62話 "脱出" (2)


「みんな大変だ!」


蚊神が病室を開けるとトランプをしているウィーブと久蛾とアゲハがいた。


「囲まれてんのか?」


久蛾が指の間にかろうじて挟んであるアゲハのカードを抜き取りながら答えた。


「とんでもない数で逃げられないですよ!今逃げ出してる患者や看護師がいなくなったらここに乗り込んでくるつもりですよ!」


「お、ジョーカーだ」


「おいウィーブ!言ったらダメじゃねえかよ」


蚊神はまだ動こうともしない久蛾達を見て焦りを募らせる。


「………何か策があるんですか?ないなら俺が誰か人質に…」


「まあ焦るなよ。策はあるよ」


久蛾はアゲハからカードを取ると手持ちのカードを抜き取って地面に置いた。


「はいあがった」


手を広げると久蛾は蚊神の方を見てヴェニスの手を握るゲーテに目を向けた。




ビジールは腕時計に目をやって貧乏ゆすりを続ける。

包囲してから5分が経過していた。


「団長もうよろしいのでは?」


ビジールの後ろにいた騎士団員が魔力銃を病院の窓に構ながら呟く。


「まだ看護師が残っているみたいだが……仕方ない」


そう言うとビジールは後ろを向いて大声を上げる。


「突撃だ!!!」


その一声で騎士団員達は一斉に病院に走り出す。

ビジールは少し遅れて中に入って行った。


病院の中はまるで廃墟ように壊れ果てていてそこには生気というものが感じられなかった。


「ひどいありさまだな」


ビジールは舞う砂埃に鼻を抑えながら先に進む。


「団長!!生存者2名保護しました!!」


その病室には二人の男女が同じベットで寝かされていた。

他のベットは瓦礫によってボロボロになっていたのでやむおえなかったのだろう。


ビジールはその男女を見て額に血管を浮き出す。


「タマルさんとセイレンさんだ。どちらも騎士団員ですよ」


そう言う騎士団員の言葉をビジールは手で静止させる。


「一般区民だ!こんなやつ知らん──それよりまだ見つからんのか!」


そこから5分、10分と時間が過ぎるが一向に見つからない。


ビジールの脇から冷たい汗が流れる。

ビジールも他の団員と一緒に探し回るがどこにもいなかった。


ビジールはため息を吐いてある一室のベットに腰を下ろした。


「…チッ誰だよこんな所でトランプなんてしてるバカは!」


その病室の床にはトランプが置かれていた。



転移門ワールドゲートで脱出をした久蛾達一行はノクターンの駐機場にワープしていた。


ゲーテは駐機場に着くやすぐにヴェニスのベットを動かして馬車まで運ぼうとした。


「おい!」


「ごめんなさい!また絶対に会いにきてこの大阿呆に謝らせるから!!今だけは!!」


ゲーテは蚊神の返事を聞く前に走り去って行った。


「……いいのか?何があったが知らんが信用できるのか?」


久蛾が蚊神にそう言うと蚊神は走り去るゲーテを見ながらまるで自分に言い聞かせるように呟いた。


「………あいつの言ってた事がもし本当なら必ず捕まえて殺します」


「……じゃあ悪の親玉に会いに行くか?」


蚊神は少しだけ頷いた。




バアルリン毎朝新聞より抜粋。


総合病院で謎の爆発!?


先日、バアルリン総合病院のボイラー室で謎の爆発があり病院は多大なる被害に遭いました。

幸いにも患者や従業員には死者は出ず軽傷者も少なかった様子です。

イラーマリン騎士団団長のビジールさんはこのような事が起きないように鋭意調査中という事です。




銀行強盗犯を無事逮捕!!


先日、バアルリンの街を破壊した四人組の銀行強盗犯をイラーマリン騎士団の団員達が見事、逮捕しました。

四人組のリーダーは「金が欲しかった。でも逃げられなそうだったから街を破壊して抵抗した」と述べており今後このような事がないようイラーマリン騎士団団長のビジールさんはこう語っています。


「皆さんの平和を守るのが私達、騎士団の仕事です!今度からは警備の数を増やし巡回の回数も増やし厳重に警戒して参ります!この度は申し訳ありませんでした」




30万の攻防戦の概要は結局のところ誰にも知られずひっそりと終わった。







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