60話 30万の攻防戦 (10)
タマルは必死に走っていた。
足が鬱血して歩けないセイレンを背中に背負いながら必死にただ必死に行くあてもなくただ走り回っていた。
「大丈夫だぞセイレン。もう大丈夫だからなもう安全だから」
セイレンの背中を掴む手がだんだん弱くなっている事をタマルは焦りながらも気にしないふりをしていた。
「……うんタマルさんここ…どこ?」
「ここは……」
そこでタマルは立ち止まる。
何してんだよ馬鹿なのか?俺は!!
まずは病院に行かなきゃダメだろ!
俺が助けなきゃ!セイレンを救うんだ!
「病院に向かってる。でも安心しろ。身体に異常とかはないんだ」
タマルはセイレンの紫に変色したまま直らない足を見ながら下唇を噛んだ。
行き交う運送馬車に手を挙げるが馬車は全く止まらない。
「クソックソッどうしてだよ。止まれよ!」
セイレンの背中を掴む力が無くなっていく。
「セイレン?セイレン!?」
「んー?なんです…か?」
眠ろうとするセイレンをタマルは必死に動かして起こす。
何故かセイレンが眠ったらダメな気がした。
眠ったらそのまま起きないんじゃないかって。
タマルは泣きそうになる自分を奮い立たせて走って病院まで向かう。
しかし運命は残酷で儚かった。
「あらあらあーーら?」
近道をしようと路地に入ると目の前に女性と男性の顔を二つ持つ異形な姿の人間がいた。
「な、なんですか?」
タマルは焦りながらも恐怖で立ち止まる。
「その子って?ベルルちゃんが言ってた誘拐した子よねー?何でこんな所にいるのかしーら?」
Ms.ガールボーイは魔力銃を振り回しながら尋ねる。
「いや何でって──あなたこそ何なんですか?」
「私はMs.ガールボーイよ。最近、嫌な事が続いててね?ストレス溜まってるのよねー」
タマルは嫌な考えが浮かびMs.ガールボーイから後ずさる。
「動くな!」
Ms.ガールボーイが魔力銃を向ける。
「だからーストレス発散ターーイム!」
「頼むからやめてくださいお願いします。彼女を助けさせてください」
「キャハハッ!それはムーーリ!無理無理無理ムーーリ」
タマルは目から涙が溢れる。
タマルは大きく頭を下げる。
「お、俺ならどうなってもいいから彼女を病院に連れてくまで待ってください。そしたら俺を」
Ms.ガールボーイは手を叩いて笑う。
「じゃあねーその子を置いて行きなさい。そしたら君は助けてア・ゲ・ル」
Ms.ガールボーイはタマルの話を全く聞いていなかった。
タマルは大きく息を吸いながら絶望する。
もう……どうしたらいいんだ。
どうしたらいいんだよ!!
何でこんな目にあうんだ彼女が何したって言うんだ!
「お願いします彼女だけはセイレンだけは許してやってください」
またタマルは頭を下げる。
「んーじゃああんたが殺しなさい?私が殺すよりもいいんじゃないかしら?どう?」
Ms.ガールボーイの言葉はもはや狂気にも近くタマルを混乱させた。
ダメだ。
何を言っても通じない。
交渉の余地なんてどこにも無い。
「タマルさんここどこ?なんか暗いよ?」
セイレンはもう目も開けられなかった。
「ああどうして。何でこんなことに」
「はーーい!タイムアップねー。まずその小娘を拷問して殺してからーあんたも殺す事に決定しましたーーー!!!!!」
俺は何をしてるんだ。
この薄く暗い路地裏で何をしてるんだ?
彼女が何故まだ病院にいないんだ?
俺が助けるんじゃないのか?
わかってる禁じられてるのは。
俺の
だから何だよ。
愛する人も救えないで俺の生きる意味は何だよ!?
初めて人を好きになって初めて対等に話をした気がしたんだ。
彼女は……セイレンは俺を見てないかもしれない。
今回だってカガミとか言う男を救おうとしてた。
だとしても俺を好きにならなくても彼女を救わない動機にはなり得ない!
愛する人を自分の命をかけて守らない動機にはなり得ないんだ!!!
「俺が救う」
「え?え?なーーに?」
タマルは放点をする。
「な、あんた
「そこをどけ!」
Ms.ガールボーイから笑みが消える。
「まずはあんたを殺してやるわよ!」
魔力銃が火を吹く。
弾丸がタマルの腹部に当たる。
それでもタマルは怯むことなく歩き続ける。
Ms.ガールボーイは何度も何度も弾丸を撃ち続ける。
太腿、胸、腕さまざまなところに当たり続けるがタマルは止まらない。
「そこをどけと言ってるんだ!!!」
「うるせええ!!!」
Ms.ガールボーイは魔力銃を連射する。
何発当たったかMs.ガールボーイすらも分からなくなった頃、タマルはあと一歩でMs.ガールボーイに近づくその一歩手前で倒れた。
身体からは血が流れ目は霞み見えなくなっていた。
「はぁはぁはぁ。やっと死んだかこのカスが!」
しかしタマルは身体を引きずりながら前に進み始める。
「う、嘘でしょ?あ、あんた不死身なの?」
「………助けるんだ。俺が助けるんだ」
小さく小さく誰にも聞こえないほどの小声で彼はそう繰り返していた。
「じゃあさーこの女の子が死んだら!不死身のあんたも死ぬかなーー!!??」
Ms.ガールボーイが引き金を引く瞬間どこからか飛んできた鋭い剣が彼女?の腕に突き刺さる。
「いっててええ!!!」
「俺は趣味じゃ無いんだ人助けとかさ」
タマルが入った路地裏から一人の剣士が歩いてきた。
その男は薄暗い路地でも一際暗くまるで影の騎士のようだった。
「俺を忘れたか?」
「あ,あんたは」
背中に剣を携えた赤毛の騎士ウィーブは不敵に笑った。
「さあ自己満足の時間だ」
運命は残酷で儚い。
しかし諦めない者に奇跡は舞い落ちる。
運命が変わる。
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