40話 恋心の相棒 (1)
11月27日の昼頃、イラーマリン騎士団の本部前にセイレンはマフラーで口を隠しながら待っていた。
コーヒーを二つ買ったが一つはすでに冷たくなっていた。
……やっぱダメかー。ただの医務室で治療しただけの人だもんね。
すると遠くから薄いパーマの髪とトレンチコートを着ている背が少し高い男が本部に歩いて行く。
「……あ」
セイレンは蚊神を見つけると小さく手を上げた。
胸がトントンと音がして、手汗が出てくる。
蚊神もセイレンに気づく。
少しだけ早歩きでセイレンの元に向かった。
「ごめん。遅れて」
「ううん。私も今来た所だよ」
セイレンはもう一つの冷えたコーヒーを蚊神にあげようとして思い直して隠す。
「コーヒー買ってきてくれたの?」
「あ、えーとでもホットじゃないよ?」
「全然、平気。ありがと」
蚊神はコーヒーを受け取って一口飲んだ。
コーヒーの味はアイスコーヒーの味ではなくホットが冷えてねちこいような味になっていた。
蚊神はその味を舌で味わいながら自分が長い時間、待たせた事を知った。
それと彼女が帰らず待っていた事も。
「手紙読んだよ。心配してくれてありがとう」
「ううん。いらない気遣いだったよね?──でも心配で」
蚊神は少しだけ下を向いた。
「どこかに入ろうか──聞いてほしいことがある」
セイレンはその聞いてほしいことという言葉で少しときめいて緊張する。
絶対にありえないのにまさか好きだなんて言われるんじゃないかと頭の片隅で少しだけよぎる。
レストラン・ノクターンの個室部屋でセイレンと蚊神は向かい合って座った。
蚊神とセイレンは座ると店員に紅茶だけ注文すると少しの間、気まずい雰囲気が流れる。
「……実は俺もしかしたらそのマフィアのお金持ってるかも知れないんだ」
紅茶が運ばれると同時に蚊神は切り出した。
「え!?どうして?どこで?」
「……それが分からないんだ。ダールは今どこにいる?あいつから聞きたいことがあるんだ」
セイレンはゆっくり紅茶を飲むとどうやってダールの死を伝えようか考え始めた。
その目の動きと何度も飲む紅茶で蚊神はダールがすでに自分とは話せない状況にいる事を悟った。
昨日もらった手紙から殺された奴もいるというのを思い出してダールがこの世にいない事を想定する。
「……セイレンまさかもうダールは」
セイレンは口を結んで頷く。
「クソッまたか」
「また?」
「ああいや何でもない」
蚊神は手を振って誤魔化す。
「なあセイレン、ダールが自白した時の調書は見たか?」
「うん読んだよ」
「ダールがどこでマフィアの金を手に入れたか分かる?」
セイレンは上を向いて考え始める。
「えーと確か21区のはずれにある服屋だったと思う」
「そこの目撃情報で白髪が目立つ30代後半ぐらい女性の話はなかったか?」
セイレンは蚊神が自分に何かを隠している事は分かったがまだ直接、聞けるほど仲が良くないので蚊神の質問に何も考えずに答えることにした。
「……実はマフィアのベルルベットっていう人が本部に来てダールの事件を強制的に終わらせちゃったの」
「……そいつがダールを殺して事件を
蚊神はベルルベットという男が口封じの為に簡単に人を殺す奴だという事を記憶する。
「そうなの。だから蚊神さんの事が心配で」
「蚊神でいいよ。それにこの事件に君も関与すると危ないんじゃないのか?」
「蚊神さ…か、蚊神……くんにしようかな。えへへ──あ、えーとそれであのでも蚊神くんのこと助けたかったから」
セイレンは顔を赤くする。
な、なんで私こんなに緊張してるんだろ。
変だなーもう。私じゃないみたい。
「本当にありがとうセイレン。君のおかげで助かったよ」
蚊神は頭を下げる。
「いいよ。そんな当然のことしただけだから」
セイレンは蚊神の頭を急いで上げさせる。
当然のことをしただけってちょっとかっこよすぎ?
「それでダールが強盗した近くに住んでる人に話を聞きたいんだけど、場所どこか分かる?」
蚊神はコートの内ポケットから21区の地図を取り出した。
セイレンは服屋の場所をペンで印をつける。
「ありがとうセイレン──ここは俺が払うよ」
セイレンはもう終わりそうな予感がして慌てる。
え、え!?もう終わり?そんなまだ何もしてないじゃない!
「ちょ!ちょっと待って」
すでに個室の扉の前にいた蚊神を呼び止める。
「ん?」
「多分、一般人が話聞きたいって言っても教えてくれないよ?私一応、騎士団員だから私がいればスムーズだよ?」
「いやこれ以上セイレンに迷惑はかけられない。もうこの件から手を引いた方がいい。君にもそのベルルベットが近づいて来るかもしれない」
蚊神はドアノブを触る。
「待ってよ!」
「……?」
蚊神は振り向いてセイレンを見る。
セイレンは席を立って蚊神の前にいた。
「まだ蚊神くんと一緒にいたいの。私も協力させてよ」
蚊神の心臓が早くなる。
一緒に来てほしい気持ちと危ない目に遭わせたくない気持ちが交差する。
「……いやダメだよ。やっぱり」
セイレンは蚊神の手を握る。
「大丈夫!危なくなったら今度は蚊神くんが助けて?」
蚊神は握られた手に少し汗が出る。
な、どうしたんだ俺は。
こんなの初めてだ。分からないこれは?
一体なにが俺をこういう気持ちにさせるんだ?
でも今は彼女と一緒にいたい。あと少しだけだ。
そしたらきっぱりこの件からセイレンを離れさせる。
あと少しだけだ。
「わかった。一緒に行こう」
「やった!じゃあ行こう相棒!」
セイレンは結局、自分の分の紅茶代を払った。
レストランを出ると冬の寒さが身体を芯から凍らせようとする。
「別に俺が奢るのに」
「いやよ私は対等でいたいの。そんな気を使わないで?」
蚊神の気持ちはゆっくりとセイレンに動いていく。
スシカの件から本題から少しずつ変わっていった。
スシカの30万は蚊神にとってサブになり今のメインはセイレンといる事に変わりつつあった。
「じゃあ行こうか。相棒」
蚊神がそう言うとセイレンはにっこり笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます