第004話
「そういえば、なんでエレーナは今日ひとりなの? いつもは戦士3人とパーティー組んでるだろ?」
ゲーム内とはいえ、巨大財閥のお嬢様がひとりでプレイしているのは珍しかった。
その戦士3人というのは彼女のゲーム内SP(要人警護)で、特殊な訓練を受けた女性プロゲーマーがエレーナを常に守護していた。
「ハヤテがPVPしてるとこ、他人に見られるの嫌だろうなって思って」
「そうなんだ。ありがと」
良いとこあるじゃん。
もし彼女の護衛がいたら、俺は奥義である
でもまぁ、四刀流が使えなくなればそんな必要もなくなる。
ちなみに俺は巨大財閥のお嬢様が相手であっても、ゲーム内で俺は敬語とか使わない。初対面のプレイヤーには敬語を使うけど、一度刃を交えれば
俺が敬語じゃなくてもエレーナは怒ったりしない。
「よくこの階層までひとりで登ってこれたね」
「ハヤテが通った後を追いかけてきたの。ほとんどモンスターは出てこなかった」
そうか。モンスターのリスポーン前に通ってきたんだ。
「ひとりで戻れる? その装備だとデスペナ大きそうだし、最下層まで送って行こうか? “帰還の羽”を使うのも勿体ないだろ」
FWOはタワー型ダンジョンを登り、一番上まで行くことを目的としたゲームだ。稀に地下に潜っていくダンジョンもあるが、俺たちが今いるのは上に登っていくタイプだった。
そしてこのゲームでは
エレーナの装備は見た感じ最高レベルまで強化されてる。デスペナを防ぐ“身代わりの護符”ってアイテムもあるけど、非常に高価なので俺はメイン装備の鎧にしか使用していない。
そしてダンジョンから離脱するアイテムである帰還の羽も超貴重アイテムだった。俺はお守りとして1枚だけ所持している。いざという時、デスペナを選ぶか帰還の羽を使用するかはかなり悩ましいところ。
「私は全部の装備に身代わりの護符をつけてるからデスペナルティは平気」
「えっ」
「帰還の羽もたくさんある」
「マジ?」
……そうか。
そう言えば身代わりの護符も帰還の羽も、どっちも課金で手に入るんだった。
「この、お嬢様め」
「あんただって配信で稼いでるでしょ?」
「俺は装備強化で精一杯なんだよ。親に食費とか渡さなきゃいけないし」
「へぇ、親と同居してるんだ」
「お、お前だってそうだろーが!」
なんか馬鹿にされた感じがする。
「俺は来年からひとり暮らし始めるんだよ。やって行けるか、ちょっと不安だけど」
「うちの系列が管理してるマンション紹介してあげようか? 最高の環境でFWOができる部屋を準備してあげる。条件をのんでくれるなら、家賃もタダで良い」
ありえないほどおいしい話だ。
でも実はこの提案、以前にも似たようなものを持ち掛けられたことがある。
「……その代わりエレーナのパーティに入れって言うんだろ?」
「そう! 私はハヤテのことを凄いプレイヤーだって思ってる。四刀流が使えなくなっても、あんたならすぐ別の武器で最強になるでしょ」
それはいくらなんでも持ち上げ過ぎだ。
俺は四刀流だったからトップランカーになれた。他の武器に変えたら、今ほどFWOにのめりこめなくなってしまう。
「私はハヤテとならパーティを組んであげても良い。光栄に思いなさい。私が誘うのなんて、あんただけなんだからね」
このわかりやすいツンデレが彼女の素なのか、俺をからかうためにこういうキャラを演じているのかマジで分からない。
素だったら、ちょっと可愛いかも。
特にリアルの彼女は物静かで、これぞお嬢様って感じの美少女だった。そんな玲奈とエレーナのギャップが非常に良い。
「誘ってくれたことは嬉しい。だけどゴメン。前にも言ったけど、俺は特定のパーティを組まないことにしてるんだ」
「わ、私が誘ってるのよ!? リアルで部屋を用意してあげるし、お金が必要なら私のSPってことで給料も出してあげる! なんで断るの? 理由を教えなさいよ!!」
俺がパーティを組まない理由はまだ誰にも教えてない。今後もそうするつもり。
「ごめんな」
「……わかった。それじゃ、今日だけ。今日このダンジョンを踏破するまでで良いから、私とパーティを組んで」
真っすぐ俺の目を見て訴えてくる。
断れそうになかった。
「ここ、現在公開されてる中で最難関のダンジョンですけど?」
「ハヤテが前衛してくれるなら、私は足手まといにはならない。もしヤバそうなら帰還の羽で逃げるから。それでもダメ、かな?」
上目遣いで少し目に涙を溜めて聞いてくるのはズルい。
「俺は今日、あと2時間ぐらいしかプレイできない。それまでなら」
「やった!」
エレーナが小さくガッツポーズをする。
そんなに俺とパーティ組めるのが嬉しいのか?
……いや、違うな。
最難関ダンジョンを日本勢初クリアできる可能性に期待してるんだろう。きっとそうだ。勘違いは良くない。
でも、ちょっとは期待しても良いのかな?
日本四大財閥の令嬢で、リアルでも美少女のエレーナが俺に好意を抱いてくれている──そんなありえない状況を。
仮にそうだとすれば、彼女にかっこ悪い所は見せられない。
てことでこのダンジョン、全力でクリアしてみせよう!
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