61話 "脱出" (1)
イラーマリン騎士団本部では住民の
普段はベルルに従っていた騎士団長であるビジールも動かざるおえない事態にまで陥っていた。
本部の中庭では総勢700名の騎士団員が整列していた。
団長のビジールはアルミ製の演説台の上に立ち大声で叫んだ。
「この事態は由々しき事だ!!この区に住む様々な人々から助けを呼ぶ声が我々に届いた」
そう言うとビジールは四本の指を上げた。
「
ビジールは目撃証言から久蛾、蚊神、アゲハ、ウィーブの四人の身体的特徴を言った。
「この四人を直ちに捕まえ住民の安全を守るのだ!!」
「「おう!!」」
この言葉を合図にイラーマリン騎士団員はすぐさま現場に向かった。
「ご、ごめんなはい」
路地裏では案の定ボコボコにされたMr.ガールボーイが倒れたタマルを背負いながら走っていた。
「何回謝ってんだよ。もういいからさっさと病院向かうぞ」
薄く息をしているセイレンを抱えてウィーブはMr.ガールボーイが逃げないように後ろからついて行った。
蚊神がバアルリン総合病院に着くと中は凄惨な有様だった。柱や壁は亀裂が入っていて患者は違う病院に搬送するために沢山の馬車が並んでいた。
「………一体なにが?」
いきなり乗り込んできた蚊神達に苛立ちながらも怖さで従っていた商人は蚊神達が降りるとすぐさま馬車を走らせた。
「とりあえず誰か一人捕まえてこいつの看病してもらうか」
「……そんな状況でもない気がするけど」
ゲーテは自分の発明品である腕が四つある浮遊型のロボットでヴェニスを運びながら言った。
「そうしないとこいつ死ぬぞ」
蚊神は顎でヴェニスを指しながら言った。
「そうだけどさ」
病院内は荒れ果てていた。
チラシやポスターなどはビリビリに破かれて壁の隙間から水が漏れていた。
蚊神は案内カウンターまで行きベルを鳴らした。
すると髪がボサボサの年配の看護師が出てきた。
「なんです!?」
「急病人なんだけど」
看護師はボサボサの髪を更に掻き回す。
「
「……また?」
看護師は近くにいた医療従事者に声をかけて素早い動作でヴェニスを担架に乗せると一階にある大部屋まで運んだ。
そこには二人の患者がいた。
全身包帯まみれのアゲハと左手をぐるぐる巻きにされている久蛾だった。
「アゲハ!久蛾さん!」
「おー空木。元気そうだな」
久蛾はギプスをはめた左手を少し上にあげながら返事をした。
「アゲハは大丈夫なんですか?」
「命に別状はないが結構やられたらしいぞ」
「……そうですか」
蚊神は眠っているアゲハを見ながら顔を歪める。
少し離れたベットでは看護師と医師がヴェニスの治療に当たっているゲーテはなぜか医師よりも豊富な知識で手助けをしていた。
「今のところ物事の全体像が見えてこないがとりあえずセイレンは無事だ。セイレンの……同僚?が助け出してくれた」
「それはよかったです」
蚊神は安堵と共に少しほんの少しだけ嫉妬に近い感情が出てきたことに驚いていた。
自分自身の力で助け出したかった。
その思いを捨てきれずにその助け出した同僚に対してほんの少しだけ羨ましさと嫉妬が芽生えていた。
その時だった。
慌ただしげな足音と医師の叫び声が聞こえる。
「何があった?」
蚊神は病室を出る。
そこにはMr.ガールボーイとウィーブが立っていた。
「………どうしてお前がここに?」
顔面がボコボコになったMr.ガールボーイはチラリとウィーブを見る。
ウィーブは背中に預けていたセイレンを看護師にそっと渡すと説明をし始めた。
「この変質者は今のところ仲間だ。それに今背負っていたのはセイレンで外には騎士団員がいる」
ウィーブはさも当然かのように事実だけをそのまま列挙する。
蚊神は額を抑える。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。一つずつ説明してくれ」
「そんな時間はない。俺達のやった事が騎士団にバレた。ここはじきに包囲され逃げ場がなくなる」
「じゃ、じゃあえーと一つだけ。セイレンは無事なのか?」
「……ああ」
そう言うとウィーブは久蛾達がいる病室に入って行った。
「あのーよ?俺はもうひひでふか?」
歯が抜けているのでMr.ガールボーイはヒューヒューと歯と歯の間から空気が出ていた。
「………あーそうだな」
蚊神は一度、病室の方を振り向くと眉間を掻いた。
「まあもういいか。もういいよ」
「そうでふか」
Mr.ガールボーイは病院の外に消えて行った。
「ここは包囲されている!!!」
病院の外から怒鳴り声が聞こえる。
「よくもバアルリンの町をめちゃくちゃにしてくれたな!!この凶悪犯罪者どもめ!!」
蚊神は壊れた階段を一段飛ばしで駆け上がり窓から少し顔を出した。
そこには300人以上の騎士団員が魔力銃や武器を持って並んでいた。
蚊神がのぞいていた窓に銃弾が放たれて窓ガラスが割れる。
「今、のぞいていた者!今すぐに出て来なさい!!」
蚊神は急いで一階に戻る。
「まずい事になったぞ」
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