55話 30万の攻防戦 (5)


バアルリン総合病院内部では二人の女性が戦いを繰り広げていた。


「ぎゃああ!!」「あの二人を誰か止めてくれ!」「ちょっと誰かー!」


看護師や医者、患者までも病院を逃げ出す。


「くらいなさいよ!!」


ブリアンが扇を振るととんでもない風が吹き荒れる。座席も書類も逃げ惑う人さえも吹き飛ばしていく。


アゲハは固定されてる席に掴んで身体をぴたりとつけた。


病院内はまるで廃墟のようにどこもかしこも荒れ果てていた。


「……あの厚化粧をどうやって八つ裂きにしようかな」


ブリアンは絶え間なく扇を振り回して風を発生させている。


「ずっとそうやって隠れてるだけですの?遠距離の攻撃がないあなたはワタクシに勝てるはずがありませんわ!」


「………そうだ」


アゲハは急いで出口に向かって走り出す。


「逃げるんですの!」


ブリアンは跳ぶとアゲハとは反対側に扇を振った。

すると突風がブリアンを押してアゲハの元まで一気に加速する。


アゲハは出口の付近である物を拾うと向かってくるブリアンに向けた。


「なっ!」


それは先ほど準構成員アソシエイトが持っていた杖の形をした魔力銃であった。


アゲハは向けた瞬間すぐ引き金を引いた。

ブリアンは扇を振ろうとしたが風のせいでうまく身体が動かせなかった。


弾はブリアンの右腕に直撃した。


「キャーーー!!!痛ったーーーーいいッ!!!」


血が滲む腕を手で押さえてブリアンは泣き出す。


「な、なんでこんな事するんですのよ!痛い痛い!もうやだー!!」


アゲハは大声をあげて泣いてるブリアンを見て拍子抜けしてしまった。


「……もういいや。じゃね」


アゲハは杖を手で回しながら出口に向かった。

その時だった。


身体は出口より右側に吹き飛ばされて二階に続く階段に背中から当たる。


「お馬鹿さん!お馬鹿さん!大馬鹿さ〜〜〜ん!」


ブリアンは左手に扇を持ち替えて何度も何度もアゲハに向けて扇を振った。


突風が発生してアゲハが階段に段差の部分に磔のようになっていた。


角が背中に食い込み痛みが増す。


「腕を撃たれたぐらいであんなになるわけないでしょ?本当におバカさん!!」


ブリアンは容赦なく風を生み出しアゲハを苦しめる。


アゲハの身体はギシギシと痛み突風のせいでどんどん身体が引きずられるように階段を上がっていった。


背中や太腿がすり切りで血が出る。

その血が風で舞い上がりアゲハの服を赤く染める。


「ねえ。あんたのお仲間もこうなの?軽率でアホで爪が甘くて人間のカーーース!!アハハッ!どうせねワタクシの仲間には勝てませんわ!全員惨めにあの世行きよ!!」


アゲハはなんと強風だけで階段を登らせれ登った後の壁に激突する。窓ガラスは割れる。


「カガミとかいう女にしがみついてまんまと21区に来ちゃうような間抜けはとっくのとうに死んでるんじゃないですの!?」



アゲハは自分に点能力ポインタースキルがないと思っていた。

力点ポイントも普通ぐらいで久蛾が自分をムシノスローンに誘ったのも自分の職業が言霊使いだからだと思っていた。


アゲハの怒りは二つあった。

一つは理性が保たれている怒り。

厄介なのは二つ目の理性が失う怒りだった。


理性が失った時のアゲハの怒りは凄まじくその怒りが収まるまでアゲハ自身もその間、何をしていたのか分からなくなっていた。


アゲハはそんな自分が嫌でそうなる前に怒りを発散する方法で理性を保っていた。


───しかし皮肉な事にその間、理性が失っている間だけアゲハは点能力ポインタースキルが使えるのだった。


アゲハは力点ポイントを発生させた。

その量は空気の流れが変わり歪み恐ろしいほど赤くなっていた。


ブリアンはその力点ポイントを恐れながらも直感で扇を止めはしなかった。

明らかに先程までとは違うと理解していたからだ。


アゲハはゆっくりと片足をあげるととんでもない速さで床を踏んだ。


その衝撃は床を伝って病院内を揺らした。

ブリアンは自分が立っている地面が揺れて扇を振るのをやめてしまった。


「………お前は言っちゃいけない事を言ったんだ」


髪も服も自分の血で真っ赤なアゲハがブリアンを指差した。


ブリアンは知らず知らずのうちに一歩後ろに下がった。


「………私の……仲間の…悪口を言うやつは、必ず殺すって決めてるんだ…」


その声は小さいながらも静寂の中ではよく聞こえて逃げ惑う人達も何故か足を止めてその声を聞いていた。


「……怒りが込み上げて胸がッ!!ムカムカするんだ!自分の悪口を言われるよりもムカッ……ムカするんだよ!」


アゲハの真っ赤な力点ポイントは溢れるように発生していて止まることはなかった。


ブリアンは扇を振り下ろそうとするがアゲハが今度は両足で地面を叩くとさらに病院は悲鳴をあげてブリアンはよろけて倒れ込む。


ブリアンは座り込みながら一歩、一歩と階段を下がる真っ赤な女性を畏怖の念を込めてただ見ていた。


病院は内部にヒビが入って文字通りボロボロになっていた。


「……そこを動くな」


「来ないで!!」


ブリアンは座ったまま扇を振り回す。

四方八方に風が発生する。


しかし突然、風が発生しなくなった。

ブリアンは慌てて左手を見ると左手は完全に折れていた。


「……ッ!?な、なぜ?」


そして腹部にとてつもない衝撃。

ブリアンは吹き飛ばされる。

痛みでブリアンの口から血が出る。


ブリアンは案内カウンターまで飛ばされて腹部を触る。そこで異変に気づく。


外部には何の傷もなかったのだ。

しかし腹の内部にとんでもないダメージが。


ブリアンは悩み悔やんだ。

大きく息を吸うが肺に空気が入らない。


アゲハは扇を手で握りつぶしてまたゆっくりブリアンの所まで向かって行った。


「も、もうやめて……ぐぼっ」


ブリアンの口から血が噴き出る。

しかしアゲハも限界に近かった。


力点ポイントもどんどん少なくなっていった。

少なくなるにつれて歩みも遅くなる。


そしてついに腹を押さえ口から血を吐く倒れ込むブリアンを見下ろせる位置までアゲハは近寄っていた。


ブリアンは自分の死を覚悟した。

走馬灯が流れ無闇にアゲハという女性を舐めていた自分を罰した。


ブリアンはゆっくりと目を閉じた。

しかしそれと同時にアゲハも後ろ向きに倒れ込んだ。


力点ポイントが切れてしまったのだ。


ブリアンは倒れたアゲハを見て失笑した後に目を閉じて気を失った。



アゲハとブリアンの戦いは嵐のように始まりそして静かに終わりを告げた。

戦闘時間は5分にも満たなかったが病院内の被害は絶大だった。


アゲハ VS ブリアン


勝者……なし!



アゲハ


【言霊使い ☆3】 点能力ポインタースキル 増強型


能力名 "鉄の処女アングリーデイズ


アゲハが理性を失うほどの憤怒の状態の時のみ発動可能。力点ポイントが赤くなり無くなるまで発生し続ける。


その赤くなった力点ポイントに触れた全てのものは内部崩壊していく。

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