35話 大魔女の注文 (2)


床にぶつけた尻をさすりながらヴェニスは起き上がった。


「な、まさか聞かれてる?」


キャリーケースは笑い声をあげている。


これは無闇にメルダ先生のこと言えないね

どこで聞かれてるか分からないし


ワインボトルはテーブルに勢いよく落ちたので液体が少し溢れていた。


一応、ヴェニスは笑い声を上げるキャリーケースを持ち上げてなるべく自分と離れるように腕を伸ばして持っていた。


大きなクローゼットを開けて一番奥に置いた。


「どこに置いても同じですよ」


メルダが笑い声を上げながらキャリーケースから聞こえてくる。


ヴェニスはメルダがこんなに声を上げて笑う様子を想像できずにこのキャリーケースにさらに恐怖を感じる。


「……あのメルダ先生、聞こえてます?」


キャリーケースは何も言わなくなりまた悲鳴が聞こえ始める。


ヴェニスはクローゼットの扉を閉める。


全く困ったお客さんだな。

蚊神に会いたかったけど……そろそろこの国は出た方がいいかも。浸かりすぎると出るのが難しくなるし


その時、ドアがノックされる。


「はーい」


ヴェニスはドアの方まで向かった。

ドアを開けると胸のところに名札をつけたVIPビップスタッフが立っていた。


「ヴェニス様宛に連絡鳥が届いております。差出人はベルルベット・ギルジーニと」


「……ベルルベット?」


「お知り合いではございませんか?」


「そうだね。でも商談かもしれないから」


スタッフは軽く頷くと鳥籠を持ってきた。


「レンラク!レンラク!ベルルベットからレンラク!」


「私はドアの外におりますので」


スタッフはゆっくりとドアを閉めた。


ベルルベット?聞いたこともないな。


「いいよ。教えて」


連絡鳥は羽を広げる。


「アナタガ先日取リ引キシテ手ニ入レタ120万ハ使ワナイデ貰イタイ」


この人に言われなくても別にイマーゴを出るまでもちろん使わないけど……やっぱり白い金じゃなかったか。


「アナタガ先日…」


「あーもういいよ」


ヴェニスは鳥籠を開けて連絡鳥の頭を触る。

ヴェニスは連絡鳥に力点ポイントを流す。


「分かった。とりあえずは120万は使わない。ただ取り引きだ……ヴェニスより」


これがこの国で最後の商談だな。

……あ、ヴェニスよりはいらないか。


しかしすでに力点ポイントは途切れてしまっていた。


「まあいいか」


ヴェニスは鳥籠を閉めてドアを開く。


「お済みになりましたか?」


「じゃあこれベルルベットさんに返しておいて録音してるから」


「分かりました」


一度、お辞儀をすると鳥籠を両手で持つ。


「それでは失礼いたします」


ヴェニスがドアを閉めた。


「……はあ」


ヴェニスは2100万が入ったキャリーケースを手に持つとドアを開けて部屋を出た。



VIPビップ以上のフロアには馬車やその他の乗り物を止めるための駐機場があった。


馬車の馬は健康状態と狭い空間によるストレスを緩和する為に馬を預かる馬宿のシステムが用意されていた。


裏の目的として金を払わずにバックレる連中などが現れないようにという意味をあった。


ヴェニスの馬車は二両編成で一両目が縦に長い長方形の形をしており二両目がドーム状の円形だった。

改造した馬、四頭で動かしていた。


馬車にはバリアが囲まれていた。


ヴェニスは手のひらをバリアにつける。

するとちょうど人が一人が入れるぐらいの空間が開いた。


ドーム状の車体の前に着くと模様が集まりだして扉の模様になる。


ガッガッガ


扉が実態を持ち、扉までの階段も作られた。


ヴェニスは階段を上がり扉を開けた。


「おっ!帰ってきたな!」


部屋は訳のわからない機械や残骸その部品で溢れかえっておりお菓子の袋も混ざっていた。


「全くどうしてこんなに汚せるんだ」


その女性はオレンジ色の髪の毛を床にまでつくほど伸ばしていて白衣を身にまとっていた。身長は小さく子供に間違えられるほどだ。


「発展の裏側には環境の被害はつきものじゃないか」


ブカブカの白衣も袖が余っており手が見えなかった。白衣も髪の毛どうように床を引きずっていた。


「ゲーテこの国で最後の仕事、持ってきたよ」


「またかい?過剰労働だよ」


ヴェニスは自身の点能力ポインタースキルでゲーテが汚した部品やガラクタを動かしていく。


「処分するからな床に落ちてたら」


お菓子の粉がついてた床を綺麗にしてそこにヴェニスはあぐらをかいた。


「あーダメダメ何してるの君!化石だってね。周りの砂によって年代、毛並みや肌の色がわかるんだよ!」


「僕は無知な商人ですからね。全部捨てます──それになんか腐ってるし錆びてるのもあるよ?」


ゲーテはぴょんぴょん跳びながら浮いたガラクタを取ろうとする。


「知らないのかい!?異界では、腐ったアオカビから特効薬が出来たりしてるんだ!そのカビや錆から新たな発想が!」


ヴェニスは自分がゴミと判断したものをゲーテが開発した特大シュレッターに入れていく。


「もうもう!天才はいつも誰にも理解されず孤立するんだ!異界でねガリレオ・ガリレイという地動説論者がいてそれを邪魔する天動説の無知どもが地動説論者を殺したりしていたんだ!君も天動説論者だね!!」


ゲーテは早口でまくし立てる。


「僕は天動説でも地動説でもないよ」


「うるさい!君みたいな奴が魔女狩りを起こすんだ!無知め!」


「もう分かったよ」


ヴェニスはため息をついて残りのガラクタを綺麗にはじに寄せた。


「分かればよろしい。また一歩成長したね!」


ゲーテはヴェニスの前に歩いて行き「よいしょ」と言いながらあぐらをかいた。


「お金?」


ゲーテは袖をキャリーケースに向ける。


「そう前払いで2100万ある」


「あのねー君さー。作るのは私なんだよ?なんで何も聞かずにオーケーしちゃうのかね」


ヴェニスは後ろに手をついて天井を見る。


「僕だってやだったよ。でもね?今回のお客誰だと思う?」


「メルダ・マジェッタ・エルノビア」


ゲーテは即答で答える。


「よく分かったね」


「だって君が嫌なのに無理矢理、商売しなきゃいけない人なんてメルダ・マジェッタ・エルノビアぐらいしかいないじゃないか」


ゲーテは得意げに話す。


「……はあ。一番大変なのはゲーテだけどね」


ゲーテは後ろに寝転がる。

耳を塞いだ。


「ヤダヤダヤダ!なんでそんな非生産的な時間を過ごさなきゃいけないんだ!君がやれ!」


ヴェニスはゲーテの髪を浮かせる。

髪を浮かせながら綺麗に三つ編みにしていく。


「……お願いだよゲーテ。これが終わったらお休みにするしこの国から離れるからさ」


綺麗に三つ編みになった髪をゲーテは触った。


「………なに作るの?」


魔力の指輪マジックリングを3つ、転移門ワールドゲートを5つ」


ヴェニスは早口で喋る。


ゲーテは三つ編みになった髪を揺らす。


「……君も手伝えよ」


ヴェニスはゲーテの袖を掴んだ。


「さすが!天才!もちろん僕も手伝うよ!」


「ふふん。当たり前だよ」


ゲーテとヴェニスは作業に取り掛かった。



ゲーテ・オッペンノイマン


【学者 ☆6】 点能力ポインタースキル 独創型 


能力名 "99%の魔力と1%のひらめきエジソンインベンションズ


自身が作った発明品に作用点ポインターを込めるとさまざまな能力が発明品に宿る。

能力によって作用点ポインターの量が異なる。



ヴェニス・アントーニオ


【商人 ☆4】 点能力ポインタースキル 補助型


能力名 "魔動念力ポインターズ・ハイ


視認した力点ポイントが発生していない物体を自身の作用点ポインターを入れて自由に動かせる。

























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