41話 恋心の相棒 (2)
蚊神とセイレンは歩きながら服屋に向かった。
服屋までの道のりは長くその間、会話が終わる事はなかった。
蚊神はスシカが持っていた30万は元々自分が持っていた物でこのマフィアの件とは関係ないはずだ。
確かに区間検問の時に鞄の中から3束の札束は見えた。でも俺の目の錯覚の可能性だってある……はず
セイレンと蚊神は服屋の向かい側にあるレンガ造りのマンションの一階から順に目撃者がいないか探した。
105号室の扉をノックする。105号室の窓は服屋が見えるので望みがあった。
「は〜いよ」
お腹は出ていたが腕の筋肉が浮き出ている中年の男性が出てきた。
「申し訳ありません。先日あそこの服屋が強盗に襲われる事件がありまして何か知ってる事はありませんか?」
セイレンが尋ねた。
すると男性はため息を吐いた。
「
セイレンと蚊神は顔を合わせる。
「………そう…ですね。もう一度、お話聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
蚊神が動揺を誤魔化しながらもう一度、尋ねる。
「はあ。まあ俺もそんな見てないけどよ俺が紅茶飲んでたら向かいの服屋からバンッ!って音がしてな?慌てて見に行ったらスキンヘッドの男が走り去っていったんだよ」
「その時に誰か女性がいませんでしたか?白髪が目立つ30代後半ぐらいの」
「いやーー覚えてねえな。あれだ二階の203号室の奥さんが一部始終見てたらしいよ?そっち行ったら?」
「……203号室。わかりました。お休みのところ申し訳ありませんでした」
男は扉を閉めた。
203号室に向かう為の階段を上がりながら蚊神が思っている事を口にした。
「強盗の件は騎士団はすでに関与してないんだよな?101〜105号室、全員に誰かが聞き込みに来てる。しかもここ最近だ」
「うん。多分だけど……マフィアの人達だと思う」
「目的は消えた30万の行方か」
203号室の前に着くと蚊神は扉をノックした。
中で息を飲む声が聞こえる。
「だ、誰なの?」
何かに怯えてる声だった。
セイレンと蚊神は目を合わせる。
「騎士団の者です。先日起きた向かいの服屋の強盗事件でお話を聞きたいんですけど」
蚊神が言った。
セイレンは表札を見た。
「エッグラン?」
セイレンはどこかで見覚えがある名前だと考え始めたがすぐに扉が開いたので中断した。
扉を薄く開けてその女性は蚊神の事を見た。
「ほ、本当に騎士団の方?」
セイレンはその女性にも見覚えがあったのだ。
「モンドール・エッグラン」
ぼそっと言ったセイレンの言葉にその女性は反応する。
「あ、どうして主人のことを?」
「それは彼女がイラーマリン騎士団で検視官をやっているからです」
女性は扉を開けた。
「それでお話とは?」
モンドールの妻は髪はボサボサで疲れ果てていた。
「先日起きた強盗事件で白髪が目立つ30代後半の女性を見ませんでしたか?」
「はい。見ました」
すぐに妻は頷く。
「その女性は何をしていましたか?」
モンドールの妻はキョロキョロと辺りを見回すと話し始めた。
「スキンヘッドの強盗が急いで逃げると札束を落としたんです。それをその女性は拾って同じように逃げて行きました」
蚊神は大きく息を吸った。
そしてゆっくりと鼻から出した。
「わかりました。ご協力に感謝します」
蚊神が扉を閉めようとすると妻が抑える。
「あ、あのモンドールは…主人は元気ですか?」
蚊神はセイレンの方を向く。
「明らかに疲れていて精神的にもきているように感じます。何かあったんですか?」
「い、いえ何も」
妻は下を向く。
「ここにこの件で人が来たことはありましたか?」
妻は下を向いたまま首を横に振った。
蚊神が部屋の中を見るとソファに誰かが寝ているのがわかった毛布から見えてるのはツインテールの髪だった。
「……わかりました。ありがとうございます」
蚊神は扉を閉める。
閉めた後、扉のすぐ近くですすり泣く声が聞こえる。
蚊神とセイレンは試しに201号室から202号室を尋ねると自分たち以外に誰かが強盗の件で話を聞きに来ていることがわかった。
「わかった事は今回で2つあるな」
マンションを後にした蚊神はセイレンに向かって言った。
「1つは俺が持ってる30万はマフィアの金って事。2つ目はあの夫婦は確実にマフィアと関係がある」
「そうだね。モンドールさんは事件があった日に検問官をしていてダールさんのお金を賄賂として貰ってたからそれでだと思う」
「そういうことか」
セイレンはその30万を盗んだ女性と蚊神との関係を知りたかったが蚊神の思い詰めた表情を見ると無闇に聞けなくなってしまう。
もう、もう。なんでよ聞けばいいのに。
その女性と蚊神くんが付き合ってたりしたら私、遊ばれてるって事だよ?……いや別に遊ばれるって所まで仲良くないけどさ
セイレンと蚊神の後ろに一人の男が隠れて見ていた。その男はファッションで髭を生やしていたが今は本当の無精髭となっていた。
目は赤く目の周りは黒かった。
その男、モンドールはベルルベットの命令でセイレンを監視し尾行していた。
仮にセイレンにバレたり誰かに見つかったらその場で死ねるように毒薬のカプセルを持たされていた。
「違う俺は悪くない、みんなそうだろ?みんな命がかかってたらこうするさ。俺は悪くない」
モンドールは自分の家が近くだと気づいて家にある連絡鳥からベルルベットにセイレンと隣にいる謎の男性のことを知らせようと思い立った。
モンドールが203号室の扉を開くそこには妻がいた。妻は扉に寄りかかって泣いていた所いきなり扉が開いたのでびっくりして立ち上がったのだ。
「……パパ」
妻はモンドールに抱きついた。
「今さっき騎士団の人が来たの。私たちもう終わりよ!!」
モンドールは慌てて扉を閉めた。
「大丈夫だよ。俺は悪くないから従ってればいつか終わるさ。ちゃんと従順にしていれさえすればだって俺は悪くないから」
そう言うとモンドールは妻を押して急いで自室に向かった。
自室の鳥籠で鳴いている連絡鳥の頭を触る。
「あ、僕ですモンドールです。セイレンが怪しい男といました。それで…おい!!」
モンドールが大声を出して妻を呼ぶ。
「な、なによ?なんでそんな大きな声出すの?」
「今日来たのってセイレンだったか?」
「わからないわ。名前なんて」
「女と背の高い男か!?」
「そ、そうよ」
妻の目にまた涙が溜まる。
「ピー!ピー!」
連絡鳥が翼を広げて暴れる。
「あーそうか。もう一度やらなきゃ」
モンドールは一度、手を離してまた連絡鳥を触る。
「モンドールです。セイレンと怪しい男が強盗の事を調べています。気をつけてください」
そう言って連絡鳥を離すと窓の近くでまたピーピー鳴いた。
「あークソだ!」
モンドールは窓を思いっきり開ける。
連絡鳥は羽ばたいて行った。
モンドールはリビングに戻った。
妻は膝をついて泣いていて娘は毛布にくるまりながら震えていた。
モンドールは天井を見た。
「平気だ。俺は平気だ。俺は悪くないからちゃんと言う通りにしておけば俺は大丈夫だ。俺は……」
モンドールの精神は限界を迎えつつあった。
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