57話 30万の攻防戦 (7)


工場地帯跡地には沢山の廃墟とかした建物が遺体のように転がり腐り錆びていた。


その遺体の内部に準構成員アソシエイトが魔力銃を構えながら久蛾とタマルを狙っていた。


しかし構えた瞬間に準構成員アソシエイトのスコープが赤く染まる。

眼球にナイフが刺さり倒されていく。



最奥部の工場の跡地で鎮痛剤を口に含みながらベルルは頭を抑える。


まずいな痛みが激しくなってきやがった。


セイレンは気絶したまま倒れていた。


近くの廃墟から悲鳴や銃声音が聞こえそれが時間が経つにつれ大きくなっていった。


ベルルは額に少し汗を流しながら肩に羽織っていた毛皮製のコートを脱いだ。


腕を回しながらそれでもまだ暑さを感じてブランド物のスーツを脱ぎ投げ飛ばした。


シャツの袖をまくりベルルは階段を上がる足音を聞きながら覚悟を決めた。



久蛾がベルルがいる廃墟の二階に着くとそこには錆びたドラム缶と外れかけた鉄の棒や何に使うかわからない刃がついた機械が散乱していた。


その真ん中に頭に包帯を巻きワイシャツ姿のベルルが立っていた。


そしてその奥には足と手を縛られ鬱血している女性が横たわっている。


後から遅れてきたタマルに久蛾は後方に指を差しながら尋ねた。


「あの女がセイレンか?」


タマルは久蛾の問いかけには答えず真っ先にベルルがいる所まで走って行った。


「セイレンッ!!」


ベルルはニヤリと笑いタマルの顔を触ろうと右手を突き出す。


タマルはベルルの突き出した右手に気づかず触られそうになる。


「まずは一人目」


ベルルの右胸に鋭い痛みが発生する。

目を見開き右腕が震えて止まる。


「……ッ!?」


ベルルの右胸には一本のナイフが深く刺さっていた。


「うおおおっ!!」


タマルは走った勢いのままベルルにタックルを喰らわす。

胸のナイフが更に深く刺さり痛みと共にベルルは後ろに倒れ込む。


「タマル!お前はその女連れて逃げろ!こいつは俺が何とかする」


ベルルと一緒に倒れ込んだタマルは急いで起き上がりセイレンの所に向かった。


タマルはセイレンの手首と足首が紫色に変色しているのを知ると急いで縄をほどいた。

そのまま気絶しているセイレンを抱えるとタマルはまた走り出した。


「ありがとう」


久蛾の横を去る時にタマルが言った。


「ああ」


久蛾はそれだけ言うとタマルも少し頷いて跡地を後にする。


胸に刺さったナイフを抜きベルルが起き上がる。

血管は浮き出て顔は真っ赤だった。

白のシャツが血で真っ赤に染まっている。


「ふーっ!ふーっ!テメェがムシノスか?」


ベルルが力点を発生させながら尋ねる。


「……そうだ俺がムシノスローンの社長…久蛾災路だ」


「クガ……なぁお前、俺らに逆らってどうなるか分かってんだよな?」


久蛾は失笑する。


「そんなダセェ話する為にここに来たわけじゃねえ。この業界じゃあ下に見られた方が負けなのさ……お前らが俺らに楯突くならチンケなマフィア組織潰すぐらいわけねえよ」


久蛾はゆっくりと人差し指をベルルの前に出す。


「まずはテメェを見せしめにするか」


ベルルの堪忍袋の尾が破裂する。


「やってみろよ!」


ベルルは足に集点をするとすぐに久蛾のところまで突進のように走り出す。


ベルルが走り出す時に一瞬、久蛾が視線を外した瞬間に顔に衝撃が走る。


顔を手で抑えようとするとすぐに腹部に蹴りが入る。


「……な、なに…が?」


ナイフが刺された右胸に久蛾の拳が入る。

胸は更に血を流しベルルの視界は痛みでぼやけ始める。


ベルルは地面を思いっきり蹴って後ろに下がる。


ベルルは今度は血で汚れた手を振っている久蛾から目を離さなかった。


……ッ!!

痛みで身体が震えくる。とにかく頭の痛みがひどい。クガサイジの能力は瞬間移動……か?

目を離した瞬間に俺の元に移動して顔面パンチしやがった。


ベルルは深く深呼吸を繰り返しながら近づいてくる久蛾から離れる。


だがっ!今の格闘術を見る限り俺の方が優ってる。

さばいて反撃を喰らわせてやる!


ベルルは構える。


久蛾とベルルは向かい合う。

久蛾も力点を発生させる。


久蛾はすぐさまベルルの痛む右胸を潰しにかかる為、拳を突き出す。


しかしそれを分かっていたベルルがすぐに久蛾の左拳を触る。


すると久蛾の拳が三つに増える。

無意識に久蛾は増えた拳に目が向いた。


それを見逃さないベルルはさっきの仕返しとばかりに思いっきり久蛾の左頬を殴りつける。


久蛾は衝撃で吹き飛ばされる。


「"増幅する魔の手タッチ&リリース"」


増えた左拳が久蛾に向かって戻って行く。

起き上がった久蛾は増えた三つの拳が自分の拳に戻って行くのを見て急いで拳に集点をする。


戻った瞬間、久蛾の左手が吹き飛ぶ。

集点をしたおかげで指は吹き飛ばなかったが皮膚や爪は粉々に辺りに飛んだ。


「くっ!ガハッ!!」


思わず久蛾はしゃがみ込み左手を抑える。

ベルルは頭を抑えながら今度は逆に人差し指を久蛾に向ける。


「軽口を叩くだけの調子なった初心者ルーキーを俺は何度も地獄に落としてる。ムシノスローンだが何だが知らねえが所詮、仲良しこよしの悪者ごっこ見てて呆れるぜ」


久蛾は激しく痛む左手を抑えながら何も言えずにベルルを睨む。


そしてどうにか立ち上がるとベルルはまたニヤリと笑った。


「"打撃還元ダブルヒット"」


その瞬間、ベルルに殴られた左頬にまた衝撃と痛みが復活する。


またもや久蛾は吹き飛ばされてしまう。



「フッフッいきがった世間知らずを痛みつけるのは気持ちがいいな。頭の痛みも和らいできた」


ベルルが指の関節を鳴らす。


「次は両足だ。二度と歩けねえ身体にしてやるよ」



工場地帯跡地の決戦の勝利のゴングはもう鳴らされてしまうのか?





ベルルベット・ギルジーニ


拳士ファイター ☆4】 点能力ポインタースキル 増強型


能力名 "増幅する魔の手タッチ&リリース


手で触れるとあらゆる全てを増やす能力、増やせる個数は自身の体調や力点ポイントの量によって左右される。

また戻った時にコピー元に衝撃とダメージを与える事ができる。衝撃とダメージはコピーした量とコピー元との距離によって変わる。


打撃還元ダブルヒット"は殴った部分の衝撃とダメージをコピーしてもう一度、同じ所に再現する技。


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