第011話

 

 無事に黒のダンジョンを単独で踏破できた。


 ラスボスの部屋にあった石碑に俺の名前だけが刻まれていたから、俺が一番最初にあのダンジョンをクリアできたってことになる。


 俺がゲームのFWOを始めた頃はまだ中学生で、リリースされたのが平日だったこともあり黒のダンジョンの石碑に名を残すことはできなかった。そのことを思い出し、改めて嬉しさが込み上げてきた。



 ちなみに今はダンジョンクリア報酬で選択したジェットパックを使って空を飛び、自宅に向かっている。


 ダンジョンに入るのを担任の先生に止められたのに、俺はそれを無視して飛び込んじゃったから……。普通に外に出たら捕まって怒られるんじゃないかって思って、ダンジョン最上階から飛んで帰ることにした。


 踏破済みのダンジョンから外に出るにはボス部屋にあるワープ石に触れて1階まで戻るか、最上階の出入り口から飛んでいくかを選べるんだ。


 この辺の仕様もFWOのままで良かった。

 

 ただ、第3等級ダンジョンクリア報酬のはずのジェットパックが黒のダンジョンで選択できたのは驚きだったな。最初の踏破者限定特典なんだろうか?


 なんにせよ、これのおかげで移動は楽になる。


 

 自宅付近の空き地に着陸する。


 ゲームとは若干操作性が異なり、コントロールが安定しない。いきなり飛んで自室に戻ろうとしたら窓とかを突き破ってしまう可能性があったから、まずここに降りることにした。


雫石しずくいし はやて様ですね?」


「えっ」


 ジェットパックを収納していると、黒スーツを纏った老紳士に声をかけられた。


 彼の背後から数人の黒服が現れる。

 気づけば俺は囲まれていた。


 マニピュレータを起動させ、剣を構える。


「すみません。危害を加えるつもりはありません。少しお話しがしたいのです」


 老紳士がそう言ってきた。


「……いきなり囲まれたら、警戒するのが当然でしょう」


 武器とか持ってないみたいだけど、こっちはただの高校生なんだ。大人に囲まれたら怖いさ。でもよく考えれば、人に剣を向けたのはダメかもしれない。


 もしかしてこの人たちは警官で、俺を銃刀法違反で捕まえに来たとか?


「お前たち。下がりなさい」


「し、しかし、危険では?」


「ダンジョン踏破者とはいえ、彼はまだ高校生だ。落ち着いて話を聞いてもらいたい。だから下がりなさい」


 黒服の人たちは俺と老紳士から離れていった。


「俺がダンジョンをクリアしたこと、なんで知っているんですか?」


「それも含め説明させていただきます。まず私は、東雲しののめ財閥総裁の執事長をしている藤堂とうどうと申します」


 東雲財閥って、確か玲奈れなの……。


 俺がゲームのFWOで最後にパーティーを組んで最難関ダンジョンを一緒に踏破したのがエレーナ。彼女の本名が東雲 玲奈だ。


「ここではなんですから、車でお話しできませんか? 颯様のご両親から許可は頂いています。スマートフォンをお持ちでしたら、ご確認ください」


 藤堂さんに促されてスマホを確認する。

 なんかすごい件数の着信が入っていた。


 とりあえず着歴は無視してメッセージアプリを開く。こちらにも色んな人からメッセージがたくさん来ていたけど、それも今は無視して両親からのメッセージを確認することにした。


「……藤堂さんに従えって。あの、俺の両親を脅したりしてませんよね?」


「まさか。そのようなことは絶対に致しません。交渉はしましたが」


 どんな交渉か気になるな。

 でも今は話を聞こう。


「わかりました。ついていきます」


「ありがとうございます。では、こちらへ」


 藤堂さんに案内された先に黒のリムジンが止まっていた。


 こんなに近くで見るのは初めてだ。

 もしかして俺、今からコレに乗るの?


「颯様、どうぞ」


 藤堂さんがドアを開けて俺を車内に招く。


 緊張しながら中に入ると、床がふわふわだった。椅子はレザーシートで、高級感が凄い。前にテレビでマッサージ機能付きのシートもあるって言ってた。この車にもついてるのかな? それっぽいボタンはあるけど……。


「マッサージ機能をご利用なさいますか?」


「えっ、あ、いや。ちょっと気になっただけです」


 マジで付いてるらしい。

 金持ちってヤバいな。


「出してくれ」


 俺の斜め横の席に座った藤堂さんがそう言うと、リムジンが動き出した。


 移動するとか聞いてない。


「あの、なんで移動を? どこに行くんですか?」


「颯様はダンジョンを踏破された有名人ですので、マスコミなどに囲まれるのを防ぐためです。ご両親も既に東雲グループのホテルにご招待しています」


「さっきも聞きましたが、俺がダンジョンクリアできたのどこで知ったんです?」


「やはりお気づきではなかったのですね。実はダンジョンを攻略している方々の姿が、動画配信サイトで確認できるようになっていたのです」


「えっ」


 なにそれ?

 配信なんてしてないぞ!?


「この『ハヤテのブース』は貴方が開設されたものですか?」


 藤堂さんが俺にスマホを見せてきた。


 そこには俺が黒のダンジョンを攻略していく様子が映し出されていた。


「こんなの、俺は知りません!!」


 そう言って証拠を見せようと、スマホを操作して自分のブース画面を出す。


「あ、あれ? なにこれ!?」


 俺が開設した『ハヤテ式四刀流推進室』というブースの他に、もうひとつ。全く身に覚えのない『ハヤテのブース』というのが出てきた。


「やはり、貴方でしたか」


「ちち、違うんです! 俺は、こんなブース作ってません!!」


 冤罪だ!

 何の罪になるか分からんけど。


 否定するために、改めてブース情報を見る。


 開設日時は今日の夕方。

 おそらく俺がダンジョンに入った時間だ。


 その時にブース開設なんてやってない。


 ついでに、なんとなく収益のタブをチェックした。自分の作ったブースじゃないにしても、これを確認してしまうのが配信者のさがってやつ。


「……え。な、ななせんまんえん?」


 そこに表示された金額に驚愕する。


 投げ銭と視聴回数によって支払われる金額の合計が7千万円を超えていたんだ。


 意味が分からなさ過ぎて怖い。


 毎日頑張ってダンジョン攻略動画をアップして、それで月収20万円いけば良い方だったのに……。たった1回のダンジョン踏破で7千万とかあり得ない。


「颯様は世界で最初にダンジョンをクリアなさいました。その様子を世界中が見ていたのです。それ故の、配当金がそちらかと」


「世界で、俺が最初に?」


 いや、それは無い。

 

「アメリカとか軍隊投入して調査したりするでしょ」


「確かに。アメリカやロシア、中国などは特殊部隊を編成し、黒のダンジョンの調査ならびに踏破を目指していました。その様子も配信されていたのです」


 日本だけじゃなく、やっぱり世界中にダンジョンが出現したんだ。


「だったら、俺が最初っておかしくないですか?」


 俺みたいな一個人が、武器を持った兵士たちに攻略速度で勝てるわけがない。


「各国の特殊部隊が持ち込んだ武器はダンジョンの6階以上に出現するモンスターにほとんど効果がありませんでした。武器の現地調達にてアメリカの特殊部隊が最も上まで登ることができましたが、それでも8階で部隊壊滅しています」


「米国の特殊部隊が8階で壊滅ってマジ? 初心者用ダンジョンなんだけど……」


 思わず口調が素になった。

 それくらい驚いた。


「ここまでが現状の御説明です。そしてここからが、颯様にお願いしたいこと」


「な、なんでしょうか?」


 俺の目を見た後、藤堂さんが深く頭を下げた。



「どうか、玲奈お嬢様を助けていただきたいのです」

 

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