンジョン攻略を多くの人が見ているのだから、察しの良い視聴者なら水のダンジョンのトロフィーが人であることに気付いてしまうかもしれない。
しかしそれをウンディーネがバラしてしまった。
もう後には引けない。
俺が負ければ、誰かが玲奈を奪いに来てしまうかもしれないんだ。
この回で、確実に俺は勝たなきゃいけなくなった。
「良いでしょう。全力でかかって来なさい」
「えぇ。そうします!」
最初から全開で行く。
マニピュレータを起動し、アイテムバッグからスクロールを取り出した。
「魔法スクロール発動! ライトニングサンダー!!」
「えっ!? ちょっ、なんで剣士が魔法を!?」
わかりやすくウンディーネが動揺している。
FWOの仕様にはあまり詳しくないみたいだ。
雷槍が高速で彼女に迫る。
「な、舐めないで! 私は、水の大精霊よ!!」
ウンディーネが手を振ると、どこからか大量の水が現れ、俺の放った雷槍を消し去ってしまった。さすがラスボスだ。弱点属性の魔法を容易く防ぐとは。
「うぅ……。ちょっとピリピリする」
ダメージが少しでも入れば儲けもの。
ダメでも一時的に視界を奪えたのと、雷を魔法剣に魔纏できたから良しとする。
「ふん。この程度で私をどうにかできるとでも? ──って、なにその剣。なんかちょっとヤバそうなんですけど」
バチバチと火花を散らす雷を纏った俺の剣を見て、ウンディーネが青ざめていた。
ちなみに俺が装備しているのは風の魔法剣。これと雷魔法は対抗関係にある。だから火属性魔法を魔纏するより難易度は低い。
「全力でかかって来いって、言われましたので!」
マニピュレータの力でボス部屋天井付近まで飛んだ。
俺の
別に訳もなく飛んでるんじゃない。
FWOでは様々なモーションに対して攻撃力に補正が付く。その動きの難度が高ければ高いほど、攻撃力が強くなるんだ。
四刀流の場合、攻撃対象より3メートル以上高く飛んで飛び掛かりながら攻撃するのが最もダメージ倍率が高い。更に回転斬りを行うことでダメージが4倍になる。
そして装備するのは魔法剣。
4本の剣にウンディーネの弱点属性となる雷魔法を魔纏させている。ベースが風の魔法剣なので、ここでの倍率は低めの1.2倍。4本分で約2.1倍にしかならない。
それを補うため、天井付近に到達した俺は武器を一旦持ち換えた。
戦闘中の武器交換によるダメージ補正は1.5倍。それはメイン武器1本のみを交換した場合の値であり、四刀流の俺は4本全てがメイン武器扱いなので、それぞれ交換することが可能。最大で攻撃力は約5.1倍になる。どうしても隙が大きくなるので、やる人は少ないけど倍率が凄いんだ。
できることは全てやって、最大まで攻撃力を強化した。
回転斬りを当てることができれば、ダメージは41倍を超える。
「喰らえ!!
「ひっ⁉ た、タイダルウエイブ!」
「──っ!!?」
津波級の大水が俺に襲い掛かってくる。
慌てて攻撃対象をウンディーネから、水の激流へと変更。
水塊を切り裂いて何とか回避に成功した。
「あっぶねぇ……」
アレをまともに喰らったら死んでいた。
タイダルウエイブは第6等級ダンジョンの中ボスが使ってくる必殺技だった。FWOの第3等級ダンジョンボスであるウンディーネは使ってこないはず。
「しかも、動きづらい!」
タイダルウエイブの直撃を回避できたとしても、ボスエリアが浸水してプレイヤーの動きを封じるというかなり厄介な大技。ダメージを与えて良し、ダメでもその後の動きを封じて別の技で仕留められるという、まさしく必殺技だ。
「あ、あれ? だいぶ動きが遅くなったね」
「くっ!」
ウンディーネが放ってくる水弾をギリギリで躱す。
「ほらほら、頑張って避けないと当たっちゃうよ」
クソっ、遊ばれてる!
俺が必死に打開策を模索していると、優位に立ったことでウンディーネの中の存在は気が大きくなったようだ。
「まだ私に挑戦するのは早かったみたいだね。せっかくだからイイコト教えてあげる。実は私ね、後ふたつも大技持ってるんだよ! ねぇ、びっくりした? 絶望しちゃった? 諦めて逃げてもいーんだよ。逃がさないけどね!」
プツン──と、俺の中で何かが切れた音がした。
クールな見た目と仕草で、男性FWOプレイヤーから人気No.1のボスキャラであったウンディーネ。俺も大好きだった。
そんな彼女のキャラを台無しにされた。
もう、我慢できない。
「ウンディーネは、そんなキャラじゃねぇ!」
「な、なによ急に大声出して。そんなイキったって、この水の中じゃあんたなんか──って、えっ? な、なんで水の上に立ってんの?」
黒のダンジョンを踏破した際にゲットしたジェットパックで俺は浮いていた。
本当なら俺がジェットパックを所持してるってことはまだ秘密にしておきたかったが、そうもいっていられない。
「全力で行くって、嘘ついててごめんなさい。こっからはあるもの全て使って、本当の全力で行かせてもらいます!」
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