51話 30万の攻防戦 (1)


31日 21区バアルリンにムシノスローンのメンバーが集合した。


「よし俺は工場の跡地に行く」


久蛾は拳を鳴らしながら言った。


「……俺はマンション」


ウィーブは腰に二本、そして背中に一本、剣を携えながら言った。


「俺はアゲハと病院に行く」


蚊神はアゲハをチラリと見ながら言った。


「セイレンを救い出してベルルベットと他の仲間も殺す。それが今回の目的だ」


久蛾が改めてみんなに言った。


「了解」「おっけーです」


ウィーブとアゲハが順に同意する。

蚊神はゆっくり頷いた。


「よしじゃあ健闘を祈る──行くぞ!」


四人は一斉に走り出した。



蚊神とアゲハは走りながらバアルリン総合病院に向かう。距離にしてはそこまでなく一番遠いのが工場地帯跡地だった。


「でも病院で何するんですかね?殺し合い?」


アゲハは走りながら隣で並走する蚊神に向かって疑問を投げかけた。


「……どうだろうな。やり合うのか?あんなに患者いるのに?──わからん」


蚊神も今回の場所の指定には疑問であった。

工場地帯跡地は戦う場としては最適かもしれないが他の病院はバアルリンで一番大きく患者数も多い。


マンションも戦うにしては不都合でしかもイラーマリン騎士団の本部からそこまで離れていない。



ウィーブは昨日の放点によって力点ポイントを多量に消費したので今回の戦いではなるべく力点ポイントを使わずにいこうと決めていた。


建物の窓から殺気を感じてウィーブは止まり見つめる。


見つめた瞬間にその窓から一発、弾が飛んできた。

それを少し力点ポイントを発生させて避ける。


ウィーブは避けた弾を見る。


「……64か。遅いな」


ウィーブは撃ってきた敵に構わずにマンションを探す。


……あれだな。目的地に到着するまでに力点ポイントを消費させる作戦か──今の俺には厄介だな。



「あークソッ。当たんねえか」


窓から一発、弾を撃ち込んだガールボーイは脇腹を抑えながら座り込む。



工場地帯跡地に向かう久蛾災路は全く目的地についていなかった。


「かかってこい!」


「早く撃て!」


準構成員アソシエイトが銃やナイフを持ちながら久蛾に向かってくるからだ。


「お、俺は後ろの方がいい!銃持ってるから」


銃を持っていた準構成員アソシエイトが久蛾から目を逸らして隣の奴に怒鳴った。


「……いや関係ないから」


「は?」


銃を持っていた準構成員アソシエイトの首が吹き飛ぶ。


「え?」「は?」「瞬間移動するぞ!」


他の準構成員アソシエイトはいきなりのことにパニックになる。


久蛾はナイフを投げようと構える。

しかし構えた瞬間に手の中からナイフが消える。


消えたと同時に一人の準構成員アソシエイトが額から血を流して倒れる。


「な、ナイフが……え?消えて移動した?」


「お前らみたいなモブが俺に擦り傷さえ与えられねえよ」



アゲハと蚊神が向かうバアルリン総合病院が遠くにうっすらと見えてきた。


「もう着くね!」


「このまま急ごう!」


その時、目の前に猛スピードで走る馬車が止まった。


アゲハと蚊神は驚いて立ち止まる。


「……ベルルベットの仲間かな?」


アゲハは力点ポイントを発生させる。


「おそらくな」


馬車の扉がゆっくり開く。

そこから出てきたのはスーツ姿でシルクハットを被った青年だった。髪は灰色で目はオレンジ色だった。


「お、お前は、ヴェニス!」


「やあ久しぶり。助けに来たよ蚊神」


ヴェニスはゆっくりと馬車を降りると歩いて蚊神のところまで近づいてきた。


「蚊神さんこの人は?」


「こいつはヴェニス・アントーニオ。俺の友達だよ。この国いたのかよ」


「そうそう。一度、君に会いたくてね──それより今、ピンチなんだろ?セイレンって人が誘拐されてるらしいじゃないか?」


ヴェニスは心配そうに蚊神の肩を叩く。

アゲハは力点ポイントをといた。


「そうなんだ!今、俺らはバアルリン総合病院に向かってるんだが一緒に来てくれるか?」


「もちろんだ!僕の馬車を使ってくれ!」


「ありがとう。ヴェニス」


ヴェニスと蚊神が走り出そうとした時にアゲハが頭に思った疑問を口にした。


「あれ?どうしてヴェニスさんはセイレンって人が攫われてる事、知ってるんですか?」


ヴェニスは立ち止まる。

ヴェニスの後ろにいた蚊神も止まった。

言われてみればそうだからだ。


「確かに。そうだな21区だと有名なのか?」


ヴェニスは軽く笑い始める。


「いいや。知られてないよ?」


アゲハが眉をひそめて蚊神の後ろ姿を見る。


「……じゃあなんで知ってるんだ?」


蚊神もヴェニスにつられて少し笑いながら聞いた。


ヴェニスは後ろを向きながらチラリとアゲハを見て手を上げる。

するとアゲハがいきなり浮かび上がる。


「え、ちょ…なに?」


「君は先に病院に行ってて。後で僕と蚊神も行くからさ」


アゲハはとてつもないスピードで空を飛んでどこかに消えていった。


「お、おいヴェニスどう言うことだ?」


「なんで僕がセイレンが誘拐されてる事を知ってるんだと聞いたね?」


ヴェニスは今度は肩を揺らしながら笑い始める。


蚊神は今まで自分が知らないヴェニスの一面を見ているみたいで少し恐怖を感じた。


「……そうだ。なんでお前が知ってるんだ?」


「くっくっく。それはね?」


ヴェニスが振り返る。


「僕が提案したからさ!──僕はベルルベットの仲間だからね!」


蚊神の顔が期待から絶望に変わる。


「な、なにを……?言ってる?」


「そう!その顔!あーーやっと見れた!すごい!最高だよ!!」


ヴェニスの顔は赤くなっていた。

高笑いを続けている。


「どうせもうセイレンは死んでるよ!一日経ってるんだよ!ねえ?ベルルベットはこう言ってた連絡鳥が着いてから一時間経つごとに足や腕を切るって──ねえ?ねえ?今、何時間経った?」


ヴェニスはジャンプしながら大声で蚊神に向かって言った。


「な、何言ってんだよ。ヴェニス……お前、意味わかんねえぞ──お前の冗談に付き合ってる暇はねえんだ。どけ!」


蚊神は走り始める。


ヴェニスの乗っていた馬車がいきなり浮かび始める。


蚊神は振り返る。


「なんのつもりだ!何をするつもりだ!」


馬車がとんでもない速さで蚊神に向かって飛んでくる。


蚊神は力点ポイントを発生させて後ろに飛んで避ける。


「テメェ……もう冗談じゃすまないぞ」


「ベルルベットから言われてるんだ。君を目的地に行かせるなって」


蚊神は額に血管を浮かばせてヴェニスを睨む。

ヴェニスは満面の笑顔で腕を広げる。


「くっくっあはっ!あはは!君のその顔が見たかったんだよ!蚊神!さあやろうか!君の好きな殺し合いだ!」


「………そんな奴だとは思わなかったぜヴェニス。分かった望み通りテメェを殺してやるよ」



戸惑いと猜疑がまだ頭にあったがそれでも蚊神は怒りに狂っていた。


自分のせいでセイレンが拷問を受けて死んでいるという話が本当ならここにいる男を殺さないといけないから。

確実に息の根を止めようと蚊神は力点ポイントを発生させた。



ヴェニスは高揚感と足がガクガクと震えるような快楽が身体を駆け巡っているのが分かった。


蚊神の目が大きくなり顔が上気して殺気を出しているのを見て少し恐怖を感じたがそれもスパイスとなってヴェニスを喜ばせた。


そして蚊神との戦いを楽しむ為にヴェニスは力点ポイントを発生させた。



蚊神空木 VS ヴェニス・アントーニオ


死闘のゴングが今、鳴り響いた!!


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