第005話

 

 次々と現れるモンスターを4本の剣で切り裂いていく。


 前回このダンジョンに挑戦した時は、この辺りで回復アイテムが底を尽き、クリアは諦めて撤退した。


 しかし今回はアイテム類にまだ余裕がある。


 攻撃力を高めるバフ系アイテムも温存できている。


 というのも、遠くから俺たちに向かってやってくるモンスターたちの内、特に厄介そうな奴らをエレーナが強力な遠距離攻撃で倒してくれるからだ。


 俺は接近してきた雑魚を蹴散らすだけで良い。


 久しぶりにパーティを組んだが、彼女クラスの強者とならば非常に楽ができる。


 仲間がいるってのは、良いもんだな……。



「ハヤテ。やっぱりあんた凄い。あれだけモンスターに囲まれてたのに、まったくダメージ受けてないなんて」


「俺がダメージを負いそうな敵は全部、接近される前にエレーナが倒してくれたからな。ありがと」


 彼女は小さな身体のキャラを使用している。だからつい、頑張りを褒めるつもりでエレーナの頭を撫でてしまった。


「ちょ、ちょっと!」

「あ、ごめん」


 耳まで真っ赤にしていた。

 そんなに嫌だったか。


「いきなりは、その。こ、心の準備が……」


 照れただけ?

 怒ってるとかじゃないのか?


「も、もしこのダンジョン踏破に私が貢献出来たら、今のもう一回やりなさい」


 やっぱりこの子、素がツンデレだろ。


 リアルでは清楚系なのに、なんでゲーム内だと真逆のキャラなんだ? まぁ、FWOはモンスターを狩るゲームだから、今の彼女のキャラの方が人気が出るのは分かる気がする。騒がしい美少女がサクサク無双するのは、見ていて爽快なんだ。


 配信ではツンデレ要素なんてほとんど見ないけどな。


「ね、ねぇ! どうなの!? 無視しないでよ! それとも、やっぱり私とじゃクリアは無理だって思ってる?」


「えっと。クリアしたら、また頭撫でてあげればいいんだな? この調子ならいけると思う。ボスの情報がまだ公開されてないから、それ次第だけど」


 このダンジョン、既に数組の踏破者がいる。


 俺は学生で昼間は高校に通っているので、ずっとこのFWOだけをできるプロゲーマーにはどうしても勝てないんだ。ただ日本のプレイヤーでは現在、俺とエレーナがいる場所が最高踏破階層だった。


「ボスの情報ならあるわ」


「えっ」


東雲しののめグループの情報網を甘く見ないことね。ハヤテが私をパーティに入れるのを拒んだとき、交渉材料のひとつにするためにボスのことも調べてきたの」


 俺とパーティ組むために準備してきたってことか。


「それで、どうする? ボスの情報、見る?」


「エレーナはまだ見てないの?」


「うん。だってボス情報を見ずに倒せれば、実質世界最速でボスを倒したのと同じ。それが楽しいから初挑戦の時は攻略サイトを見ない──そうよね?」


 それは俺が配信で言った言葉だ。


「もしかして俺の配信、見てくれてる?」


「ぐ、偶然よ! FWO関連動画の一覧にあったから、たまたま目に入ったの」


 そりゃそうか。

 

 あの巨大財閥のお嬢様が、俺の配信を全部見てくれてるわけがない。


 でも俺の考えに賛同してくれているのは少し嬉しい。


「せっかく情報持ってきてくれたのに悪いけど、初回はこのままいかせて。最悪失敗してデスペナ喰らうけど」


「私は平気よ」


 そうだった。彼女は全ての装備にデスペナ回避のアイテムを使用してるんだ。


「ダンジョンで出現するモンスターの傾向から、ボスの特徴を予想して装備とアイテムを準備する。ボス特化じゃないから失敗することも多いけど、それだけ初見でクリアできた時の嬉しさも倍増する。私もそう思うわ」


「いいねぇ。エレーナのこと、好きになれそう」


「すす、すきって! ななに馬鹿なこといい言ってるのよ!!」


 声が震えてる。

 流石に気持ち悪かったか。


 なんとか誤魔化さなければ。


「俺は四刀流が使えなくなったらFWOをやめると思う。それでも、エレーナの配信は絶対に見るから。これからも日本のトップランカーでいてくれな」


 そう言って手を差し出した。


「まずは今日、このダンジョンをクリアしよーぜ!」


「……うん」


 エレーナが俺の手を握り返してくれた。これでさっき俺が好きになれるって言ったのは、彼女の記憶から抹消されていることを願おう。



 ──***──


「いよいよだな」


「えぇ。準備はできたわ」


 俺とエレーナは、ボスがいるエリアまでたどり着いた。


 互いに装備の最終チェックや、緊急時に使用するアイテムの設定などを行った。


 本当はゲームを中断する予定の時間だったが、せっかくふたりでここまで来たんだ。今日、このダンジョンをクリアしてやろう。


「配信はなしで良いのよね?」


「うん。初回プレイでは中ボス以外配信しないようにしてる。これからチャレンジするプレイヤーにも、少しの間は初見プレイを楽しんでもらいたいから」


 既にボスを討伐している世界トップランカーたちも俺と同じような考えらしく、彼らも初挑戦を配信していない。ボス出現時の演出を楽しみにしているプレイヤーだって多いんだ。



「さて、行こうか」


 俺たちはボスエリアに足を踏み入れた。



 

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