第016話

 

「まさか我が社のAIが予測した攻略時間を30分以上も早めてしまうとは。それも無傷で……。やはり私が君を頼ったのは正解だった」


「東雲さんが提供して下さった資金のおかげです。それからマーケットに素材を流していただいたのも本当に助かりました」


 灰のダンジョンを攻略後、俺は泉のダンジョン付近にある東雲グループのホテルで休憩していた。


 体力的にはまだ余裕があったし、装備も第3等級ダンジョンで戦えるレベルのモノが揃っている。だからこのまま攻略を続けようと思ったのだけど、玲奈の父である東雲 信孝さんに止められてこのホテルにやって来た。


「現在、私が用意した部隊が灰のダンジョンで素材集めを行っている。ある程度の素材が集まるまでの間、颯君には少し休んでいてもらいたい」


 ビデオチャットでそう話す東雲さんの話を、俺はうつ伏せに寝た状態で顔だけ前を向けて聞いていた。


 俺の腕と背中、足を数名の美女がマッサージしてくれている。この人たち、可愛いだけじゃなくてマジで上手い。めっちゃ気持ち良い。


 会話中にもかかわらず、大きな欠伸が出てしまった。


「眠そうだね」


「東雲さんが手配してくれたこの人たちが、凄く上手なので」


「我がグループが全国展開する高級マッサージ店で、特に優れた技術を持つ者たちを厳選して呼び寄せた。存分に癒されてくれ。3時間ほど経ったら君を起こすように言っておく」


「ありがとうございます」


 眠気が限界だった。


 四刀流が使えること、そして資金を気にせずやりたいように武器の強化ができてしまうことでテンションが上がり、知らないうちに疲労が蓄積してたのかも。


 黒のダンジョンは最短ルートで攻略しても、1階層あたり約1kmある。それが10階層。先ほど踏破した灰のダンジョンはもう少し広かった。少なく見積もっても昨晩は10km、今朝は10km以上の距離をモンスターと戦いながら走り続けてきた。


 冷静に考えれば疲れてない方がおかしい。


 完璧な体調になって玲奈を救出に行けるよう、今は寝てしまおうかな。


 泉のダンジョンの構成や出現するモンスター。そして中ボスとボスの情報を思い出しつつ、俺は意識を手放した。



 ──***──


「では今から第3等級、泉のダンジョン攻略を開始します!」


 とても身体が軽い。

 すがすがしい気分だ。


「ここ泉のダンジョンは、その名の通り出現するのは水属性のモンスターです。俺が持ってる最強の武器は風の魔法剣(改+30)ですね。特攻とまではいきませんが、普通にダメージは与えられるのでこのまま行きます。」


 俺は解説しながら攻略するのが癖になっている。そして灰のダンジョンを攻略した時も、その様子は世界中に配信されていたらしい。


 今回もそうなのだろうなと思い、このスタイルで行くことにした。


 でもFWOとは違い、視聴してくれてる人たちの反応が見れないのは少しつまらないな。励ましコメントとか、凄く力になる。投げ銭してくれた人への御礼もしたい。


 リアルで命かかってるんだから、コメント欄での暴言とかに気をとられずに済むのは良いのか。気にしないように心がけていても、目に入れば気になってしまう。

 

 まぁ今はそんなことより、攻略に集中しよう。

 


「稀に魔法が効かないモンスターも出てくるので、一本は強い物理系武器を作っておきたいと思います」


 魔法剣は魔法を主体にした剣だが、近接攻撃すれば普通に物理攻撃にもなる。だからどうしても必要ってわけじゃないけど、資金に余裕があるしゲームのFWOと違う設定になっていることもあると予測して新武器を作ることにした。


「まずマーケットで素材を探します。……おぉ! もう第2等級ダンジョンの素材が出回り始めてますね」


 東雲さんが手配してくれたことを知っているので、これはちょっとヤラセっぽくなっちゃったかな。


 ちなみにFWOではその時点で解放されている最難易度のダンジョンを誰かがクリアすると、クリアした当人でなくとも次に解放されるダンジョンへ挑戦できるようになる。ただし、前の等級のダンジョンボスを倒さないと、新たに解放されたダンジョンのボスには挑めない。そんな仕様だった。


 つまり東雲さんが派遣した私兵団は、攻略が困難な黒のダンジョンボスを無視して、灰のダンジョン低階層で素材集めをしてくれていた。その方が黒のダンジョンでアイテム集めするより質の良いモノが手に入りやすい。


「強化する物理剣のベースは黒のダンジョン中ボスからレア泥したストーンソード改にします。灰のダンジョンでもいくつか物理剣をゲットしてますが、それらより最終的な攻撃値はストーンソード改の方が高くなります」


 泥とはFWOのゲーム用語でドロップのこと。レア泥はレアドロップのことであり、その辺の雑魚モンスターがドロップする武器より、中ボスやボスが極々稀にドロップする武器の方が性能は圧倒的に高い。


 レア泥を求めて何度もボスを周回するのが常識なんだ。


 いきなり中ボスからレア泥したのは本当にラッキーだった。



「それじゃ今回も、+30目指して強化していきまーす!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る