第018話

 

 泉のダンジョン、最終階層。


 ふわふわと浮遊する小さな人型の水精霊、アルミストが水弾を放ってくる。


 それを回避しつつ、接近して攻撃を加えようとした。


「──っ! あっぶね!!」


 もう一歩踏み込んでいたら、真横から放たれた水弾でダメージを受けていた。


 やっぱ連携してくるよな。


 アルミストは精霊系雑魚モンスターの中では珍しく、複数体で連携攻撃を仕掛けてくる。はじめ俺の前に現れたのは一体のみだったが、警戒しておいて良かった。


「10体か。今日は急ぎだから、無理やり倒しときますね」


 ソロの俺にとって、複数体で連携してくるモンスターはかなり厄介な敵だ。いつもなら一度逃げて別ルートを選択するのだけど、今日はそうも言ってられない。


「魔法スクロール発動!」


 多刀剣士は所持する武器によって遠距離を攻撃する魔法も使える。しかし広範囲を高火力で攻撃するなら、やはり専門の魔法使いの方が強い。そんな魔法使いの技を巻物状のアイテムに封じ込めたものをスクロールという。


「ファイアストーム!!」


 俺を中心に炎が渦巻き、周囲に広がっていく。


 第3等級ダンジョンが公開された時点で使用可能になる火属性魔法の技で、広範囲攻撃魔法では現状最強の魔法だ。


 これで倒れてくれると楽なんだけどな。


 

 炎の壁が消えた。


「クソっ、やっぱダメか」


 10体全てのアルミストが健在だった。水の膜のようなものを自らの周囲に展開し、それで俺の魔法を防いだようだ。


 ファイアストームのスクロール、100万円したのに……。


 まぁ、良いや。


 ダメだったときのために、から。


 ただの火属性魔法はアルミストには効果が無い。


 でも風魔法で強化して炎属性魔法にすれば──


「せいやっ!!」


 炎を魔纏させた風の魔法剣で一気に2体のアルミストを両断した。


 残る8体が驚いた様子を見せる。モンスターにそうした反応や感情があるみたいなのが、ゲームと違うとこなんだよな。


 何かに驚くってことは、それが隙になり得るってこと。


 俺は身体を硬直させていた残りのアルミストたちを撃破していった。



「ふぅ。スクロール買っといて良かった」


 100万は高かったけど、効率重視だから仕方ない。


 ちなみにスクロールは、東雲グループが灰のダンジョンに派遣している攻略組メンバーのひとりから購入した。俺に資金提供してくれてるのも東雲グループだから、支払ったというより少し返しただけってのが近いかも。


 東雲さんに言えば、また追加で資金は提供してもらえるだろう。


 でも流石に500億円も預かっておいて、おかわりするつもりはない。それにちゃんと余った分は返すつもり。無駄遣いもできるだけせず、最速攻略のために本当に必要な課金は全力でやらせてもらってる。


 ここまで来て改めて思うのは、お金の力ってヤバいなーってこと。


 玲奈を助けるためとはいえ、普通の感覚だったらできないような無茶な課金をやってる自覚はある。前までの俺の配信で得られる資金だけだったら絶対に出来ないことをやっている。


 資金チートってやつになるのかな?


 ゲームバランス壊しそうだし、玲奈を助け出したらもう東雲さんの力を借りるのは止めよう。十分すぎるぐらい四刀流無双を楽しめてしまった。


 誰かの命がかかってるとかじゃないなら、自分のペースで攻略を楽しみたい。最速攻略はそれなりに楽しいけど、やっぱり自分の力で少しずつ強くなっていきたいな。


 理由があったとはいえ、ここまでちょっと頑張りすぎた。他の人と違いすぎる攻略速度は、この世界にダンジョンを出現させた女神も良い気はしないだろう。


 もしそーゆーので女神が不機嫌になり、四刀流が弱体化されたり、廃止とかになったら困るんだ。


「ここもサクッと攻略して、その先はちょっとゆっくりしまーす」

 

 俺のダンジョン攻略を動画配信で見ているであろう人々、それから女神に向かって宣言しておいた。


 

 その後、何度かの戦闘をして、俺はダンジョンボスの部屋の前までやって来た。


 ファーラムワールドオンラインは、ボス部屋の前室にいる中ボスを倒してからダンジョンボスに挑むって仕様になっている。連戦がきつければ、一度ダンジョンを出ても良い。中ボスを倒したプレイヤーは、二度目はボス戦に直行可能。


 確かここのボスは水の大精霊ウンディーネで、中ボスはそれを守護する水龍リヴァイアサンだったはず。


 武器のチェックを行い、俺はボス部屋前室の扉を開けた。



「……ん? なんだあれ?」


 巨大な水龍が待ち構えていると思っていた。


 しかし広大な前室にいたのは、俺と同じくらいの身長の人型だった。その両手には双剣を持ち、背にはマニピュレータを備えている。顔はアイアンゴーレムのような感じで口や鼻がなく、目らしきものが複数ついていた。


「人間じゃ、ないよな」


 四刀流の剣士みたいだ。


 良く確認しようと一歩前に進んだところで、剣士が構えた。


「おい。嘘だろ」


 俺が驚いたのは、それが良く知っている構えだったから。


 少ないといっても、四刀流使いは全世界で約800人いる。その中でも特に強い人の構えはだいたい覚えているのだけど、その剣士の構えはどれとも違った。


「中ボスは、俺のコピーってことね」


 ここに来てダンジョンの仕様変更か。恐らく、ダンジョンを登ってきた攻略者の姿を真似るモンスターに変更されたんだと思う。


 女神はそう易々とトロフィーを渡さないつもりなんだ。

 

 これまでで一番の強敵かもな。もしかしたらゲームでプレイしてきた時にないほど苦戦するかもしれない。


 とはいえ負けるつもりはない。

 玲奈を助けるため、俺は勝たなきゃいけない。



「最強の敵は自分ってか? 面白い。だったら俺をコピーした時より、俺が強くなれば勝てるんだろ? コピーじゃオリジナルに勝てないって、分からせてあげる」

 

 四刀を構え、俺は剣士に突撃した。

 

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