第020話 〈配信コメント欄〉
泉のダンジョン最終階層にて、颯が中ボスと戦っていた時。
〈うぉぉ! 四刀流 vs 四刀流だ!!〉
〈ヤバっ、動き激しすぎるだろ!!〉
〈SUGEEEEEEEEEEEE〉
〈なんなんあの動き、かっこよすぎ〉
〈人間を超越しとるwwww〉
配信のコメント欄は大いに盛り上がっていた。
〈ハヤテ vs 偽ハヤテか〉
〈熱い戦いだ〉
〈頑張れハヤテ!!〉
〈偽ハヤテも良い動きしてる〉
〈でも泉のダンジョンって確か……〉
〈中ボスは水龍のはずだな〉
〈オリジナルモンスターか?〉
〈リアルで初めての登場だな〉
ここで視聴者たちはひとつの疑問を抱いた。
〈これって来た攻略者の姿になるの?〉
〈水に映った人物をコピーする的な〉
〈そうじゃなきゃ困るだろ〉
〈ん? なんで?〉
〈来た人間のコピーじゃないなら──〉
〈中ボスは偽ハヤテ固定ってことになるから〉
〈…………〉
〈…………〉
〈…………〉
〈そ、それはマズいな〉
〈無理、絶対無理だって!〉
〈クリアさせる気ねーなww〉
〈不可能すぎわろた〉
〈人間があんな動きできるかよ!?〉
そんなコメントが書き込まれた時、颯はマニピュレータの力で偽ハヤテに飛び掛かり、高速回転しながら連撃を叩き込んでいた。
〈完全に人間やめていらっしゃる〉
〈それを防いでんだから偽ハヤテもヤバい〉
〈あれくらい俺でも出来るぞ。ゲーム内ならな〉
〈これ、リアルだから問題なんよ〉
次第にコメント欄は、どうしたら偽ハヤテを倒せるかという議論になっていく。
〈遠距離からの高威力爆撃ならあるいは〉
〈無理だよ。詠唱時間でアイツは接近してくる〉
〈あの移動速度は反則だな〉
〈盾役5人、魔法使い3人のフルパでどうだ!?〉
〈偽ハヤテの速度なら盾8枚欲しい〉
〈その構成で誰が攻撃すんだよwww〉
真面目な考察からふざけたアイデアまで。中にはプロのFWOプレイヤーも複数人が書き込みをしていた。
〈第5等級でも通用する改+30武器に耐えてるから、あの偽ハヤテの武器もそれに近い性能ってことになる。だとすれば第3等級ダンジョンの途中でゲットできる現状最高レア度の装備でも、改+10くらいまでは強化しないとガード出来ないな〉
〈ざっと計算したけど、運が良くて強化費は700万円くらいかかる〉
〈高っかwww運が良くてそれかよ〉
〈それより注目すべきは偽ハヤテのマニピュレータだ。あれは第3世代だから、今ハヤテが装備してるモノより反応速度が500ミリ秒も速くなってる〉
〈あの速度で戦ってるなら、0.5秒の遅延は致命的なはず〉
〈それなのになんであの偽ハヤテと対等に戦えてるかって言うと──たぶんだけど、ハヤテは未来視に近いことをしてる〉
〈相手の動きを完璧に先読みして、0.5秒の遅延を無視できるレベルで身体を動かしてるってことだな。もはやどう身体を動かすとか考えてない〉
〈あー。全部反射で動いてんだ〉
〈ハヤテならやりそーwww〉
〈初見の敵にそんなことできるのハヤテだけだよ〉
〈いや、FPSは対戦相手がリアルの人間だから、戦場で出会った敵は全部初見だっていっても過言じゃない。敵がどういう動きをしたらこちらがどう動くかはほとんど反射の世界だぞ〉
〈ならハヤテはFPSも強いってことか〉
〈前に配信で一回だけFPSやってたけど、初プレイで12キルしててドン引きした〉
FPSとはファーストパーソン・シューティングゲームの略。操作するキャラクター本人の視点でゲーム空間の中を移動し、銃などを用いて戦うことを特徴とする。颯がプレイしたのは一回の戦闘で同じフィールドに降り立つのが50人程度でバトルロイヤル形式のゲーム。そんな中で12人も敵を倒すというのは驚異的な強さだった。
〈初見で12キルwww〉
〈やっばwwwww〉
〈もはやチートだろ〉
〈アイテム漁る動作とか素人剥き出しなのに、近距離で会的した時の動きは完全にそのゲームのプロ級だった。反動の激しいサブマシンガンを全弾当てるんだもん〉
〈俺もその配信見てた。初心者装備でバナーも初期のまま。そんな奴があまりにも弾当てすぎてて、多分対戦相手にチート疑惑で通報されたんだろうな。一時BANされてたよ〉
〈人力チートじゃんwwwww〉
〈誤BANされててワロタ〉
〈もはや最高の賞賛で草〉
今まさに行われている戦闘に関するコメントは少なかったのだが、視聴者のひとりがあることに気付いてからは流れが変わる。
〈なんかハヤテ、動きが速くなってない?〉
初めのうちは偽ハヤテの攻撃を受けることが多かった颯だが、今は完全に彼が攻勢に回っていた。
〈滅茶苦茶攻めてるな〉
〈攻撃が速すぎて剣が見えねぇww〉
〈押せ押せモードだ〉
〈もう500ミリ秒の遅延に慣れたのか〉
〈ここまで速い敵は初めてだった〉
〈でも慣れたらもう平気だろ〉
〈そーだな、そろそろ終わるぞ〉
次第に偽ハヤテのガードが追い付かなくなっていく。
そして、回転斬りで颯が偽ハヤテの胴を真っ二つに切り裂いた。
〈うぉぉぉぉぉ! ないすぅぅ!!〉
〈88888888〉
〈GG〉
〈おめでとぉぉ!!〉
〈めっちゃ良い戦いだった!〉
〈ダンジョン踏破おめでとー!!〉
〈いやwまだこれ中ボス戦www〉
〈すまん、舞い上がりすぎたw〉
〈でもほんと熱い戦闘だった!!〉
「いやー。強敵でしたね。多分1年前の俺くらいの強さがありました。マニピュレータの性能が良ければ、もう少し楽できたかな」
身体の状態を確認しながら颯が呟く。
あれだけ激しい戦闘をして、彼は無傷だった。
〈1年前であの強さかw〉
〈今のハヤテが最高のマニピュレータ装備したらどうなんのw〉
〈やべぇ。めっちゃ見てみてぇ!〉
〈ん? おい、なんか画面光ってね?〉
〈これってまさか、レア泥か!?〉
「おぉ! なんかレア泥したみたいです。これは──」
地面が光っている部分に颯が手を翳す。
光が集まっていき、その場が光に包まれた。
光が収まった時、颯の手には一対のマニピュレータがあった。
「や、やりました! 第三世代のマニピュレータをゲットしましたぁ!!」
〈ふぁぁぁwwwww〉
〈お、おめでと。うん、おめでと〉
〈これアカンやつやww〉
〈鬼に金棒? いや、もっと強いか…〉
〈鬼がショットガン入手しやがったw〉
〈鬼にショットガンwww〉
〈ハヤテに最新マニピュレータ〉
〈それが現代版の
〈大草原不可避〉
最強の青年が現状手に入る最高峰の武器を作り、ここまでやって来た。さらに彼は運よく最高の補助装備まで手に入れてしまった。
あまりにも颯が優位であるため、この後に彼と戦うダンジョンボスに対して世界中の人々から同情のコメントが寄せられる。
〈ラスボスさん逃げてー!!〉
〈戦う前に負けが確定しとるw〉
〈ご愁傷さまでした〉
〈もし颯に攻撃掠らせでもしたら快挙だよ〉
〈ご健闘をお祈りします!!〉
配信を見ている誰もが、颯の圧勝を確信していた。
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