52話 30万の攻防戦 (2)


アゲハはヴェニスの能力によってとんでもない速さで飛ばされていた。


「うわぁーーー!やばいやばい死ぬってこれ!」


バアルリン総合病院がどんどん大きくなって辺りも謎の飛んでる女性も指差しながら歓声を上げている。


「……あーもう最悪なんだけど、」


アゲハは顔がどんどん真っ赤になって慌てて顔を隠した。

笑い声と歓声が大きくなっていた頃突然、スピードが落ちていった。


ふわりと花が舞い散るようにアゲハは地面に着地した。


周りは指を差しながらクスクスと笑っている。

アゲハの怒りゲージはどんどん上がっていくが大きく深呼吸をしてバアルリン総合病院に向かった。


「ふぅーふぅー」


バアルリン総合病院は目と鼻の先だった。


とりあえず私が最初に入って蚊神さんとヴェニスって言う蚊神さんの友達を待とうかな。


バアルリン総合病院の中は行き交う看護師と患者でごった返していた。


子供も来ていて走り回ったり泣いていたりととにかくうるさかった。


アゲハは手持ち無沙汰になってとりあえず空いている席に座った。


……そう言えば私、来たのはいいけど誰と戦えばいいんだろ?なんかセイレン?とか言う人を助けるんだよね?


そんな事を考えていると隣の席に座っていた老爺の患者が話しかけてきた。


「あんたは今日、何しに来たんだい?」


患者は私服で杖を持っていた。


「えーーと人を探しに」


「それなら案内カウンターに行って病室番号を聞けばいいじゃないか?」


患者は眉をひそめてアゲハを怪しがった。

杖をアゲハと自分の間に置き換える。


「あーそうですよね」


アゲハが立ちあがろうとすると患者が押しとどめる。


「あんた誰を探してるんだい?わしが代わりにに言ってきてもいいぞ?」


慌ただしく動いていた看護師の一人がアゲハの後ろで立ち止まった。


アゲハは座りながらすでにマフィアの連中に自分が怪しまれてる事を知った。


「えーーとですね」


アゲハは必死に違う名前を言おうとしたが咄嗟のことで頭が回らない。


「お嬢さん。セイレンって人探してんじゃない?」


老爺の患者は杖に見立てた銃をアゲハの額に突きつける。


ぴくりとアゲハの身体が動いて固まる。


「当たりだね?」


「私を……私を…」


アゲハは力点ポイントを発生させて患者の胸ぐらを掴んだ。


「え?」


「お嬢さんって呼ぶんじゃねええ!!」


アゲハはそのまま老爺の患者を地面に投げて叩きつける。


「ぐはっ!な、なんじゃ!?」


「私がそんなに子供に見えるか?貴族に見えるのか?」


アゲハは老爺の患者の腹に蹴りを入れる。

その時、アゲハの身体はまた浮かび上がった。

それはヴェニスの時とは違い突風によるものだった。


とんでもない豪風が吹き荒れアゲハは吹き飛ばされる。


案内カウンターに頭をぶつけてアゲハは後頭部を押さえながら座り込む。


アゲハの後ろにいた看護師が綺麗な扇を持って口を隠していた。


「あ、あなたちょっと変ですわね?」


アゲハは頭をさすりながら立ち上がる。


「あんたが私を吹き飛ばしたのか?」


アゲハの血管は浮き出て目はその看護師を睨んでいた。


「お初にお目にかかります。ワタクシの名前はブリリアント。ブリアンまたは貴婦人とお呼びください」


ブリアンは看護師の服装のままお辞儀をした。


「貴婦人?全く見えないね」


「私、変装が得意ですから」


ブリアンは口元だけ笑みを浮かべた。


「貴婦人さんがマフィアなら私はあんたからセイレンとかいう人の居場所を聞かなきゃならない」


「ええ。ワタクシはマフィアのベルルベットの下で働いていますわよ──セイレンさんは残念ながらもうこの世には……」


アゲハは下を向いて蚊神の事を考える。


これ蚊神さんが知ったらやばいことになりそう。

とりあえず私はこの看護師を半殺しにして早くウィーブと久蛾さんの所に行かないといけない……よね?


……いや待てよ。セイレンって人がもうすでに亡くなってるなら私達って何のために戦ってるんだっけ?


「貴婦人さん。セイレンって人が死んでること私に言ったら私、あなたと戦う理由ないんですけど」


ブリアンは目を大きくして黙り込む。


「あ、そっか──いやでも嘘ですわよ?もちろんね。そう言った方があなたが怒るんじゃないかと思いましたのよ?」


「………私、帰ります」


アゲハは怒りが収まって少し呆れながらバアルリン総合病院を後にしようとする。


「あ、え?ちょっと!本当にセイレンさんは生きてますわよ!本当の本当に嘘ついただけですわ!」


アゲハは聞き流して歩みを止めない。


ブリアンは必死に考えて妙案が浮かび上がった。


「あなたみたいな貴族育ちのお嬢様は世の中のことが分からないから理解できないのかしらね?」


アゲハが立ち止まる。

ブリアンはうまくいったと笑みを浮かべて悪口を考える。


「それにそれにアホそうですしね。ま、マフィアの言うこと鵜呑みにするなんてやっぱ貴族のお嬢様ですわね!さあ出口はあちらよ!お嬢さん!!」


アゲハが発生している力点ポイントの量が上がる。


アゲハは振り向きながら人差し指をブリアンに向ける。


「うるせえぞ!!この厚化粧ババア!!似合ってねえんだよ!」


ブリアンの顔が真っ赤になって髪が逆立つ。


「なんですって!私はまだ20代ですから!まだ若いですから!このクソバカ無知なお嬢様が!!」


「なんだとあんたが貴婦人なわけないね!ただの薄汚い一般人だよ!」


「はあ?ワタクシは貴婦人ですわよ!お嬢様!」


「黙れ一般人!」「あなたこそ黙りなさいよお嬢様!」


「一般人!」「お嬢様!!」「一般人!!!」「お嬢様!!!!」


二人の言い合いを聞いていた他の看護師と患者は悪口に全く共感できずに目を合わせあった。


看護師は通常業務を再開して患者は面白がってブリアンとアゲハの言い合いを聞いていた。


「よーーしわかった!!この一般人!私が直々に半殺しの刑にしてやる!!」


アゲハは待合室の椅子に飛び乗ってまた指を差した。


「刑ですって貴族の時の癖が残ってるんじゃないかしら!ワタクシだってあんたをフルボッコにしてやるわよ!!」


ブリアンは扇を閉じてアゲハに向ける。

近くにいた患者はどこかに立ち去った。


アゲハを撃とうした準構成員アソシエイトの老爺は杖を間違えて握り誤って銃を発砲してしまった。


その音が合図になった。


アゲハ VS ブリアン・オックスベール


両者の戦いが始まった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る