第017話 〈配信コメント欄〉

 

〈きたきたきたぁぁぁぁあああ!〉

〈ハヤテ無双のお時間です!!〉

〈灰のを踏破してまだ3時間くらいだろ〉

〈もう次に行くのか〉

〈ハヤテさん、無理しないでね〉


 颯が第3等級、泉のダンジョンを登っていく。そしてやはり、その様子は世界中に配信されていた。


〈ハヤテの所持金が500億以上だって分かったけどさ……。どう考えても投げ銭やPV数でもらえる金額じゃないんだよな。どこか大口のスポンサーでも付いたのか?〉


 もう既に3回目なので、彼がモンスターを一方的に蹂躙していくことに関しては視聴者の多くが慣れてしまい、それほど騒がなくなってきていた。代わりに颯のバックに付いた企業に関する議論がコメント欄で盛り上がる。


〈スポンサーならロゴマークつけるだろ〉

〈ハヤテも宣伝したりしないしね〉

〈ステマでもしてんのか?〉

〈何のステマだよ〉

〈この配信見て、何を買いたくなる?〉

〈買いたくなるっつーか……〉

〈やってみたくなるよね。ダンジョン攻略〉


 この議論があらぬ誤解を生む。


〈仮に俺らでもダンジョン攻略できるんじゃねって思わせるのが目的だとしたら、ハヤテがやってるのは現実世界に出現したダンジョンに俺らを誘い込むためのステルスマーケティングってことになるな〉


 颯が女神と共謀し、ダンジョンに人々を誘い込もうとしているのではないかという意見が出てきてしまった。


〈はぁぁぁ!?〉

〈まじかよ! ハヤテそっち側!?〉

〈運営とズブズブでしたか〉

〈冷めたわー。もう見るの止めよ〉

〈まだ可能性の段階だろ〉

〈決めつけんのは良くない〉

〈じゃあ、なんでこいつだけ強いんだよ〉

〈それはハヤテがリアルでも頑張ってたから〉

〈木刀を毎日振ってたんだぞ〉

〈京都土産のアレなww〉

〈だとしても、あの動きはおかしーだろ!〉


 あまりにも颯が強すぎたのだ。


 そのせいで颯=運営側という説がどんどん広まっていく。


〈変な説を流布するなよ〉

〈ハヤテはそんな奴じゃねぇ!!〉

〈案件なら案件だって言うから〉


 古参の颯ファンは、必死に彼を擁護する。


 しかし人気者はこうした批判を甘んじて受けるべき、有名税として何を言われても我慢すべきだ──そう思っている人間も少なくない。


〈擁護してるのも運営側だろ〉

〈あら、バレちゃいましたねー〉

〈大掛かりなステマ乙っすww〉

〈わかりやすすぎワロタ〉

〈明らかにこいつだけ強すぎんだよ〉

〈もっと調整頑張ってもろて良い?〉


 明らかに炎上する寸前だった。


 しかし颯は気にせずダンジョン攻略を進めている。ダンジョン内では現代の通信機器などが使用不能になるため、配信されているかどうか颯は確認できない。コメント欄が炎上しそうなことなど知りようもなく、火消しもできなかった。


〈そもそも米国の特殊部隊がクリアできないダンジョンを日本のガキがクリアできるわけないだろ。設定クソ過ぎ〉


 その後も颯の人気を妬んだ者たちから執拗に攻撃的なコメントが寄せられる。


 最終的にはハヤテのブースに視聴者登録していた人々の内、この説を信じた日本人およそ5万人が登録を解除してしまった。



 しかし、全体の視聴登録者数は逆に増えていた。


 例えこれがこの世界にダンジョンを出現させた存在と颯が手を組んでやっていることだったとしても、彼がダンジョンを攻略していく映像は多くの人々にとって貴重な情報だったのだ。


 ダンジョンからは地球上で採取できない特殊な鉱物や植物などが得られると判明している。それらは人類の生活を大きく変える可能性があった。そのため、アメリカをはじめとする各国はどうにかして自国のダンジョンを踏破したいと考えていた。


 国だけでなく、元FWOプレイヤーたちも颯の配信を見て危険度を推し量っている。更にこれからダンジョンに挑戦しようとしている一般人たちも、彼の立ち回りを研究していた。


 怪我を負えば普通に血が噴き出すこの現実で、颯は完璧にモンスターの攻撃を回避し、あるいは防いでしまう。ちなみにモンスターを攻撃した際は血が出ず、淡い赤色の光が散る。これはゲームだった頃と変わっていない。子どもでも彼の配信なら安心してみていられた。


 それなりに顔の良い若者が、たったひとりで巨大なモンスターの群れを派手なアクションで薙ぎ倒していく。


 颯のダンジョン攻略はエンタメとして完成されていた。


 ヤラセ疑惑により日本の視聴者は5万人減少したが、新たに数十万人の新規登録者があった。さらに世界の登録者でいえば、5千万人を突破している。


 世界中が颯に注目していた。


 登録を解除してしまった人々も、彼の過去の配信動画を見た人はその多くが改めて視聴者登録を行った。


 彼の人気を妬む者たちの書き込みは、それほど効果がなかったようだ。

 

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