第002話
多刀剣士用マニピュレータの廃止。
それは俺がFWOで四刀流ができなくなることを意味している。同時に俺は四刀流じゃなければ、プレイヤーとしては並み程度の実力しかない。マニピュレータが使えなくなれば俺はFWOの上位ランカーになれないんだ。
FWO──ファーラムワールドオンラインは、VR世界のいたるところに存在するダンジョンを踏破していくゲーム。そのダンジョン踏破率で世界ランキングが更新される。俺は現在、世界ランク132位。ソロでの踏破率では世界14位のプレイヤーだった。
ここまで頑張れたのは幼い頃から四刀流への執着があったから。そして四刀流ができるフルダイブ型のVRゲームがFWOしかなかったからだ。
4本の剣による連撃で敵を倒すスピード感が好きだった。防御と攻撃を同時に行える万能感。そして圧倒的手数が最高だった。
俺は四刀流が大好きだった。
そんな俺から、FWO運営は四刀流を取り上げるつもりだという。
「納得できるか!」
運営からの告知には『新ジョブ追加に伴い、使用者の少ないジョブをいくつか整理する』と書かれていた。多刀剣士もその整理対象に選ばれたみたい。
ちなみに双剣は人気の戦闘スタイルで、そちらには変更がない。
どうしても納得できなくて、俺は今回の企業案件を持ちかけてきたFWO運営の田中さんに連絡を取ることにした。
いつもはメールでのやり取りだけど、今回は電話をかける。なんでこのタイミングで俺に案件を持ちかけてきたのかも確認しておく必要があった。
「はい。ジージー株式会社、宣伝部の田中です」
「田中さん!! 告知見ましたよ!? どーいうことですか!?」
「あー。ハヤテ君か……」
気まずそうな感じが電話越しでも伝わってきた。
「君の配信、見てたよ。まさかガディールをソロで討伐するとはね」
「そんなことより、なんでマニピュレータが廃止なのか教えてくださいよ」
「告知にも書いてあっただろ? 使用者が少ないからだよ。いくら使う人数が少なくても、ゲームとしては一斉アップデートの度に新武器を追加しなきゃいけない。不人気武器でも、それ用のデザインや3Dモーションを新たに作る必要があって、とんでもない額の開発費が必要になる」
「そ、それはそうですが……。だったらもっと操作感を良くするとか、使用者を増やす努力を続けてくださいよ。俺がどれだけ四刀流を普及しようとしてきたか、田中さんも分かってくれますよね?」
以前は運営も四刀流使用者を増やしたいという意志があったようで、何度か公式とタイアップして初心者向けのデモ動画を配信したこともある。
「うん。ハヤテ君が僕らにすごく協力してくれたのは分かってる。でも仕方ないんだ。二本しか腕のない人間が、存在しないはずの第三、第四の腕を動かすことの難しさは、いくらソフトウエア側で補助したところでどうしようもなかった」
俺も最初は違和感がすごかった。思うようにマニピュレータを操作できず、もどかしい思いをした。数か月前までは運営がその違和感を無くそうと努力したことも知っている。四刀流を使いこなせるようになった数百人の四刀流ユーザーに協力してもらってデータを収集し、改善に取り組んできた。俺もそのデータ取りに協力した。
ひとりで4本の腕を自由に動かせるようになれば、医療や建築など現実の様々な分野で応用できるのではないかという考えから、ゲームの中だけでなく現実世界でも研究が進められていたんだ。
それでもダメだった。研究者の人たちも、どうして俺たちが四刀流を使いこなせているのか分析できなかったみたい。
FWO運営であるジージー株式会社はマニピュレータ操作感の改善を諦めてしまったようで、それ以来は修正パッチが当てられることはなかった。
更新は無くても、裏で開発は進めてくれているのだと信じていたのに……。
「ハヤテ君にはガディール討伐を失敗してもらう予定だった。そして落ち込んでいる君に、新しい案件を依頼するつもりだったんだ」
「……えっ」
「廃止される戦闘ジョブから別のジョブに転職するのを促進するキャンペーン。その告知をしてもらいたかった。転職ボーナスでハヤテ君が新たなジョブとなってガディールに再戦し、そして勝つ。それが僕らFWO運営が思い描いていたシナリオだよ」
「そ、そんなの!」
ただ運営の良いように利用されてるだけじゃないか!
俺が四刀流じゃなくなっても転職で力を得て強くなれるということを配信で示せば、俺以外の四刀流ユーザーや他の廃止予定ジョブのプレーヤーをゲームから離脱させずに済む。そう言うことだろう。
「わかってる。ずっと協力してくれた君に悪いことをしたことは、本当に申し訳ないと思ってる。だからこうして全て話してるんだ」
「……もう、マニピュレータの廃止は決定なんですか?」
「あぁ。会社の経営会議で決まった方針だから、僕らではどうしようもない」
FWOはプレイヤー数1億を超える超人気ゲームだ。そんな中で800人しかユーザーがいないスタイルは消されても仕方がない。利益が得られなければゲームの運営資金が無くなってしまうのだから。
確定申告とかが必要になって、普通の高校生があまり知らないようなこともネットで調べたりした。だからそーゆー事情も理解できる。
理解はできるけど、素直に認められなかった。
「とりあえず転職キャンペーンに関する詳細はメールで送っておくから。もし案件を受けてくれるつもりになったら返信をください。それじゃ、またね」
そう言って田中さんは電話を切った。
少ししてメールが送られてきた。そこに書かれていたのは、次のアップデートでマニピュレータの廃止が実行されるという情報。
俺が四刀流を使える時間は、残り1か月だけだった。
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