四刀流の最強配信者 ~やり込んだVRゲームの設定が現実世界に反映されたので、廃止予定だった戦闘職で無双します~

木塚 麻耶

第1章 四刀流の最強配信者

世界のアップデートを開始します

第001話

 

「こんばんは。ハヤテ式四刀流推進室の時間です」


 配信環境の調整を終えた俺は、コメント欄で挨拶を書き込んでくれたリスナーさんの名前を読み上げていく。


「タナピーさん、はじめさん、龍児さん、レーナさん、ひなさん、カールクライバーさん、タマにゃんさん、隣の客は良く客喰う客ださん、春香さん、こんばんはー!」


 いつも配信に来てくれる人たち。

 それから初見さんも何人かいる。


 その後も何人かがコメントをくれたが、とりあえず挨拶はここまで。また後で余裕ができた時、コメントを読んでいこう。


「それじゃ『FWO』やってきまーす。ちなみに今日はアレです。企業案件です」


 動画配信アプリのコメント欄は──


〈案件キタ━(゜∀゜)━!〉

〈久しぶりの依頼ですね〉

〈装備強化資金ゲット!〉

〈いや、スキルツリー強化が先だろ〉


 ──みたいな感じで盛り上がっていた。


 企業案件とは、ゲームの運営会社が俺みたいな配信者に報酬を支払ってゲームの紹介や新イベントの告知を依頼してくることをいう。


 俺が中学生の頃から始めたゲーム配信は、今や登録者30万人。これからやるFWO (ファーラムワールドオンライン)ってゲームでは、そこそこ上位の配信者になった。


「先月俺が『亡滅のヴァルグ』を単独で討伐したの覚えてます?」


〈覚えてるよー〉

〈あれは凄かった〉

〈は? 亡滅をソロとかマジ?〉

〈嘘乙〉

〈初見さんたちかな〉

〈ハヤテはFWOガチ勢だぞ〉


 信じてくれない視聴者もいるみたい。亡滅のヴァルグは通常、4人でパーティを組んでチャレンジするコンテンツだ。俺はそれを2時間かけてソロで討伐することに成功した。あれはマジで疲れた。


「ヴァルグのソロ討伐が運営にとって想定外だったらしく、ゲームバランスの調整が必要かどうかを確認するために今回の案件を貰った感じです」


〈運営の想定を超越する配信者w〉

〈最高の誉め言葉だろ〉

〈ハヤテ凄すぎwww〉

 

 想定通りの良い反応だ。


「で、今回の案件ですが当然、亡滅のヴァルグより難しいクエストを用意されています。それを俺がもしソロで討伐できちゃったら、ボスモンスターの強さの調整が入るみたいです」


〈ガチの果たし状キタ――(゜∀゜)――!!〉

〈もりあがってまいりました〉

〈やっちゃってください!!〉

〈修正入ったら運営の敗北じゃね?〉

〈実質ハヤテの勝ちだろww〉

〈よし、もっかい運営の想定を越えよう!〉


 コメント欄が賑わっているように、俺もソロで依頼を完遂させたい。


 四刀流が最強だってことを、もっと多くのFWOプレイヤーに分かってほしいんだ。そして四刀流の使い手が増えることを期待していた。



 俺はとある映画の影響で四刀流に強い憧れを抱くようになった。


 四本の刀を自在に操り、攻守を完璧にこなす最強の剣術。でも普通の人間には到底不可能な芸当だ。


 そんな四刀流が使えるフルダイブMMORPG、つまり仮想現実で大人数のプレイヤーが同時にプレイできるゲーム、ファーラムワールドオンラインが公開された。


 このゲームでは『多刀剣士』ってジョブを選択することで四刀流が使用可能になる。ちなみに多刀剣士で主流なスタイルは双剣使い。稀に足にも剣を装備して四刀流になるプレイヤーもいる。


 俺は肩甲骨の後ろからマニピュレータと呼ばれる機械の腕を生やし、その腕に剣を持たせることで四刀流を実現している。腕を増やすスタイルは、総プレイヤー数1億人以上のFWOでも、800人ほどしかやっていない。


 ゲームがリリースされた当初は人気なスタイルだったんだけど……。


 二本腕の人間が本来ないはずの第三、第四の腕を動かす操作感が複雑すぎた。


 加えてオートで戦ってくれるガンビットシステムの登場により、マニピュレータ使用者は激減したんだ。多刀剣士は今や絶滅危惧種。


 そんな状況でも俺は四刀流を極め、FWOの上位プレイヤーのひとりとなった。


 四刀流で強くなるための装備やスキル購入に課金が必要で、まだ高校生の俺がバイトだけで世界ランカーと張り合うのはかなり厳しく、少しでも足しになればと思い配信を始めたんだ。それが思いがけずバズった。


 四刀流って使用者が少ないから有名配信者がほとんどいない。


 物珍しさと、配信を始めた当時の俺が最新コンテンツまでクリアしてるプレイヤーだったから注目されたんだと思う。


 結果、税理士さんに確定申告をお願いするくらいには稼げるようになった。


 親には扶養がどうのこうのって少し怒られたけど、高校は卒業すること、配信部屋を自費で防音にすること、そして電気代と食費を母に渡すって条件で配信を続けても良いって言ってもらえた。



「さて、そろそろ行きます!」


 準備はできている。


 運営からの果たし状をクリアしてみせよう。



 ──***──


 俺の目の前には運営がソロチャレンジを指定してきたエリアボス、『ガディール』がいる。そいつが無数の炎弾を放ってきた。


「この攻撃は魔法系。右の魔封剣で防げます」


 右肩のマニピュレータが保持する剣で炎弾を切り裂いた。それと同時に左右の手に持つ剣で斬撃を飛ばしてガディールにダメージを与えていく。


「あっ、次の攻撃は物理系の炎です。これは風とかで消えにくい炎になってて、俺は防ぐ手段ないんで避けますね」


 視界の端に映るコメント欄には──


〈えっ?〉

〈どうやって見分けたの?〉

〈さっきのと変わらんだろ〉

〈説明しろカス〉


 ──などと書き込みがあった。正直これは何度も戦った感覚で分かるもので根拠はない。説明しろって言われても無理。あと暴言は無視する。


 リアルタイム配信でガディールのソロ討伐チャレンジはこれが初めてだが、配信外では何度か倒している。ソロでの討伐成功率は6割くらいかな。集中して、ヤバいミスしなきゃなんとか倒せるはず。


 視聴者さんが書き込んでくれたコメントに返事する余裕もあった。


「レーナさんのご質問、今回の装備を教えてください──か。はい、紹介してきまーす。まずメイン武器は氷の双剣、ケラフ=ヴァルザルグです。そんで右のマニピュレータには魔封剣、左には機工剛力剣を持たせてます」


 魔法系の斬撃が主体で、魔法に耐性がある敵が急に出現しても対処できる俺の最強構成。今回のボスは氷属性が弱点だからこの装備にした。敵の弱点属性に合せて武器を変えるのが手数の多い俺たち多刀剣士のやり方だ。


「ちなみにガディールは隠しエリアのボスって呼ばれてますが、ダンジョンのボスとは別の扱いになるのでゾンビアタックはできません。そもそも装備の強化値下がるから俺はそれをやりません」


 この敵は8人での討伐が推奨されるマルチプレイコンテンツ。以前俺が倒したヴァルグより体力が高く、攻撃力も約2倍。普通にヴァルグの2倍強い敵という感じだった。


 運営も流石にこれは無理だと思って俺に案件を出してきたみたいだけど──


 あまり舐めないでいただきたい。


 このFWOで四刀流を極めし今の俺に、不可能は無いと教えてあげよう。


「装備の『アールクリスタ』はそれぞれ9個全部を攻撃の赤色に。4本の剣全てにレベルマックスの『宝珠』もつけてます」


 アールクリスタや宝珠ってのは武器の性能を高めるための補助アイテム。それらもこのゲーム最高峰のモノを装備している。これは課金だけではどうしようもなくて、運とやり込みが必要になる要素だ。 


〈武器4つと頭、胴、手、足のそれぞれ全部に赤のRアールクリスタ?〉 

〈総額いくらだよ!?〉

〈72個全部赤は無理っしょw〉

〈ヤバすぎワロタ〉

〈レベルMAX宝珠って一個持ってたら上位クラスなんよな〉

〈宝珠光るまで止めません配信、見てたよ〉

〈あの努力が実を結び、今こそ運営の想定を凌駕せん!〉


 そう、俺はこの装備を作るのに心血を注いだ。


 加えて頭がおかしくなりそうなほど複雑なマニピュレータの操作を、今は自分の腕の様に操作できるまでになっていた。


「みんな! 俺は今日も、運営の想定を超えるぞ!!」


 剣の一本一本が、ガディールに大ダメージを与えていく。


 敵の攻撃を弾き、避け、それ以外は常に攻撃し続ける。



 戦闘開始から15分を経過していた。


 ちょっとコメント欄を見るのに時間をかけすぎたかもしれない。


 ここからは全力で行かなきゃ。


「いったん装備を持ち換えます。氷の短剣を一瞬持って、すぐ双剣に持ち直す。これで戦闘中武器変更ボーナスが発生して攻撃力がプラス8%されます」


 武器を持ち換えている最中は攻撃も防御もできない。敵の隙を完璧に見抜く必要があるが、それさえできれば攻撃力にバフがかかる。


「おっと、大技が来ますね。これは全エリア攻撃なんで回避できません」


 普通はこの攻撃をタンク役のジョブになったメンバーが防いでくれるんだが、ソロの俺にそんな仲間は存在しない。


「──ってことで、ここはスキル発動時の無敵時間でしのぎます」


 タイミングを合わせて攻撃スキルを発動し、ガディールの範囲攻撃を防いだ。


 これはFWOガチ攻略勢なら誰もがやってる技術。難しいけど、ソロでエリアボス討伐を目指すなら絶対に覚えなきゃいけない。


「大技放ってきたんで、そろそろ敵の体力が尽きそうです。ラストスパート、いきますよー!!」


 斬って斬って斬りまくる。

 怒涛の連撃。


 どうだ、間に合うか?



 何かが弾ける音が響いた。

 

 ガディールのコアが砕けた音。


 俺の、勝ちだ!!


「しゃぁぁぁああああ! ガディールのソロ討伐、完遂しましたっ!!」


 何度も勝っているといえ、負けることもある。


 リアルタイム配信で無事に討伐できたことが素直に嬉しい。


〈おめでとうございます!〉

〈おめでとー〉

〈88888888〉

〈すげー!!〉

〈マジでやりやがったww〉

〈ハヤテ強過ぎ〉

〈最後の連撃凄かった!!〉

〈俺も四刀流やってみよーかな〉


 コメント欄は賞賛の声が多かった。投げ銭も数万円分溜まっている。更なる高みを目指すためにできることはまだまだあるので、資金援助は非常にありがたい。


「みんな、応援ありがとう! 本日のFWOエリアボス、ガディール単独討伐はハヤテ式四刀流推進室のハヤテがお送りしました。今日の配信で四刀流に興味を持ってくれた人は是非やってみてね! 概要欄に四刀流のススメって動画のリンクを貼っておきます。あと、視聴者登録とグッドボタンをポチっとお願いします。ではでは~」


 配信を切断する。

 

 最終の同時接続数は2千人を超えてた。アーカイブに入ったあとも閲覧数が伸びると思う。


「投げ銭ありがてー」


 ゲームで強くなる為の資金だけでなく、生活費も稼げている。このままプロ配信者として活動できるんじゃないかって考え始めていた。


 順調に伸びる動画視聴回数などを見てニヤニヤしながら、俺はFWO運営にミッション達成の連絡をしようとしていた。



「ん? 運営からお知らせが出てる」


 視界の端にFWO運営から全プレイヤーへ告知が来ていた。


 新マップ実装のお知らせかな?


 ワクワクしながらメッセージを確認する。



「…………は?」


 ありえない情報が記載されていた。

 信じられなくて、何度も見直す。



「た、多刀剣士用マニピュレータの廃止?」


 それは俺にとっての死刑宣告だった。


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