31話 それぞれの仕事 (2)


蚊神と久蛾は井戸のふちに腰掛けていた。


「今日、昼なに食います?」


蚊神は井戸に生えてる雑草をちぎりながら尋ねた。


「んーそうだなパスタとか?」


「パスタかー。なんか白飯食いたい気分ですね」


「あんまねえよな白飯出してる所ここの国の主食はパンだから当然だけど」


蚊神は雑草を井戸の底に投げる。


「やっぱり日本食が恋しいですよ。日本食食いたくないですか?」


「いやー食いたい。特に寿司とかうなぎとかな」


久蛾は伸びをしながら答える。


「あ、もし俺が寿司屋になったらめっちゃ売れると思いません?」


「どうだろうな。ここの奴ら生もの食わねえし酢飯とか無理なんじゃね」


蚊神は井戸のふちから立ち上がって真剣に考える。


「じゃあ刺身は焼いて酢飯は普通の白飯にして最後に海苔を巻けば……」


「それおにぎりじゃね?」


「……おにぎり…ですね」


井田の底からピチャピチャと水飛沫が飛ぶ。


「フフッまあでもおにぎり屋とかは売れるんじゃないか?てかもうやってる奴いそう」


久蛾は少し笑いながら立ち上がる。


「老後はおにぎり屋ですかねー」


蚊神は井戸に括り付けているひもを引っ張る。

両手でさらに引っ張ると人間の足が出てきた。

さらに引っ張り地面についてる釘に蚊神は結んだ。


そこにはひもで縛り付けられた人が溺死寸前で赤い目をしながら蚊神と久蛾を見ていた。


「おおー死んでない」


久蛾が欠伸をしながら言った。


縛り付けられてる男は何か言おうとしているが口に巻き付いたひもと口にいられてる布で喋れなかった。


久蛾がナイフで紐を切る。

すると男は布を吐き捨てる。


「ゲホッゴホッ!すいませんすいません!もう絶対しません」


「いやーほんと?ここでまた生かしたら領主の館とか騎士団に逃げ込むんじゃない?」蚊神が言った。


親が残した少し広めの屋敷の井戸に屋敷の主人は縛られていた。


「もうしません!ほんっとに」


「俺は信じられないよ。一度やった奴は二度目も三度目もやる。だけどお前に死なれたら金が入らない」


久蛾はナイフを回転させながら言った。


「じゃ、じゃあどうしろと?」


目に水が入って痛いが屋敷の主人は目を開いて久蛾を見つめる。


「だからお前に恐怖を与える。殴ったり蹴ったりとかじゃないそれは軍人が相手に情報を吐かせる為の拷問だ」


「俺がやる拷問は植え付けるんだお前にトラウマをな身体を通して心に」


久蛾は主人の心臓を指で押す。


「指は何本いらないかな?目は1個で十分だよな?それとも頭蓋骨の皮膚を剥いで一生髪が生えないようにするか。その姿を鏡で見るたびに俺のことを思い出すように」


主人は目から涙が溢れる。

全身が寒気と恐怖で震える。


「それともこのナイフでグサッ!!っと」


久蛾はナイフを心臓に軽く当てる。

その瞬間、主人は泡を吐いて気絶する。


「このぐらい脅せば平気だろ」


最後に久蛾は括り付けたひもに紙で「今回のみ見逃す。次は左右の指を全て切る」と書いて屋敷を後にした。


「なんか珍しいナイフですね」


蚊神は久蛾がしまったナイフを指差す。


「これね※カマネから奪ったナイフだ」


※12話参照。


「あーあの幼女強姦魔やろうですか」


蚊神は嫌そうに顔を背ける。


「いいナイフだよ。しかも能力付き」


「………ヴェニスの野郎か」


ぼそっと蚊神は独り言を言った。


「ヴェニス?誰だそれ」


「能力がついた武器売り歩く商人です。カマネの奴も恐らく大金はたいてそれ買ったんだと思いますよ?」


久蛾はナイフを眺める。


「ふーん。じゃあラッキーだな」




イルイルイ堂はお客さんでごった返していた。

主婦や親父、子供だけで来てるお客もいた。


「ここは繁盛してんな」


久蛾はイルイルイ堂を見ながら中にいる大勢の客を見ていた。


「ここ入るの嫌ですねー」


蚊神は後頭部を掻く。


カランカラン。


扉を開くとベルの音が鳴り響く。


「お菓子売り場までありますよ?」


「子供が来るわけだ」


久蛾と蚊神は棒付きキャンディーを二本買うとレジに並ぶ。


「はい。次の方どうぞー」


会計をしていたルイル爺が次の客を呼ぶ。


「キャンディー2本。おつりは8万6000Gね」


蚊神が机にキャンディーを置きながら言った。


「何言ってんだいお客さ…」


ルイル爺が顔を上げると途端に口をひん曲げる。


「ここに来なくてもいいだろ?それに8万4000Gって俺が借りたのは14万だよ?」


「ルイルさんあんたの返済日は昨日だよ?遅延金が発生して借金の1割1万4000Gが発生したわけ」


蚊神がキャンディー二本分の300Gを机に出す。


「わかったよ。払えばいいんだろ?」


ルイル爺は並んでいる他の客を見ながらレジから8万4000Gを取り出す。


「はいよ」


ルイル爺は投げつけるように紙幣を机に置く。


「……毎度」


久蛾が置かれた紙幣を手に取る。


カランカラン。


蚊神と久蛾がイルイルイ堂を後にすると後ろを向きながら走ってきた少女が蚊神にぶつかる。


「イタ!」


少女が頭を抑える。


「……おお悪かったな──あ!そうだ。これやるよ」


蚊神はキャンディーを二本、少女に渡す。


「いいの!?」


少女はキャンディーを二本両手に持ちながらピョンピョン飛び跳ねた。


「えーいいな!」


後から来た男の子が羨ましそうにする。


「一本貰えばいいだろ」


蚊神が男の子に言った。


「やだよ!これは私のだからね!」


少女は両手にキャンディーを持ちながら走ってしまった。


「ええ。待ってよー」


男の子は息を切らしながら少女の所まで追いつこうと走り去る。


「……次行くぞ」


久蛾と蚊神はサロンティアの街を歩き回り返済日を遅れた債務者にあの手この手で集金していくのだった。















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