第009話

 

「ボス部屋の前に、装備チェックです」


 配信していないから、これは完全に俺のひとりごと。


 せっかくここまで来るなら、配信セットを持ってくればよかった……。


 俺の動画配信ブース、ハヤテ式四刀流推進室はFWOの攻略実況だけじゃなく、四刀流を使いこなすためにリアルで俺がやっている特訓も公開していた。


 だからアクションカムやジンバルなんかの機材も一通り揃っている。


 まぁ、ゲームと違って配信用ドローンを飛ばせないから仕方ないか。


 アクションカム持ちながら戦闘なんてやってられない。


 リアルでのダンジョン配信。

 これ実況出来たらバズるんじゃないかな?



 四刀流がこれからも使えるってことが何より嬉しい。それに加えて、もしこのダンジョンでゲットしたアイテムをダンジョン外に持ち出せたら、それで生計を立てられるんじゃないかって希望を持っていた。


 リアルダンジョン攻略の動画配信も視聴回数を稼げるはず。


 てことで明日、もっかいチャレンジしようかな。


 そんなことを考えながら装備を確認していく。


「ここに来るまでで、初期装備からだいぶ変更されました。いつものように物理と魔法、両方の防御ができるよう右のマニピュレータには魔法系、左には物理系のライトソードを持たせてます」


 第1等級ダンジョンではマニピュレータ自体を交換することはできない。これをより高度なモノにするには攻略を進めていき、3番目に解放されるダンジョンで採れる鉱石が必要になるんだ。


 武器や、マニピュレータなどの各ジョブ専用装備の強化がダンジョン内で出来るっていうのがFWOの特徴かな。武器屋とかが存在しない。そのシステムは、現実世界でも適用されているみたい。


「3階まで活躍してくれた京都土産の木刀ですが……。残念ながら折れちゃいました。だからモンスターがドロップする武器を回収してはより強い物に変えながらここまで来ました。んで、さっきのガーディアンゴーレムがレア泥したので、そのストーンソード改を装備してます。左手は7階でゲットしたアイアンソードです」


 四刀流は武器の消耗が激しい戦闘スタイルだ。


 戦闘中に武器の耐久値が限界を迎え、武器交換を余儀なくされることは多い。そのまま使い続けて交換しなければ武器が破損してしまい、最悪の場合は修理もできなくなってしまうこともある。


 武器を変更すれば当然重さや攻撃可能範囲が変わる。それは慣れた武器を愛用する人ほど、戦闘に支障が出るだろう。だから俺は戦っている最中に武器を変更しても、それまで通りのパフォーマンスが発揮できるように訓練してきた。


 左右で重さの違う武器を装備して、それで最高の威力が出せる感覚を必死に身に着けてきたんだ。その効果が、今ここで生かされている。


 新たにゲットした武器を装備して次の難敵に挑むのがFWOの醍醐味だと思う。


「このちょっとずつ強くなりながら前に突き進んでいく感じが、俺はほんとに好きなんですよね。……まぁ、誰も聞いてくれてないけど」


 ちょっとむなしくなった。


 このむなしさは、ラスボスを倒してダンジョンを制覇した爽快感で打ち消そう。



 ボス部屋に入った。


 最初のボスは、岩の竜。

 ストーンドラゴンだ。


 巨体で的が大きく、動きがノロい。翼はあるが空は飛ばない。


 攻撃力もさほど高くなく、気を付けなきゃいけない大技も体力が残り10%まで減って来た時に放つ1発のみ。


 チュートリアルをこなし、ここまで登ってきたプレイヤーなら問題なく倒せるモンスター。FWOの設定はそんな感じだった。


 中ボスのゴーレムが若干仕様変更されてたから、ボスもそうである可能性を考えて戦闘に臨もう。



 グルルルル


 ストーンドラゴンが唸りながら突進してきた。


 FWOにはプレイヤーと会話できるボスも実装されているが、最初のこいつはほぼモンスターなので会話は不可。そして初手で突進してくるというのもゲームと同じだった。


 魔法剣が防御用のショートソード1本しか入手できていないから、正直言ってこのストーンドラゴン戦はキツい。


 本来はチュートリアルを終えたプレイヤーが複数人でパーティーを組み、前衛や後衛などの役割分担をして挑むボスモンスターなんだ。


 だからと言って諦めるわけにはいかない。


 絶対に俺が最初の踏破者になりたい。


 他のFWOプレイヤーも多くが参戦しているだろう。自衛隊とかが攻略を始めてるかもしれない。世界がFWOに同期したっていうなら、アメリカとかにもダンジョンが出現しているはず。特殊部隊が銃火器でモンスターを殲滅しながら超スピードで攻略していてもおかしくないんだ。


 それには流石に勝てないだろうけど、せめて日本にあるこのダンジョンだけでも俺が一番に踏破してやりたい。だから──



「ちょっと強引だけど、一撃で倒させてね!」


 マニピュレータの力を使い、俺はボス部屋の天井付近まで高く跳躍した。

 

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