2章 初心者用ダンジョンを踏破してください
第007話
ゲーム世界にしか存在ないはずのダンジョンがリアルに出現した。
色々疑問に思うところはあるが、そんなことより俺の身体は先に動く。
リビングの横を通って玄関に向かおうとした時、両親が先ほどの地震で倒れた棚などを元に戻していた。ふたりとも特に怪我などはなさそうだ。
「ちょっと高校行ってくる!」
そう言って両親の返事も待たず、俺は家から飛び出した。
家から出る時、玄関の傘立てに放置されていた京都土産の木刀をとりあえず持っていく。そして自転車に跨った。
行先は高校付近に出現したタワー型ダンジョン。
あれは形状からして、初級プレイヤーがチャレンジするダンジョンだ。
そして先ほどのアナウンスがもし本物であるなら。この世界にFWOが同期したという馬鹿げた話がもし本当であったら……。
はじめてダンジョンを踏破した者は何らかのボーナスが得られるはずだ。
ありえないって分かってる。
それでも、もしこれが夢じゃなかったら?
もし本当にFWOのダンジョンがこの世界に出現したのだとしたら?
最初の踏破者って称号は絶対に欲しい。
全力で自転車を漕ぎ、高校へと向かう。
どんどんタワー型ダンジョンが大きくなる。
幻とかじゃなさそうだ。
ダンジョンが出現したのは高校の校庭。1、2年生の校舎も一部飲み込んでいる。
黒く、空高くそびえ立つダンジョンの周りには既に多くの人が集まっていた。
マズいな。
誰かに先を越されたか?
急がなきゃ!
俺は自転車を降りると、木刀を持ってダンジョンに向かった。
「あっ、颯君! ちょっと待ちなさい!!」
高校すぐそばに家がある担任の先生がこの場に来ていた。先生が俺に気付き、ダンジョンに入るのを止めようとしてくる。
その制止を無視して、俺は大きく開いたダンジョンの入口に飛び込んだ。
入口をくぐる時、薄い膜のようなものを通過した感覚があった。
後ろを振り返ると、入り口が無くなっている。
FWOの時と全く同じだ。
【黒のダンジョンへようこそ】
頭に響くような声が聞こえてきた。
やっぱり、俺が思った通りだった。このダンジョンは初心者用のダンジョンで間違いないらしい。
【チュートリアルを開始しますか?】
目の前に YES / NO という選択ボタンが出現した。
少し悩んで、俺はNOを押す。
一刻も早くクリアしたい。
願わくはFWOと全く同じ仕様であって欲しいと強く願った。もしここがFWOの仕様通りなら──
【チュートリアルをスキップします。では、
良かった。
問題なさそうだ。
半透明のボードに無数のジョブが表示される。
俺は心で祈りながら、その画面をスクロールしていく。
お願いです。
あのジョブがありますように。
「あっ! あった!!」
多刀剣士というジョブを見つけた。
でもここからが一番の問題。
俺は震える手で多刀剣士の項目を指で押した。
項目が展開され、更に複数の戦闘スタイルが選択できる画面が出てきた。
その中に──
「あったぁぁぁああああ!」
戦闘スタイル『四刀流』を見つけた。
なんで現実とゲームが同期したのとか、もしこのダンジョン内で怪我を負ったらどうなるのとか、今の俺にとってはどーでも良い。
ワクワクが止まらない。
俺は迷いなく四刀流を選択した。
【一度ジョブと戦闘スタイルを決定すると、特殊アイテムを手に入れるまで変更はできません。ジョブは多刀剣士、戦闘スタイルは四刀流で決定しますか?】
再び現れる YES / NO の表示。
即座にYESを選択する。
【戦闘スタイルが決定しました。四刀流専用の初期装備を身に着けてください】
目の前の空間が光り、FWOを始めた当初に使っていたマニピュレータが現れた。ゲームではかなり前に捨ててしまったから、こうして見るとかなり懐かしい感じがする。
「確か、コイツの癖は……」
マニピュレータには型式によって独自の癖がある。
それをいかに把握できるかが複数の剣を扱う四刀流では極めて重要になるんだ。
過去の感覚を思い出しながら、宙に浮かぶマニピュレータの前に立った。
スチャっと、俺の肩甲骨あたりに2本の副椀が装着された。
FWOの時とは別の違和感がある。
でもこれくらいならすぐ慣れるだろう。
右のマニピュレータに木刀を持たせてみた。
軽く振ってみる。
……うん、問題はなさそうだ。
次はもう少し本気でやるか。
木刀を振り上げ──
切落からの切上、袈裟斬、右切上、逆袈裟、左薙、そして刺突。
全力の七連撃。
人間では手首の返しで手間取る逆袈裟から左薙って動きも、マニピュレータならスムーズにやってくれる。
全力で振っても大丈夫そうだ。
俺が動きを止めると、再びアナウンスが響いた。
【続いて、武器を選択してください】
きた。
武器選択だ。
FWOの設定で非常に謎なのが、四刀流を選択しているにも関わらずもらえる武器が2本だけだということ。初心者さんに四刀流のレクチャーをする時、最初から4本くれよって何度思ったことか。
半透明のボードにいくつかの選択肢が出現する。
選択数は 0 / 2 となっている。
つまり、ここでも武器は2本までしか選べない。
こんなことじゃないだろうかと思って、俺は自宅から木刀を持参した。
中学生の修学旅行でつい買ってしまった木刀が、こんなところでデビューすることになろうとは……。まぁ、持ってきて正解だったな。
俺はマニピュレータに持たせる剣として、扱いが難しいが攻撃力の高い2本を選択した。この2本と木刀があれば、強化のために一度ダンジョンから出たりすることもなくここをクリアできるだろう。
「さて、初めての実戦ですね。ハヤテ式四刀流、行けるとこまでいってみまーす」
配信なんてしてるわけがない。ただ自分がゲームと同じように戦えるのかが少し不安だった。その不安を紛らわすため、俺はいつもの感じで解説しながらダンジョンの奥へと足を進めていった。
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