39話 "薬と屍" 〜泥沼の底〜
ムシノスローンの事務所のソファに蚊神は座っていた。
「はい。この借用書に
「は、はい!ありがとうございます!」
薄くなった頭皮を帽子で隠している若い青年は手を震わせながら名前を書こうとする。
「あ、あ、あ、す、す、すいません!すいません!手が震えちゃって」
その青年はアルコールの飲み過ぎて手が常に震えていた。
カガミはニッコリと笑うと新しい借用書を取り出した。
「大丈夫ですよ。よければ僕が書きましょうか?」
「はい!ありがとうございます!」
借用書を蚊神が書いてそのアルコール依存症の青年に
「では、これ」
クガが10万Gをその青年に渡した。
「7日後に7万5000Gの利息の返済をしてください。遅れると遅延金が発生するので注意してくださいね」
カガミはそう言って青年を扉まで送った。
「いやーいい商売ですよね」
受付をしていたアゲハが蚊神に言った。
「……こういうのは調整が大事だからな。この調整を誤るとやべえことになる。それにやばい客は何を考えてるかわからねえ」
「そうですか?ここに来る人なんていつもビクビクしてるじゃないですか」
蚊神はアゲハの方を向く。
「威勢がいい奴なら脅したりすかしたりすればいい。怖いのはああいう表向きはこっちに従順の奴なんだよ。俺達が気づかないところで何してるか分かんないからな」
「……だから監視してるんですね」
「まあな」
蚊神は通路を通る。
するとそこにはいつも二階にいるフルミが降りてきていた。
「蚊神くん。あなた宛に手紙が」
「手紙ー?」
久蛾がその手紙をフルミから取る。
「セイレンさんって人──知ってるの?」
「あーあれですよ久蛾さん。21区の俺の怪我を治療してくれた人ですよ」
「やっぱりお前はモテるからな。ほら」
久蛾は中身を見ないで蚊神に手紙を渡した。
フルミはすぐに二階に戻る。
蚊神はソファに座って手紙を見る。
蚊神さん!
大変です。ダールさんに関係した全ての人達がマフィアのベルルベット・ギルジーニという人物に殺されたり脅されたりしています。
おそらくお金が関係してると思います。
蚊神さんにはお金の件は関係ないと思いますが気をつけてください。
それと一応ですけど無事を確認したいので11月27日に本部の前で待ち合わせしませんか?
私はずっと待ってます!
セイレンより
「……」
ニヤニヤしていた久蛾が蚊神の深刻な表情を見て笑みを引っ込める。
ウィーブも仕事机からチラリと蚊神の表情をうかがった。
「………おい空木。どうした?なんて書いてあるんだ」
「……いやデートに誘われました。明日、休んでいいですか?」
蚊神は久蛾の顔を見ずに手紙を見ながら言った。
「……秘密のデート終わったらちゃんと聞かせろよ」
久蛾はそう言って椅子に座る。
「すいません」
蚊神はそう言ってソファから立って事務所を後にする。
ウィーブはどういう事か分からず頭に?を浮かばせたがどうでもいいと思って仕事を再開した。
蚊神は領主の館に向かった。
腕はイル婆の薬とダニダの治療で良くなっていた。
スシカの旦那はまだ治療中だがすぐに良くなるとダニダは言っていた。
イルイルイ堂はまだ大工が三軒を一つの薬屋にする為に働いていた。
クギを叩く音が響いていた。
領主の館に着くとノックもせずに玄関の扉を開ける。
「なんです?」
ロモースが目を丸くする。
近くにいた守衛が蚊神の腕を掴む。
「ッ!腕は今、怪我してるんだ。触らないでほしい。ロモースさん突然の来館と無礼は謝りますがビックスさんに会いたいんだ。いや正確に言えばスシカに」
ロモースはこけた頬を上げながら口角を上げる。
「今になってあの女性が欲しくなったんですか?」
笑った口を手で隠す。
「ビックス様と一夜を共にしたんですよ?──もう死んでますよ」
「は?何言ってんだ。だから!腕に触んなよ!」
蚊神は守衛から腕を振って無理矢理、守衛の手を離させるとロモースの所まで歩いて行く。
「あんたが俺らをうとましく思ってるのは知ってる。だがそんなはずねえだろ?」
「ふふっふふふふ。あの人の体重が全部乗っかるんですよ?女性は全員、息ができなくて死んでしまいますよ」
「な、昨日の今日だぞ!」
蚊神は急いで二階に上がる。
追いかけようとする守衛をロモースが止める。
「いいですよ。危害は加えません。それに余裕
コンコン。
蚊神は扉を叩くと返事を待たずにすぐに開ける。
「おお!カガミくんだよね?どうしたの昨日はありがとうね」
「ビックスさん。昨日紹介したスシカなんですけど一度お会いしてもよろしいでしょうか?」
するとビックスは蚊神から視線を外す。
そして何かを考える。
「あーそのースシカちゃんね。昨日ね愛し合ってたら動かなくなっちゃって……多分、気持ち良すぎて失神してそのまま寝ちゃったんだと思うんだけど」
「ほ、本当に……?」
「今、起こそうか?」
ビックスは前屈みになって机を押しながら立ち上がる。
「隣の寝室にいるから」
蚊神は黙ってビックスの後ろについて行く。
寝室を開けると大きなベッドとまだ綺麗な化粧机があった。たくさんの化粧品も置いてあった。
そしてベットの上には仰向けで大の字になったスシカが昨日のドレスを着たまま目を開けていた。
「……起きてるのか?スシカ?──聞きたい事があるお前が持ってきた30万の事だがあれはどこで」
そこで蚊神は気づく一度もスシカが瞬きをしないことを。
「おいおい嘘だろ?」
「な、なんかスシカちゃんは目を開けたまま寝る人なのかな?」
ビックスはスシカに近づくと手を触る。
「あれなんか硬い」
蚊神も近づこうとするとビックスは表情を変える。
「近寄るな!この女は俺のだ!!早く帰れ!!」
「……わかりました」
な、何なんだよ。これどうなってんだよこの館。
一階に戻るとロモースが目を細くしながら口角をまるで口裂け女のように上げていた。
「死んでたでしょ?」
守衛も何故か満面の笑顔で拍手をしていた。
パチパチパチパチ。
蚊神はこの館の全てに恐怖を感じた。
こ、ここはやばい。まずいぞ。何もかもがここは俺らが都合よく使える所なんかじゃない、
「ああ。すいませんでした疑って」
「ビックス様は今から屍姦される事でしょうね。死体の膣は硬くて気持ちいいでしょうから。あははっあはははは!!!」
「おめでとう!」「おめでとう!!」
守衛が次々と拍手をしながらおめでとうと口にする。
「そこどいてください。帰りますから」
「あなたのせいですからね。あの女性が死ぬのも死んでからもおもちゃにされるのもビックス様は女性の頭を切って口腔でされるのがお好きですからね。うふふっあはは、あは、あは」
「それが仕事だ。覚悟は持ってる」
あなたのせいという言葉で蚊神の恐怖は和らいだ。
そんなことは百も承知だ。
俺が進む道はこういう事を平気でやる奴しか生き残れないから。
「どいてくれ」
構わず蚊神は守衛をどかして扉を開ける。
「あははっあはは!またのご来館お待ちしてますね蚊神空木さん」
領主の館に背を向けて歩き始める。
やはり明日、セイレンに協力してもらってスシカの30万がどこで手に入ったものなのか。調べないとな
泥沼の底は暗い暗い死という闇だった。
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